Architecture

考え抜かれたオリジナリティ外から見ると三つの棟
中に入ると一つの空間

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オリジナリティを楽しむ

「同じような家がない。オリジナリティがあるところをとても気に入っています」と声をそろえる泉谷さん夫妻。東京都府中市に今年の3月に建ったご夫妻の家は、つい目を奪われるような面白い外観を備えている。それは3つの棟を並べたようなユニークな構造。一体中がどうなっているのか、好奇心をかきたてられる。

この家に暮らすのは、夫の武文さん、妻の美貴さん、3歳の柊羽くんの3人家族。「ずっとマンションに住んできたのですが、騒音を気にせずに思い切り柊羽を遊ばせてあげたいと思うようになったんです」と、ご夫妻は家づくりの動機を教えてくれた。

そこでご夫妻が設計を依頼したのは、既存の枠にとらわれない自由な試みを実現した物件を手がける建築設計事務所・アイボリィアーキテクチュアの永田賢一郎さんと原崎寛明さんだった。実はこの永田さんは、美貴さんの弟。弟が姉ファミリーの家を手がけるという、アットホームな家づくりが始まった。


階段に仲良く並んだ泉谷さん一家。
階段に仲良く並んだ泉谷さん一家。

三つの棟が生み出すもの

ユニークな外観は、奇をてらったものではない。永田さんは「最初に考えたのは、普通の四角のプランでした。東南の角地という絶好のロケーションに合う設計を考え抜いた結果、この形になったんです」と振り返る。

泉谷邸は、東に向く棟と南に向く棟の間から、東南に向く棟が斜めに張り出した構造。さらに東南の棟のフロアだけが半階分ずらされている。この工夫によって、いろいろな方向から光と風が入り、東、東南、南の3方向の風景が楽しめるのだ。

「床面積が広くなる、棟同士の隙間を庭として使える、リズムのある動線が楽しいなど、三つの棟から生み出されたものは多いんです」と話す原崎さん。ご夫妻は、「すごく考え抜いてくれて出来上がった個性的な形。2人とも『いいね!』とすぐに気に入りました」と教えてくれた。


東南から見た外観。「3つの棟のエッジが出過ぎないよう、外装は鏝のあとが残るモルタル仕上げにし、あえて仕上げ材はなしにしました」(原崎さん)。東南の塔の中2階より下の部分は、駐輪場と納戸になっている。
東南から見た外観。「3つの棟のエッジが出過ぎないよう、外装は鏝のあとが残るモルタル仕上げにし、あえて仕上げ材はなしにしました」(原崎さん)。東南の棟の中2階より下の部分は、駐輪場と納戸になっている。
南から見た外観。南と東南の棟の隙間には庭をつくった。
南から見た外観。南と東南の棟の隙間には庭をつくった。
東から見た外観。左下のメッシュフェンスの奥は駐輪場。中央に見える金属の板の内側は階段になっている。
東から見た外観。左下のメッシュフェンスの奥は駐輪場。中央に見える金属の板の内側は階段になっている。


縦横につながる空間

泉谷さん夫妻が家づくりで一番大切にしていたこと、それは家族がつながることだった。「子どもが大きくなっても、部屋にこもらずに顔を合わせる家にしたかったんです」と武文さん。それに答えるべく、永田さんと原崎さんは間取りを熟考した。

そして生まれたのは、玄関を入るとすぐにリビングダイニングが広がり、階段がすべての部屋をつなぐ間取り。1階のリビングダイニングから階段をあがると、まず中2階に書斎が設けられ、さらに半階あがるとそこには子ども部屋と寝室が続いている。その上にはたっぷりと日差しが注ぐ屋上もつくられた。


中2階から玄関を見下ろす。玄関を出入りする家族の姿がよく見える。
中2階から玄関を見下ろす。玄関を出入りする家族の姿がよく見える。
東南の棟の中2階の下のスペースを活かしてつくられた駐輪場。すっと出して乗れるのが便利。
東南の棟の中2階の下のスペースを活かしてつくられた駐輪場。すっと出して乗れるのが便利。


家のすべての床のうち、中2階だけは違う材を用いた。「中2階は特別な場所にしたかったんです。寄木細工のようで意匠性の高いパーケットフローリングを取り入れました」(原崎さん)。他の床と色合いは合わせ、すっきりした印象は保っている。
家のすべての床のうち、中2階だけは違う材を用いた。「中2階は特別な場所にしたかったんです。寄木細工のようで意匠性の高いパーケットフローリングを取り入れました」(原崎さん)。他の床と色合いは合わせ、すっきりした印象は保っている。
中2階から2階へ、2階から屋上へとリズミカルに続く階段。「座ったり遊んだり、楽しめる場所にしたかった」という永田さんの狙い通り、柊羽くんのいい遊び場所になっている。
中2階から2階へ、2階から屋上へとリズミカルに続く階段。「座ったり遊んだり、楽しめる場所にしたかった」という永田さんの狙い通り、柊羽くんのいい遊び場所になっている。
家で仕事をすることも多い武文さんだが、完璧に隔離された書斎は欲しくなかったそう。「上にも下にもつながりがあって家族の気配が感じられる。このくらいの書斎が僕は好きです」。
家で仕事をすることも多い武文さんだが、完璧に隔離された書斎は欲しくなかったそう。「上にも下にもつながりがあって家族の気配が感じられる。このくらいの書斎が僕は好きです」。


