Architecture

自らも手を入れ、つくり上げた家中庭と吹き抜け空間で
開放感をたっぷり味わう

自らも手を入れ楽しんでつくり上げた家  中庭と吹き抜け空間で 開放感をたっぷり味わう。

贅沢な吹き抜け空間

「吹き抜けと中庭はぜったい欲しかった」と話すのはY邸の奥さん。以前から吹き抜け空間に憧れていたという。「中庭は周りから見えないけれど、ちょっとした開放感みたいな感じがいいなあとずっと思っていて」。

吹き抜け部分はリビングダイニング。中庭に面したこのスペースは、上方向だけでなく横方向にも開放感を存分に感じ取れる贅沢な空間だ。


2階から吹き抜け空間を見下ろす。床から天井まで4.8mあり、ゆったりとした開放感のある空間になっている。
2階から吹き抜け空間を見下ろす。床から天井まで4.8mあり、ゆったりとした開放感のある空間になっている。

中庭に面した場所には造り付けのベンチソファがあるが、これはYさんからの唯一のリクエストだった。「ごろごろできる場所がほしい」というリクエストに対して、建築家の谷口さんが考えたデザインはごろごろでき、かつ、腰掛けることもできるというものだった。Yさんは、この提案を一発で気に入ったという。

このソファから見える中庭は一見ふつうにつくられたもののように見えるが、建築家らしい一工夫がなされている。実は、土を盛って地面のレベルよりも高くしているのだ。


吹き抜け空間では、中庭に対して視線が抜けて横方向にも開放感を感じられる。中庭に面してつくられたベンチソファは腰かけるだけでなく、ごろりと横になれる広さがゆったりめに取られている。
吹き抜け空間では、中庭に対して視線が抜けて横方向にも開放感を感じられる。中庭に面してつくられたベンチソファは腰かけるだけでなく、ごろりと横になれる広さがゆったりめに取られている。
リビングダイニングからキッチンを見る。白の空間に、木とタイルの色が映える。
リビングダイニングからキッチンを見る。白の空間に、木とタイルの色が映える。

この中庭は2面が2層分の高さの壁に面しており、そのまま土を盛らずにつくると井戸のような感じになって深さを感じさせてしまう。谷口さんはそこで、「2面の壁が縦長になってしまうのをさけてプロポーション的に横長というイメージをつくりたいと思った」という。
結果、横長のプロポーションが見た目にゆったり感をつくり出し、またベンチソファにごろっとした時には庭のコンクリート面が通常よりも近く感じられて安心感みたいなものも生まれることになった。


リビングダイニングにあるライトや収納は奥さんが気に入って購入したもの。
リビングダイニングにあるライトや収納は奥さんが気に入って購入したもの。
キッチンはリビングに対面する配置を奥さんが希望。「料理しながら子どもたちもよく見えるので安心です」。
キッチンはリビングに対面する配置を奥さんが希望。「料理しながら子どもたちもよく見えるので安心です」。


キッチンには奥さんが希望したタイルが貼られている。指定のタイルの中から谷口さんが使用する色を提案したという。
キッチンには奥さんが希望したタイルが貼られている。指定のタイルの中から谷口さんが使用する色を提案したという。

色にこだわり自ら塗装も

この中庭に廊下を介して面しているのが奥さんの作業スペースだ。「ドアで仕切るのではなくて、子どもが遊べるように、そして子どもを見ながら仕事ができるようにつくってほしいとお願いしました」(奥さん)
このスペースでは刺繍でアクセサリーをつくるほか、絵を描いたりミシンがけもされるという。吹き抜けの白い空間に対して淡いブルー系の色味が特徴的だ。この色は奥さんが指定したものという。


キッチンから玄関方向を見る。高くした中庭との関係で生まれた段差が変化を生み、この家の特徴のひとつになっている。
キッチンから玄関方向を見る。高くした中庭との関係から生まれた段差が空間に変化を生み、この家の特徴のひとつになっている。
リビングダイニングの壁。圧迫感が出ないように開けられたが、上部のカーヴが柔らかな印象を空間に与える。
リビングダイニングの壁。圧迫感が出ないように開けられたが、上部のカーヴが柔らかな印象を空間に与える。


この家では設計時に、まず好きな色味をいくつか伝えた上で、ここはこの色の系統にしてほしいと谷口さんにリクエストした。谷口さんのほうで色の濃淡などを考慮して使用する色味を具体的にサンプルなどで提示し、その中から奥さんが選んでいったという。
さらに、以前はマンガを描かれていたという奥さんが自ら塗装まで手がけた部分もあったという。玄関を入って正面の、靴箱の上の壁の部分がそれで、色とりどりに塗られた木片がきれいに立てられて壁を埋めているのだ。


「自分の好きなようにつくれてとても気に入っている」という奥さんの作業スペース。以前マンガを描かれていたので、棚にはマンガの本がずらりと並ぶ。机の上部には、仕事でつくられた刺繍によるアクセサリーが並ぶ。
「自分の好きなようにつくれてとても気に入っている」という奥さんの作業スペース。以前マンガを描かれていたので、棚にはマンガの本がずらりと並ぶ。机の上部には、仕事でつくられた刺繍によるアクセサリーが並ぶ。
玄関を入って正面の壁は奥さんが自ら塗った木片がカラフルに並べられている。アンティーク風味が加えられているのがミソだ。
玄関を入って正面の壁は奥さんが自ら塗った木片がカラフルに並べられている。アンティーク風味が加えられているのがミソだ。

「船の廃材を使った椅子やテーブルなどの家具が売られているんですが、いろいろな色が混ざっていてずっとそれがかわいいと思っていたんです。リビングのライトを見た時に、それっぽいなと思って気に入って購入しました。玄関のところもそのようにしたかったんですが、コストがかかるということで自分で塗ることにしました」
ペンキを塗った上に、さらにアンティーク風味を出す塗料を重ねた。「塗る作業は楽しかったし、意外にちゃんとできたので良かった」と奥さん。谷口さんも「ご自分で手を入れていただいたので、“お2人の家”という感じがすごく出て良かった」と言う。


特徴的なアプローチ。夏には土の部分が草木で緑に埋まるという。
特徴的なアプローチ。夏には土の部分が草木で緑に埋まるという。
裏の駐車場から見たY邸。左側にリビングダイニングがある。
裏の駐車場から見たY邸。左側にリビングダイニングがある。
ルーフテラスから見る。テラスの下は寝室。
ルーフテラスから見る。テラスの下は寝室。
 
中庭のミモザは春に黄色の花が咲いてきれいだという。
中庭のミモザは春に黄色の花が咲いてきれいだという。


夫妻のお気に入りの場所はやはり設計時にそれぞれがこだわったところだった。「リビングが明るいのですごく気に入っていて、お茶を飲んだりするだけでリラックスできます」と奥さん。Yさんのお気に入りもリビングで、理由はやはり「ごろごろとできるので」。
しかし、Yさんのお気に入りのベンチソファをいちばん使っているのは上のお子さんだという――飛んだり跳ねたりと、夫妻や建築家の想定とはまったく異なる活用の仕方をしているのだけれども。


Y邸
設計 谷口智子/ティー・プロダクツ建築設計事務所
所在地 東京都清瀬市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 98.26m2