Architecture

門型を連ねて生まれた家ミニマルながら
豊かなニュアンスを秘めた空間

160523_k

心地のいいものだけに囲まれて過ごしたい

建築家へはかなり細かいところまでリクエストを出したが、「光が気持ち良く入ることと、風通しがいいことがまずいちばんでした」と話すのはK邸の奥さん。

また、夫婦ともに「面積的には広くなくてもよくて、家族が住むのに必要な分が確保できればいい。けれども、空間の質や自分たちが好きなものにこだわって心地のいいものだけに囲まれて過ごしたい」という思いがすごく強かったという。


ソファはグレーだったものを室内に合わせて白に張り替えたという。
ソファはグレーだったものを室内に合わせて白に張り替えたという。
壁面を覆うカーテンが空間に柔らかな印象を与える。K邸のカーテンは場所に合わせてすべて異なるものを使用している。
壁面を覆うカーテンが空間に柔らかな印象を与える。K邸のカーテンは場所に合わせてすべて異なるものを使用している。


玄関入ってすぐがリビングのスペース。奥にダイニング、予備室と続く。奥さんは「あるべき場所にモノがきちんとしまえて、気に入ったものしか目に入らなくて居心地がいい空間」と言う。
玄関入ってすぐがリビングのスペース。奥にダイニング、予備室と続く。奥さんは「あるべき場所にものがきちんとしまえて、気に入ったものしか目に入らなくて居心地がいい空間」と言う。

そこで、好きな雰囲気の建物をピックアップしてシートにまとめて建築家に渡した。「あと、ファッションや家具についても好きなテイストのものをピックアップしてお渡ししました」
自分たちにとっては、ヴィジュアル的な部分のプライオリティがとても高いと話す奥さん。
手入れがしやすいとか掃除がしやすいといったことよりも、とにかく目に入るものが美しくて気持ちがいいということのほうが優先度が高いため、自分たちの好きなテイストをしっかりと建築家に伝えていったという。


壁の開口の位置が左右にずれていて目線がまっすぐ奥まで通らないため、実際よりも奥行きが感じられる。
壁の開口の位置が左右にずれていて目線がまっすぐ奥まで通らないため、実際よりも奥行きが感じられる。
ダイニングのカーテンも他とは違ったデザインで、白の色合いも異なる。
ダイニングのカーテンも他とは違ったデザインで、白の色合いも異なる。


予想外だった門型案

そこで建築家の西村さんから出てきた案は、高さと厚みの異なる箱を前後に並べたものだった。別の言い方をすると、それぞれの箱の中央部分は奥に向かって抜けているため、門型を連ねた案ということになる。

リクエストを出した際には「有名建築家のこの作品」というように具体的に提示するほど、夫妻ともに建築が好きで知識も少なからずあったが、この案は予想外のものだったという。 

「最初に、玄関、リビング、ダイニング、予備室の順に箱を重ねたようにすると聞いたときに、すごく素敵だなと思って。全体の面積が限られたところで部屋数がいくつほしいというようなお話もしていて、間取りもある程度決まってしまうのではないかと思っていたら予想外な提案が出てきたので、それはすごくウエルカムで面白いなと思いました」


ダイニングテーブルに置かれた花の緑と紫の色味が白い室内に映える。
ダイニングテーブルに置かれた花の緑と紫の色味が白い室内に映える。
奥の予備室から玄関方向を見る。かわいいデザインのチェアは建築家石上純也氏デザインの「ファミリーチェア」。
奥の予備室から玄関方向を見る。かわいいデザインのチェアは建築家石上純也氏デザインの「ファミリーチェア」。


見て、即、お2人とも気に入ったというこの案は、まずは、52m2という狭小な敷地にもかかわらず狭く感じないようにとの配慮から考えられたものだった。「敷地の面積が狭いんですが、天井を高くすることで開放感が出て広く見えるとか、壁の配置によって目線がジグザグになることで奥まで一気に見渡しにくくなり、広く見えるという説明を受けて、なるほどと思いました」。

