都市生活でのプラットフォーム内と外をゆるやかにつなげ、時の移ろいを映す家

都市生活でのプラットフォーム内と外をゆるやかにつなげ、
時の移ろいを映す家

建築家が自邸で空間配置を実験

取材前日にフランスから帰国したばかりの菅原さんは建築家。パリの国立建築・文化遺産博物館とフランス建築家協会の2カ所で講演を行ってきたという。

講演で主に取り上げたのは、昨年完成した埼玉の幼稚園と自邸を含む5作品。その自邸に今回はうかがった。「都市部に建つ実験住宅のプロトタイプのようなものをこの自邸ではつくりたかった」と菅原さんは言う。

建築家の自邸は、住の快適さを求めるだけでなく、施主がいる場合にはできないような実験的な意味合いをもたせることが多い。ここではまず、敷地が十分に取れない都市部での空間配置のあり方について考えたという。


2階のリビングダイニング。庭を囲うエキスパンドメタルの壁を通して隣接する住宅の形がぼんやりと見える。テーブル天板は床と同じバーチ材を使用。浮遊感を出すために、エッジ部分に角度をつけて薄く見せている。椅子は藤森泰司氏デザインのもの。

2階のリビングダイニング。庭を囲うエキスパンドメタルの壁を通して隣接する住宅の形がぼんやりと見える。テーブル天板は床と同じバーチ材を使用。浮遊感を出すために、エッジ部分に角度をつけて薄く見せている。椅子は藤森泰司氏デザインのもの。

正面のガラスの向こう側の階段部分も建物内の空間だが、1階から階段部分までを外部のように感じられるようサッシは外部用のものが使用されている。壁はざらついたテクスチャーにして、フラットな仕上げでは出せない陰影感のある表面を狙っている。

正面のガラスの向こう側の階段部分も建物内の空間だが、1階から階段部分までを外部のように感じられるようサッシは外部用のものが使用されている。壁はざらついたテクスチャーにして、フラットな仕上げでは出せない陰影感のある表面を狙っている。


周囲から守られた庭空間

「敷地全体を居場所としてとらえ、“建物と庭”というようにはっきりと切り分けてしまうのではなく、庭のような建物のような、建物のような庭のような、そんな場所をたくさんつくり、数値として表される広さ以上の居場所を生活空間として取り込むというのが大前提としてありました」

そのためにはまず、住宅とその周囲の庭というふうに、はっきりと分けるのをやめた。敷地の8割くらいまでを建物の外壁と、それと同じ様にしてめぐらせたエキスパンドメタルのメッシュの壁で囲い、その中に住空間と庭を収めた。そうすることで、庭空間に内部的な空気感も漂わせる一方で、室内からは、内部とも感じられる領域が外の庭にまで広がって感じられるようにしている。

また、メッシュの壁に白い塗装を施し、半透明ともいえる状態に。そうすることで、外の環境に対して視線を完全に切ってしまわず、周囲の環境までを連続した空間として感じ取れるようにしたという。


2階リビングダイニングより裏の庭を見下ろす。エキスパンドメタルの壁は2重になっていて、内側のみ白く塗られている。

2階リビングダイニングより裏の庭を見下ろす。エキスパンドメタルの壁は2重になっていて、内側のみ白く塗られている。

2階キッチンよりリビングダイニングを見る。

2階キッチンよりリビングダイニングを見る。


対角線上に視線が抜ける

これらの操作により、たとえば2階のリビングダイニングの空間からは、裏の庭までがプライベートな空間として認識され、それと同時に、メッシュの壁を通して敷地外への連続性も感じられるようになっている。さらに、敷地内でも連続性がもてるように考えられている。エントランス部分から1階内部を介して裏庭まで視線が抜けるように、敷地の対角線上の位置に寝室などの個室が寄せて配置されているのである。

この斜め方向の視線の抜けは、壁で空間を細かく区切られた通常の住宅では望めないものであるが、この住宅では、この他にも一般的な住空間では体験できない工夫がいくつか仕掛けられている。
そのひとつが1階に入ってすぐのスペース。なんと、敷地内に敷かれた砂利がそのまま内部にまで入り込み、そのまま裏庭へと抜けているのだ。

この砂利を使った内部空間をつくることで、内と外がゆるやかにつながり、内部のようにも外部のようにも感じられる空間が、庭だけでなく住宅の内部においても体験できるのだ。そして、このようなことが全体として、少しずつ感触の異なる空間がゆるやかにつながったような、少し不思議な感覚をこの家に与えている。


階段からリビングダイニングを見る。左は寝室。壁の絵は内海 聖史(さとし)さんの作品。この場所のために描かれた5作品から選ばれた2作品のうちのひとつ。外部環境を抽象化して取り込むという点ではこの住宅ともテーマが通じる。

