建築家自邸の3つのこだわり食と向きあい、クルマと音楽を楽しむ

建築家自邸の3つのこだわり食と向きあい、
クルマと音楽を楽しむ

東急東横線沿線に立つこの家は、建築家の中佐昭夫さんの自邸。当然ながら設計は自らの手によるものだ。

建築家が自邸を建てる場合、依頼物件では実行できずにいた建築のアイデアを実験的に試みることがよくあるが、この家ではそれは、敷地の中に2つの家を建てることだった。


敷地には、親子のように似たファサードの家が2つ並ぶ。左側の離れには、和室とホビールームがある。

右が母屋。1階の左が玄関でその奥にLDK、右にはガレージがある。


流動的な部分をつくる

「コンパクトな3LDKくらいの家の近くにもう1つ小さな空間をつくって、その2つを使い分けながら暮らすという実験をやりたかったんですね。この家は元は2世帯住宅という話からスタートしましたが、2世帯住宅として使うのも一定期間ですし、親がまだ来てないのでいまは離れを趣味用に使っていますがこれも期間限定です」

さらに、将来、子供が大きくなったら離れは子供部屋になるかもしれないし、大学が近くなので学生に貸すかもしれない。家の間取りは、3LDKとか4LDKとかにしても、案外使ってない部屋ができたりする時期がある。それならその部分を離してつくっておいて、流動性を前提にしたような暮らし方をすればいいんじゃないか、そんなふうに考えたのだという。 

「都内に暮らして他の場所に別荘を建てる方がいますが、家とは別のところに居場所があるのはいいなあというのは感覚的にみんなもっていると思うんですね。別荘じゃなくても、行きつけのカフェや会社の帰りに寄る居酒屋とか、みんな、そうした家以外の場所がある。そういったことを実験的にやってみたんですね」


中佐夫妻と弟の俊介君。一番右にあるのがパン焼き専用のオーブン、手前が調理用カウンター。左に食器を下げるカウンターと洗うためのシンク。

広々とした吹き抜けを介して、キッチンからでも2階の気配を感じ取れる。

ガスレンジは5口。その下にはオーブンが2つビルトインされている。3合のお米が炊けるお釜が左端に見える。


プロ級の厨房

この住宅では、建築的な実験にとどまらず、夫婦それぞれのこだわりも思う存分追求した。

奥さんの右子さんがこだわったのは厨房だ。通常の家庭では考えられないような機器がいくつも装備されていてまず驚く。ガスレンジが5口。その右のスペースにはパン焼き専用の大きなオーブンがドンと構える。それからオーブンが2つ。片方は火が下から出て、もう片方は火が上から出るタイプだ。さらに、大きな換気扇が2つ。これはすべての機器がフル稼働すると二酸化炭素の排出量が一般家庭の7~8倍にもなってしまうためだ。キッチンのレイアウトは店舗設計にならって上げ台と下げ台があり、シンクも調理用と食器洗い用と2つつくった。

「スーパーの食品売り場とかに行って、どんなものがつくれるのか想像したりするとときめく感じがするんだそうです。そういうのを家で実際に料理したいけど、道具がないからできないとか言われるとちょっと残念ですよね。だからそういうことのないようにキッチンはオーバースペックぎみにつくったんです」


2階にある通称「レゴ工場」で遊ぶお兄さんの亮介君。子供部屋がないのでこのあたりが子供専用ゾーンになっている。

屋根にはダイニングに光を導くトップライト。正面奥が子供専用ゾーン。

2階には寝室やバストイレなど。2階からも1階ガレージのクルマを見ることができる。

LDKのお隣がガレージ。壁は室内と同じ仕上げにした。クルマはアルファロメオ75。


ガレージはLDK側が全面ガラス張りのため、LDKのどこからでもクルマを眺められる。奥に見えるのが離れの1階。


クルマをずっと見ていたい

中佐さんがこだわったのは2つ。そのひとつはガレージだった。

「かなりなクルマ好きなんですね。クルマ好きにもいろいろありますが、僕の場合は、クルマ自体をプロダクトとして見る。ずっと見ていても飽きません」

普通のガレージでは、クルマの顔とか後ろとか決まったアングルしか見ることができないし、引いて見ることもできない。そこで、四方八方から見られるように設計して、2階に上がっても見れるようにした。「2階からだと巨大ミニカーみたいな感じで見れます」。