実際に住んでみると、内部の開口位置が右左にずれていることによって奥行きが感じられ、まったく狭く感じないという。


室内の色は白ありきでスタートしたのではなく、細かく検討を重ね、決めていくうちにすべてが白くなったという。
室内の色は白ありきでスタートしたのではなく、細かく検討を重ね、決めていくうちにすべてが白くなったという。
空間に質感と奥行きを与えるヘリンボーン模様。白く塗装をした後に、削ってこの色合いに仕上げている。
空間に質感と奥行きを与えるヘリンボーン模様。白く塗装をした後に、削ってこの色合いに仕上げている。


豊かなニュアンスをもつ空間

空間のヴィジュアルの部分に強くこだわったというK夫妻。空間は一見、ミニマルでシンプルな印象だが、体感はそうではなく、とても豊かなニュアンスを感じ取れる空間だ。

まずはリビングからダイニングの奥にある予備室までそれぞれの部屋の質が一様でなく、変化に富んでいる。光が空間の高さと広さ、開口が設けられた高さと向きによりずいぶんと異なり、部屋を移動するだけで自然に気分も変わるのである。


2階から階段を見下ろす。
2階から階段を見下ろす。
2階へ上る階段はサイドの部分が収納になっている。
2階へ上る階段はサイドの部分が収納になっている。
2階は将来子供部屋になる。
2階は将来子供部屋になる。
予備室に置かれたチェアはフィリップ・スタルクの「MISSLACY」。
予備室に置かれたチェアはフィリップ・スタルクの「MISSLACY」。


空間を満たす光の質によって、同じ白色に塗られた壁が微妙に異なる色合いに見えるのも、そうした気分の変化に無意識のうちに作用しているのだろう。さらに、ヘリンボーン模様に張られた床も効果大のようだ。
白く塗装をした上で微妙に表面を削って木の色味を少し出している。ランダムに塗装をしたようにも見えるが、これによって質感が出て奥行き感も増し、空間も広く感じられるという。


リビングの天井からは建築家のセレクトによるフォスカリーニの「リチュアルズ」というペンダントライトが吊り下がる。
リビングの天井からは建築家のセレクトによるフォスカリーニの「リチュアルズ」というペンダントライトが吊り下がる。
ヴィジュアルにこだわるK夫妻。建築家に出したリクエストにはテレビの配線が見えないようにしたいというものもあった。
ヴィジュアルにこだわるK夫妻。建築家に出したリクエストにはテレビの配線が見えないようにしたいというものもあった。
地下から見上げる。
地下から見上げる。


そしてさらに、空間に豊かなニュアンスをもたらすのに寄与しているのが開口部に設けられたカーテンだ。柄はすべて異なり白さも微妙に異なっている。

「玄関のところにカーテンを1枚上からかけようというのをご提案いただいたんです。それだけですごく雰囲気が柔らかくなるというお話でした。そのほかのカーテンは引っ越しをしてから夫と2人ですべて決めました」


玄関脇の壁に取り付けられた花型のライト。奥さんのお気に入りという。
玄関脇の壁に取り付けられた花型のライト。奥さんのお気に入りという。

詩的な家

「夫は詩的な家が出来上がったねって言って」と奥さん。この「詩的」という言葉、すごく繊細で言葉では表現しにくいようなものの積み重ねだけれども、肌ではしっかりと感じられる…空間から受けた印象から、そのような意味に理解した。
  
「自分たちのライフスタイルに本当にぴったりの空間」とは奥さんの表現だ。違和感なく空間とお互いになじんでいるように感じるという。「引っ越し当初から居心地が良かった」とも。まさにお2人の世界観にぴったりの空間を手に入れた、と言っても誇張にはならないだろう。


K邸

K邸
設計 西村幸希建築設計
所在地 東京都世田谷区
構造 混構造
規模 地上2階地下1階
延床面積 66.42m2