階段からリビングダイニングを見る。左は寝室。壁の絵は内海 聖史(さとし)さんの作品。この場所のために描かれた5作品から選ばれた2作品のうちのひとつ。外部環境を抽象化して取り込むという点ではこの住宅ともテーマが通じる。

階段から1階を見下ろす。左はリビングダイニング。砂利がエントランスから内部まで連続して敷かれている。

階段から1階を見下ろす。左はリビングダイニング。砂利がエントランスから内部まで連続して敷かれている。


ちょっと癖のある箱

現代の土間ともいえるこの砂利空間ほどは目立たないが、シンプルな箱のように見える部分にも、また別の仕掛けが考えられている。

「この住宅に限らず、建物は長い時間使われるのが理想で、プラットフォームのようなものであるべきだと思っています。生活や周囲の変化を取り込むプラットフォームですね。そのために、一見抽象的でシンプルでありながら、ちょっと癖のある箱としてつくっています」

この「ちょっと癖のある」部分は実際にこの空間を体験してみないとわかりづらいが、リビングダイニングでは擦りガラスを使い、庭ではメッシュの壁で囲うことによって、住宅の周囲の環境を抽象化し、形というよりは色の集合体として取り入れているのだという。
そうすることにより、周囲の変化、移ろい行く時間の流れといったものが、内部に居ながらにして感じ取ることができるというわけだ。


1階の砂利空間から奥の庭を見る。正面は寝室。左の階段は外部階段のように感じさせるために鉄骨に。また、階段部分で視線をブロックしないようにできるだけ薄くした。左の靴箱は、ベンチやパーティ時のテーブルとしても使用される。

1階の砂利空間から奥の庭を見る。正面は寝室。左の階段は外部階段のように感じさせるために鉄骨に。また、階段部分で視線をブロックしないようにできるだけ薄くした。左の靴箱は、ベンチやパーティ時のテーブルとしても使用される。

砂利空間からエントランス側を見る。左が浴室。砂利は大きさとグレーの色合いを指定して取り寄せたサンプルの中から選んだ。外の風景を映しこむように、この天井のみツヤのある仕上げにしている。

砂利空間からエントランス側を見る。左が浴室。砂利は大きさとグレーの色合いを指定して取り寄せたサンプルの中から選んだ。外の風景を映しこむように、この天井のみツヤのある仕上げにしている。


グラデーショナルにつながるふるまい

このようにこの住宅にはさまざまな建築的な試みが盛りこまれているが、設計で狙った効果を実感する機会があったという。

「お披露目パーティの時に、この80㎡弱の家にいっぺんに50人くらい入ったんですね。その時にそれぞれが思い思いに過ごしていて、2階のLDでは室内のようなふるまい方をしつつ、でもオープンにつくってあるので庭にいる人たちとコミュニケーションを取りながら少し外にいるような感じでもふるまう。下の砂利空間は室内ですが外のようなふるまい方をしている。メッシュの壁に囲まれた庭では、外部だけど周囲の環境とは隔離された雰囲気があって、さらに同じ壁の外側では子どもたちが走り回っていました」

グラデーショナルにゆるやかにつながった空間の中で、50人ほどの人たちのふるまいがグラデーショナルに変化する様は、想定してはいたが、見ていてとても面白かったという。「ぶちっと切れずにずるずるとつながり変わっていく空間の中で、行為もずるずると変わっていくんですね」 


時とともに変化する外壁。鉄粉を混ぜた特殊塗料による仕上げで、雨風によって、この場所ならではの表情が刻まれていく。

時とともに変化する外壁。鉄粉を混ぜた特殊塗料による仕上げで、雨風によって、この場所ならではの表情が刻まれていく。

エントランス部分の庭から見上げる。

エントランス部分の庭から見上げる。

裏の庭に置かれた鍛金家の金森三恵子さんの作品。昼は周囲の風景を映しこみ、夜は照明となり砂利をなめるように光を放つ。

裏の庭に置かれた鍛金家の金森三恵子さんの作品。昼は周囲の風景を映しこみ、夜は照明となり砂利をなめるように光を放つ。

エントランスから奥の庭まで、1階の砂利空間を介して視線が斜めに抜けていく。

エントランスから奥の庭まで、1階の砂利空間を介して視線が斜めに抜けていく。


数年ほどフランスで暮らしたせいか、パーティをよく開くという菅原さん。古くからの友人を集めることもあれば、ちょっと知りあいになった人たちに声をかけることもあるそう。

寝室以外はオープンで、自由に使えるため、人を気軽に呼ぶことができるという。気軽な語らいを楽しむ、そうした機会でももちろん、ずるずるとグラデーショナルにつながる空間が、その効果を大いに発揮しているのだろう。 


同居されているお母様と。お母様も菅原さんの講演時に渡仏し、帰国したばかりであった。

同居されているお母様と。お母様もフランスから帰国したばかりであった。

菅原邸
設計 SUGAWARADAISUKE
所在地 東京都調布市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 76.3㎡