設計でははじめ、玄関を大きくしてクルマを入れようとすら思ったが、排気ガスが臭いとか無理がありすぎてこれはさすがにあきらめたという。この話からも、ガレージにかけた中佐さんの熱い気持ちが察せられる。


離れ2階のホビールーム。ここでは主に音楽を聴くが、母屋と離れているため夜中に家人に気兼ねなくDVD鑑賞もできる。

離れの1階の和室。中佐さんのご両親を迎える場所としてつくられた。左の開口からは、母屋の様子がうかがえる。


音を振動として聴く

もうひとつは、音楽を聴く空間へのこだわりだった。

「離れの2階の天井が高くてちょっと残響するんですね。ライブを収めたCDは基本的に音源の近くで音を拾うので残響感があまり残らない。でもあそこでライブアルバムとか聴くと、音が残響して臨場感が増すんです」

さらに「環境音楽的になる感じかな」とも。「吹き抜けのある公共施設などでやっている大道芸とかのイベントが、近くに行くと聴こえ方がすこしかわってきたりしますね。ああいうような、空間を介さないと届いてこない音みたいなのがあって、ヘッドフォンで聴くものとは響き方が違います。たとえば最近はジャズを聴くことが多くて、中でもギターが気にいっていてよく聴きますが、離れの2階で鳴らすとそういう音がしてくる。空気を介して音が振動として伝わってくるというか」。


この日はちょうどお昼時にお邪魔したため、調理後食事タイムに。メニューは麻婆豆腐に空心菜炒め、卵と春雨のスープなど。

カウンターは、調理をしながらLDKでくつろぐ家族と会話もできる配置。

設計の途中で奥さんの意見から、床を張らず吹き抜けに変更した。おかげで1階奥のダイニングスペースでも十分に明るい。


食べ物に丁寧に向きあう

取材の最後に、ふたたび食の話題に戻り、お2人がこんなことを話してくれた。以前、打ち合わせ時に聞いた「中佐家の食を中心にした暮らし」について質問を向けたときだ。

まずは右子さん。「たぶん昔はみなもっとこまめに料理をつくっていたと思うんですね。子供が生まれる前は味噌や梅干しとか、季節ごとで昔の人がやっていたような保存食系のものをつくっていましたが、今でもふだん自分たちが食べるようなものはもっとつくりたいと思っています。なので、食を中心とした生活をしたいというよりは、当たり前のことなんじゃないかという気がしていて、特別なことをしてる感じはないですね」。

「妻はその“当たり前”の基準がちょっと違っていて、たとえばご飯はお釜で炊いて、お米ももみ殻がついたものを買ってきて精米する。鰹節も鉋みたいなやつで削ります。そういう家で育って、丁寧に食べ物に向きあうみたいなのが当たり前になっているんですね」

こう話してから、中佐さんがさらに続ける。「そうすると、これは生活それ自体に向きあうという話になる。時間の使い方もそうだし、料理で使ったものを流用して洗濯に使ったらよく落ちるとか、日本人の食と生活はいろいろな関わりを持っていた。そういうふうに見ると、ファミレスでご飯を食べるとか電子レンジで冷凍食品をチーンかというほうが特殊な状態なわけですね。僕らはそっち側にだいぶ慣れてしまっていますが」。

「オーバースペックぎみにつくりました」と紹介してくれたキッチン、あのキッチンへのこだわりにはそのベースにこうした食への思いが込められていたのだ。


A House Made of Two
設計 中佐昭夫/ナフ・アーキテクト&デザイン
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 179.11㎡