Architecture

夫婦それぞれの思いを実現した家緑と光と風とアトリエ…
別荘ライクでコージーな空間

夫婦それぞれの思いを実現した家 緑と光と風とアトリエ… 別荘ライクでコージーな空間

3年間探した敷地

「敷地はまず緑の見えるのが第一条件だった」と話すのは平野邸の奥さん。平野さんは「都心だと、三方をほかの家に囲まれていて、道をはさんで向かいにも家が建っているところが多い。そういう囲まれた土地ってすごく圧迫感を感じるので、環境さえ良ければどこでもいいという感じで探し始めました」と言う。

この条件に合えば都内のどこでも良かったし、また土地があったらすぐにでも建てたかったが、なかなか見つからず、結局、土地を購入するまでに3年ほどかかったという。

そして見つけたのは、両サイドに家は建っているものの、裏の北側は緑あふれる公園が斜面でぐっと下がった位置にあって眺望も開けているという、お2人の希望に十分かなうものだった。この立地がこの住宅の特徴的な外観をつくることへとつながるが、まずは家を建てる際にした建築家へのリクエストについて平野さんにうかがってみた。


1階は部分的に中2階があり、自転車やアウトドアのグッズなどが置かれている。玄関は自転車を通すために通常よりも広めの120cmにしている。
1階は部分的に中2階があり、自転車やアウトドアのグッズなどが置かれている。玄関は自転車を通すために通常よりも広めの120cmにしている。
ロフト階に置かれた自転車。天井から吊り下げている器具はディスプレイのためだけでなく自転車の上げ下げもできる。
ロフト階に置かれた自転車。天井から吊り下げている器具はディスプレイのためだけでなく自転車の上げ下げもできる。
アトリエのテ―ブルの上には彫刻刀が置かれていた。平野さんが小学生のころから使っているものという。
アトリエのテ―ブルの上には彫刻刀が置かれていた。平野さんが小学生のころから使っているものという。


玄関側から1階のアトリエスペースを見る。奥に、浴室とトイレがある。
玄関側から1階のアトリエスペースを見る。奥に、浴室とトイレがある。

まずはアトリエ空間

メーカーでプロダクトデザイナーを務める平野さん。「自転車が趣味で、また彫刻をしたりとものをつくるのが子どものころからずっと好きなので、そういうことを気兼ねなくできるアトリエ空間がほしかったんです。僕の第一の希望はこれでした」。あとは、モノが多いため、それを収納できる空間がほしいと建築家に伝えたという。

この1階のアトリエを土間にしたのも平野さんからのリクエストだった。「土間なら木を切ったり塗装をしたりしても汚れが気にならない。自転車を家の中に持ち込んでメンテナンスしたりもするのでかなり広めの土間スペースにしてもらいました」。さらに自転車の出し入れがあるので玄関の開口をふつうよりもかなり幅広に取ってもらったという。


同じく2階南側のスペース。机の上には奥さんが収集してきた小物が並べられている。
同じく2階南側のスペース。机の上には奥さんが収集してきた小物が並べられている。
2階南側の壁にはキャンバスに布を張ったものが立てかけられていた。布は海外勤務時に北欧で購入したものという。
2階南側の壁にはキャンバスに布を張ったものが立てかけられていた。布は海外勤務時に北欧で購入したものという。


ロフトスペースから2階の南側の空間を見下ろす。佳乃さんは梁から吊り下げられたハンモックで休むのも好きという。
ロフトスペースから2階の南側の空間を見下ろす。佳乃さんは梁から吊り下げられたハンモックで休むのも好きという。

仕切りがなく光と風が感じられる家

1階のアトリエ部分では平野さんの意見を通したので、2階から上の部分に関しては、ほとんど奥さんの佳乃さんからのリクエストが建築家に伝えられたという。 

「基本は光と風が感じられる家をつくりたいというのがありました。それと、間仕切りは圧迫感を感じるので、仕切りのない空間で、風が抜けて光も反射などしていろいろなところに入ってくる感じにしたいと思いました」


1階と同様、空間を仕切る壁はない。大物は下のロフト階に納めているため、必要最低限の家具と好きな小物だけでまとめたコージーな空間になっている。
1階と同様、空間を仕切る壁はない。大物は下のロフト階に納めているため、必要最低限の家具と好きな小物だけでまとめたコージーな空間になっている。

こうしたお2人のリクエストを受け止めたのは、実は佳乃さんが勤める建築事務所の代表の土田さんだった。ということは、施主である佳乃さんが事務所のボスのもとで設計を行うというめったにないシチュエーションで進められたということになる。お互いやりにくいところもあったのでは?と思うが、むしろメリットのほうが大きかったようだ。

