Architecture

高台から富士山を望む家和に台湾テイストをプラス
ゆったり落ち着ける空間

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富士山を望むロケーション

建売りの住宅に住んでいたが、自分たちの理想の家をつくって住みたいという願望があったというS夫妻。
Sさんはこの土地を見た瞬間に、高台で富士山がよく見えて、駅にも近いロケーションが気に入り、「ここならいい家ができるのではないか」と思ったという。


高台に建つS邸。晴れて雲の少ない日には正面に美しい富士の姿を望める。
高台に建つS邸。晴れて雲の少ない日には正面に美しい富士の姿を望める。

小学校の教員をされているSさんは、文科省に派遣され台湾の日本人学校で2年間教えたことがある。1階リビングの壁面には、その際に奥さんが集めたものなどが納められている。この空間は白と黒のイメージが強いが、Sさんには日本の蔵のイメージもあったという。
小学校の教員をされているSさんは、文科省に派遣され台湾の日本人学校で2年間教えたことがある。1階リビングの壁面には、その際に奥さんが集めたものなどが納められている。この空間は白と黒のイメージが強いが、Sさんには日本の蔵のイメージもあったという。

喫茶店のように落ち着ける空間

建築家の七島さんと佐野さんへのSさんからの要望は、当然「このロケーションを楽しめる」ことがあったが、空間のイメージとしては「和風モダン」、そして、「喫茶店や台湾の茶藝館のような落ち着ける雰囲気の空間」というものだった。

この空間イメージがもっとも実現されているのが1階のリビングだ。敷地形状と同様に東西に長い大きめのリビング空間には、台湾で購入した茶器や奥さんが制作された切り絵を納めた棚を挟むように壁柱が何本も並び、それらがそのまま天井まで延びて空間を幾重にも黒く縁取っている。


台湾で購入した茶器の納まる棚。
台湾で購入した茶器の納まる棚。
台湾時代に奥さんが習って制作した切り絵も何点か棚に置かれている。
台湾時代に奥さんが習って制作した切り絵も何点か棚に置かれている。


茶器や切り絵などの印象もプラスされ、和と中華がミックスした独特の空気感をもつこの空間は、遠くに富士山を望む絶好のロケーションもあってゆったりとした雰囲気が漂う。そうした中でSさんは、喫茶店にいるかのように落ち着いて音楽を聴いたり、本を読んだりすることができるという。


白と黒が基調の空間に差し色として艶やかな色が塗られている。
白と黒が基調の空間に差し色として艶やかな色が塗られている。
取材時にこの茶器でいただいたお茶は、日本で飲む機会の多いものとは別種の品の良い香りの漂うウーロン茶であった。
取材時にこの茶器でいただいたお茶は、日本で飲む機会の多いものとは別種の品の良い香りの漂うウーロン茶であった。


東西に長くつくられたリビング。右隅に見えるダイニングスペースで音楽を聴きながら本を読んでいると喫茶店にいるかのように落ち着くという。木製のサッシは持ち上がってスライドするタイプのもので、気密性に優れたものという。
東西に長くつくられたリビング。右隅に見えるダイニングスペースで音楽を聴きながら本を読んでいると喫茶店にいるかのように落ち着くという。木製のサッシは持ち上がってスライドするタイプのもので、気密性に優れたものという。

木のサッシと数寄屋の障子

要望のひとつに和風モダンを挙げたSさん。家で使用する材はできたらすべて木でいきたいという希望があった。リビングの大きな開口のサッシもなんとか木でできないかと建築家に依頼して特注でつくってもらったというが、この空間のしっとりと落ち着いた雰囲気にこのサッシの木の質感がしっくりとなじむ。

さらに建築家への要望としては特殊と言っていいものもあった。Sさんの友人が数寄屋造りの家を移築するに際して余った障子を譲ってくれたので、それを何とかこの家でも使いたいと頼んだのだという。和室と2階の寝室にある障子がそれだが、時間を経て得た質感がこれもS邸の落ち着き感をさらに演出している。 


左がSさんが友人から譲り受けた障子。右の壁には和紙が貼られているが、はじめグレーやブルーのイメージだったものを、奥さんの意見でリビングと同様に艶やかな色に変更した。
左がSさんが友人から譲り受けた障子。右の壁には和紙が貼られているが、はじめグレーやブルーのイメージだったものを、奥さんの意見でリビングと同様に艶やかな色に変更した。

和を意識したモミジ

リビングに面してつくられたテラスにはモミジが植えられていて秋のピーク時にはこのテラスを赤く彩る。このモミジは、和ということのほかに、外壁の黒色にモミジが映えることなどを考えての選択だった。

1本ではなく株立ちのものにこだわり、また入手を依頼した店にいいものが入ってくるのを辛抱強く待って手に入れたモミジは、日当たりがいいせいか当初より葉が大きめに育ってしまったそうだが、手入れも良く美しく育ったその姿は和を意識したこの家にはなくてはならない存在になっているようであった。


2階へ上る階段も黒に塗られた。
2階へ上る階段も黒に塗られた。
階からスキップで上った正面が書斎。右に折れると寝室がある。ガラスの床が1階まで光を落とす。
2階からスキップで上った正面が書斎。右に折れると寝室がある。ガラスの床が1階まで光を落とす。


2階の書斎。蔵書が多いため、本がちゃんと納まる空間をつくるのもSさんからの要望のひとつだった。
2階の書斎。蔵書が多いため、本がちゃんと納まる空間をつくるのもSさんからの要望のひとつだった。
天気のいい日には2階の寝室からも富士山がよく見える。
天気のいい日には2階の寝室からも富士山がよく見える。
 
書斎の床にはSさんお気に入りのレコードがディスプレイされていた。
書斎の床にはSさんお気に入りのレコードがディスプレイされていた。


Sさんがいちばん過ごしやすいというのはやはり1階のリビングだという。「景色がいい上に、ここから見える雲がまた素晴らしく、空は毎日同じことがないのでまったく飽きないですね」

メジロ、ヒヨドリ、シジュウカラと野生の鳥がよく訪れるテラスにはヒキガエルまでやってくるという。「わたしもここが気に入ってます」という奥さんは「ほんとにいろんな生き物がいて、テラスにはヤモリや蛇までくる」という。都会ではめったにお目にかかれないこういった生き物たちもまた、S夫妻にゆったりと落ち着いた日常をもたらすことに大いに寄与しているようであった。


立ち姿も美しく育ったモミジ。もう少しでテラスを真っ赤に彩る。
立ち姿も美しく育ったモミジ。もう少しでテラスを真っ赤に彩る。
テラスからリビングを見る。テラスに何も入っていない水槽を置いておくと野鳥が次々と水浴びをしにやって来るという。
テラスからリビングを見る。テラスに何も入っていない水槽を置いておくと野鳥が次々と水浴びをしにやって来るという。


設計 アトリエハコ建築設計事務所
所在地 東京都八王子市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 108.7m2