子ども部屋があるのは、南の棟の2階部分。扉を設けず空間をつなげているので開放感も明るさもたっぷり。
子ども部屋があるのは、南の棟の2階部分。扉を設けず空間をつなげているので開放感も明るさもたっぷり。
中2階から屋上までは、吹き抜けが空間をつなぐ。天井の段差が空間にリズムをつくりだしている。
中2階から屋上までは、吹き抜けが空間をつなぐ。天井の段差が空間にリズムをつくりだしている。


子ども部屋で遊ぶ柊羽くん。ショベルカーやタンクローリーなどの働く車が大好き。階段の隙間から左下に見えるのは武文さんの書斎。
子ども部屋で遊ぶ柊羽くん。ショベルカーやタンクローリーなどの働く車が大好き。階段の隙間から左下に見えるのは武文さんの書斎。
2階から中2階と屋上の方を見る。左は寝室の扉。2階は南の棟、屋上と中2階は東南の棟、寝室は東の棟に振り分けられているが、内部空間は見事につながっている。
2階から中2階と屋上の方を見る。左は寝室の扉。2階は南の棟、屋上と中2階は東南の棟、寝室は東の棟に振り分けられているが、内部空間は見事につながっている。
東南の棟の一番上につくった屋上は日当たり抜群。外からの目線を気にせずに洗濯物を干せる。
東南の棟の一番上につくった屋上は日当たり抜群。外からの目線を気にせずに洗濯物を干せる。


これからの時間を楽しみに

ユニークで愛着のわく外観と、考え抜かれた間取りを兼ね備えた泉谷邸。3歳の柊羽くんも、この家づくりを満喫したようだという。「叔父さんと同じでものづくりが好きなのか、打合せのときも大人に混じって図面を見ながら『ここぼくの部屋だ』ってやってました(笑)」(武文さん)。この家を建ててから始めた家庭菜園のミニトマトやキュウリには、菜園隊長として水をあげ、収穫を楽しみにしているそうだ。「『次はスイカをつくる』って張り切っています」(美貴さん)。

「屋上からは方角的にちょうど府中の花火大会が見えるそうで、楽しみにしています。これからは友達を呼んでBBQもしたいですね」と、泉谷さん一家はこの家ではじめて迎える夏を心待ちにしていた。


「キッチンは広くしてほしい」という美貴さんの希望通り、かなり大きくつくった対面式キッチン。ここから家族の楽しいコミュニケーションが重ねられていくのだろう。
「キッチンは広くしてほしい」という美貴さんの希望通り、かなり大きくつくった対面式キッチン。ここから家族の楽しいコミュニケーションが重ねられていくのだろう。
玄関には、靴の脱ぎ履きに便利なベンチをつくりつけた。ドアの右にあるのは、外とつながる郵便の受け取り口。玄関扉やベンチと同じ材でつくったそう。
玄関には、靴の脱ぎ履きに便利なベンチをつくりつけた。ドアの右にあるのは、外とつながる郵便の受け取り口。玄関扉やベンチと同じ材でつくったそう。
玄関は広く贅沢に。ただの入り口ではなく家族のコミュニケーションの場にもなる。
玄関は広く贅沢に。ただの入り口ではなく家族のコミュニケーションの場にもなる。
 


柊羽くんが大事に育てたミニトマトには、たくさんの実がついていた。
柊羽くんが大事に育てたミニトマトには、たくさんの実がついていた。
玄関にすわってくつろぐ美貴さんと柊羽くん。
玄関にすわってくつろぐ美貴さんと柊羽くん。
 
泉谷さんご一家と、設計を手がけたアイボリィアーキテクチュアの永田さん(右から2人目)、原崎さん(右)。
泉谷さん一家と、設計を手がけたアイボリィアーキテクチュアの永田さん(右から2人目)、原崎さん(右)。


アイボリィアーキテクチュア
IVolli architecture

泉谷邸
設計 アイボリィアーキテクチュア
所在地 東京都府中市
構造規模 木造2階建
敷地面積 90.00m2
建築面積 46.98m2
延床面積 99.28m2