家族が楽しめる家
東日本大震災を機に東京から越してきた鈴木さん一家。鈴木邸が建つ敷地はかつて鈴木さんの祖母が暮らしていた土地で、隣地にはご両親の家が建っている。
家具工場の3代目となる鈴木さんは、4年前にMANUALgraphというブランドを立ち上げ、「FUN! SOFA!」というコンセプトのもとオリジナルデザインの製作・販売を行っている。鈴木邸の家づくりは、同じ「FUN!」を冠した「FUN! HOUSE!」をテーマにして進められた。
この「楽しめる(FUN)家」の設計は建築家の小嶋良一さんにお願いした。そして、空間デザインに関しては主に鈴木さんが、そして奥さんは家事全般での機能性に関しての要望を出していった。
鈴木さんからは、「床はオークにしたい、吹き抜けがほしい、薪ストーブを置きたい」といったリクエストがあった。さらに、空間デザインについては、好みのテイストを、雑誌のほかさまざまなサイトで見つけた写真をインターネットサービス上で共有して小嶋さんに伝えていった。
シンプルで洗練された空間
家づくりに関しては「シンプルで洗練された空間」というキーワードがあった。そして、「気になったものを見つけると設計中もどんどん写真をアップして」(鈴木さん)いった中から話をしながら小嶋さんが出した方向のひとつは、「空間構成の派手さよりは温かみを感じられるような空間」だった。
そしてまた、鈴木家の子どもたちにとっても楽しい家で、落ち着きが感じられる一方で活気も感じられる家という、テーマであった「FUN! HOUSE!」へと通じるものだった。
仕上げにこだわる
「シンプルで洗練された空間」を実現するためデザインに加えてこだわったのは、素材と仕上げだった。この2つが「シンプルで洗練された」雰囲気を醸し出すように、空間要素のひとつひとつにこだわり検討を重ねていった。
たとえば、通常ならフラッシュの合板でつくるところを無垢材を使用したのは素材へのこだわりから。洗練された雰囲気はそうしたところからにじみ出てくるものだという小嶋さんのふだんからの考えに基づいているが、鈴木さんが選んだ写真からもそうした志向がうかがえたという。
さらに材そのものでなく塗装にもこだわった。家具や建具は工場でスプレーで塗装するのが一般的だが、それだと「ツルツルピカピカ」の仕上げになってしまうため、刷毛での塗装を指定した。無垢材を刷毛で塗るといった作業の積み重ねが空間の雰囲気と質をつくり出す。形のように眼に対してはっきりとは主張はしないが、こうした表面の仕上げの質によっても空間の印象が左右されるのだ。
FUN! HOUSE! SOFA
小嶋さんには家の設計だけでなくこの家のためのソファのデザインも依頼した。鈴木さんにはブランドの新製品としてそのソファを中心とした楽しげな(FUN)ライフスタイルも発信していきたいという意図もあったという。
「商品化するにはこの家に合うだけではもちろん売れないので、考えたのは見た目が良くて座り心地の良いソファでした」と小嶋さん。この「見た目」にソファの背中側も含まれるのがポイントだった。テレビが壁際に設置され中央にアイランド型にソファが置かれるケースが設計していてよく出てくるという。そのときに背中側もしっかりデザインされている必要があるのだ。
背中側からの見た目を考えると、ソファの背の高さを下げたいが、これが座り心地と両立しない。包まれているという感覚がもてるまでクッション部分をやわらかくして肩の部分がちょうどいい位置にくるようにクッションの柔らかさを調整していった。
しかし、単に柔らかくしても座り心地は良くならない。クッションには羽毛にウレタンの細かく粉砕した1センチ角くらいの粒を混ぜているが、納得できる柔らかさになるまで約半年の間7、8回試作を重ねたという。
家具の製造と販売を行う鈴木さんは、自邸をつくることを通して、ものづくりの姿勢をはじめいろいろと学ぶところが多かったという。「家づくりを通じて同世代の建築家の方と切磋琢磨したかった」ともいう鈴木さん。なによりも、家づくりが楽しかったとも。そして、最後にこう話してくれた。「ずっと終わらなければいいなと思うぐらいで、結果的に家づくりの過程自体がFUN!でしたね」