「検討中にいろいろと寄り道したりというのが丸見えなのでやりにくいところもありましたが、佳乃さんの感覚は一緒に仕事をしてきてなんとなくわかっていたし、旦那さんについても設計が始まる前から彼女から話をいろいろ聞いていたのでどういう人なのかもわかっていました。こういう感じにしたら彼らの生活に合うだろうなというのはなんとなくイメージはできたので、その点はすごくやりやすかったですね」(土田さん)


上のロフトは寝室スペースになっている。天井高をぐっと抑えて、アトリエの天井高をかせいでいる。
上のロフトは寝室スペースになっている。天井高をぐっと抑えて、アトリエの天井高をかせいでいる。
LDKの隅のスペースに置かれたアポロ宇宙船の模型と宇宙飛行士のフィギュア。平野さんが購入したもの。
LDKの隅のスペースに置かれたアポロ宇宙船の模型と宇宙飛行士のフィギュア。平野さんが購入したもの。


キッチンも収納に扉を付けずすべて見せている。建築家ならではのコーディネーション感覚が光る。
キッチンも収納に扉を付けずすべて見せている。建築家ならではのコーディネーション感覚が光る。
ダイニング近くには奥さんが集めた小物たちとともに平野さんの木彫作品も置かれていた。
ダイニング近くには奥さんが集めた小物たちとともに平野さんの木彫作品も置かれていた。
南側のスペースにつくられた棚に置かれた小物たち。
南側のスペースにつくられた棚に置かれた小物たち。


2つの巣箱

この家は立地から導き出された特徴的な外観をもっている。巣箱のような三角屋根のボックスがまったく同じ大きさ、同じ高さで南北それぞれの壁から突き出ているのだ。

「南側は真南から陽が入るんですが、開口を大きく開けてしまうとプライバシーが保てないのである程度しぼらないといけない。北側もすごく眺望が良いんですが、開口を取りすぎると結露などの問題があるので、その折り合いがつくあたりということでこのサイズにしました」(土田さん)。緑を眼下に収めた北側のテラスに出ると、鳥たちの囀りも盛んに聞こえてきてまるで別荘地にでも来たかのようなゆったりとした気分になる。

この巣箱を両端にもつ2階もとてもコージーな空間だ。自転車など持ちモノが多いことから下のロフト階を収納スペースにしたため、2階は必要最低限のモノとお気に入りの小物たちだけが置かれ、横長の空間が気持ち良いほどすっきりとしたスペースになっている。南北ともに視線が外へとすっと抜けて開放感も感じられる。室内の両端にある吹き抜けもその開放感を強めている。


2階のLDKスペース。床の木の色と壁の白色がベースとなった中でソファの藍色が映える。
2階のLDKスペース。床の木の色と壁の白色がベースとなった中でソファの藍色が映える。

最後にお気に入りの空間についてうかがった。「僕はああいう空間をつくるのが自分の家づくりのモチベーションのいちばん大きなところでもあったので、やはりアトリエですね。今まで東京でマンションなどに住んでいてフラストレーションに感じていたことがすべて解消されているし、自転車を整備したりつくりたいものをつくったりしてアトリエで過ごすのがすごく好きで、本当に建ててよかったなと思いますね」(平野さん)


佳乃さんはこのテラスの手前のスペースで過ごすのが好きという。
佳乃さんはこのテラスの手前のスペースで過ごすのが好きという。
テラスに出ると、緑が目の前に広がり、都内ながら別荘気分を味わえる。
テラスに出ると、緑が目の前に広がり、都内ながら別荘気分を味わえる。
すぐ近くにサクラの木が何本かあって春には花見の会が開かれたという。
すぐ近くにサクラの木が何本かあって春には花見の会が開かれたという。
2人で過ごすのにちょうどいいテラススペース。
2人で過ごすのにちょうどいいテラススペース。



南北ともに視線がそのまますっと外へと抜けていく。両端が吹き抜けになっていて開放感を強めている。
南北ともに視線がそのまますっと外へと抜けていく。両端が吹き抜けになっていて開放感を強めている。

佳乃さんのお気に入りは北側のテラスに面した室内スペースという。「お茶を入れて本などを読みながら緑を見るのが好きで、冬はラグを敷いていたんですが、あの場所でくつろぐ時間がとても好きですね」
北側からは緑を通り抜けてきた風が気持ち良く南へと抜けていく。モノづくりをするお2人にとって、この家はまたとないリフレッシュする時間を提供しているように感じられた。


南(表)側にも巣箱のようなテラスが付く。珍しい質感の外壁は一般的な窯業系サイディングを裏返しにして使っている。
南(表)側にも巣箱のようなテラスが付く。珍しい質感の外壁は一般的な窯業系サイディングを裏返しにして使っている。
平野邸
設計 no.555一級建築士事務所
所在地 東京都
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 81.98m2(ロフト、テラス含まず)