Architecture

プライバシーと開放感を両立日々の暮らしを豊かにする
アウトドアリビングのある家

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旗竿敷地を活かす

マスコミ関係に勤務するご主人の転勤により、結婚してからの半分以上は、北京やニューヨークでの海外生活だった榊さんご一家。日本に帰任したときには、二世帯住宅の2階部分を間借りしたり、たまたま海外赴任が決まった知人宅(一軒家)に住まわせてもらったりしていたという。「転勤も落ちつき、そろそろ自分たちの家を持ちたいと思いましてね。妻も私も一軒家育ちですし、帰任中に住んでいた一軒家での生活も心地よくて。家を持つなら、やはり一軒家がいいねと、土地探しを始めたんです」(ご主人)

運よくインターネットで見つけたのが、大田区内のこの物件だった。「最寄りの駅からもう少し近い方が良かったのですが、都内の住宅地としては広い土地に惹かれました。上物があったので割安だったんです」(ご主人)。近くには大きな公園があり、緑も豊か。鳥のさえずりが聞こえるような静かな環境も気に入ったという。

その土地は、周囲を隣家に囲まれた旗竿敷地。「特殊な土地の形だったので、専門家に依頼することにしました」(ご主人)。
建築家マッチングサービスを手掛ける「ザ・ハウス」を通して出会ったのが、一級建築士の井上玄さん。「土地の弱点を長所に変えるのが得意な方」と紹介されたことが大きなポイントだったという。また、柔軟で話しやすい井上さんの人柄も決め手になった。「家づくりを進めるにあたって、建築家の方からさまざまな提案をしていただくものの、こちらの譲れないポイントや意見を遠慮せずに伝えられるという関係も大切だと思ったのです。実際、家づくりをスタートしてから、こちらの意見を快く受け入れてくれる井上さんの度量の大きさもありがたく、相談しやすかったですね」(奥さま)


家具ありきで設計してもらったというリビング。大型の赤いソファは、ニューヨークで購入。
家具ありきで設計してもらったというリビング。大型の赤いソファは、ニューヨークで購入。
家具や雑貨は、北京在住の頃にアンティーク家具屋や市場で出会ったものが多い。手前の巨大なキャンドルも当時購入したもの。
家具や雑貨は、北京在住の頃にアンティーク家具屋や市場で出会ったものが多い。手前の巨大なキャンドルも当時購入したもの。
玄関に置かれたキャビネットは奥さまのお気に入り。
「北京から帰国する2日前に購入し、手荷物で持ち帰りました。後悔がないよう思い切って買ってしまいました(笑)」(奥さま)
玄関に置かれたキャビネットは奥さまのお気に入り。「北京から帰国する2日前に購入し、手荷物で持ち帰りました。後悔がないよう思い切って買ってしまいました(笑)」(奥さま)


トマトやレモン、ハーブ類など料理に使用できるものを主に育てている。敷いた砂利は防犯、防草のため。奥に見えるグリーンは近所の公園の木々。
トマトやレモン、ハーブ類など料理に使用できるものを主に育てている。敷いた砂利は防犯、防草のため。奥に見えるグリーンは近所の公園の木々。
隣家に囲まれた旗竿敷地。右奥にある中庭では、高めの門により、外からの視線を気にせず、くつろぐことができる。
隣家に囲まれた旗竿敷地。右奥にある中庭では、高めの門により、外からの視線を気にせず、くつろぐことができる。


家族の憩いの場“アウトドアリビング”

榊さん夫妻が井上さんに伝えた要望は、「プライバシーを守りながらも、光や風をふんだんに取り入れた開放感のある家」。以前から、自分たちの家を建てるときには、外の空間を有効活用し、家族で自由にゆったりと過ごせる中庭を造りたいと考えをめぐらせていたという。

その要望に対して井上さんが提案したのは、LDKから続く、屋根のある“アウトドアリビング”。コの字型に中庭を囲みつつ、幅の細い3つの棟から成るユニークな構造が目を引く。真ん中の棟が中庭のウッドデッキの屋根となり、程よく陽射しをカット。半戸外の心地よい空間が誕生した。

カーペットを敷いてブランチを楽しんだり、ハンモックを吊って読書をしたり。また、バーベキューはもちろん、テントを張ってキャンプ気分を味わうなど、楽しみ方はいろいろ。先日は、リビングの赤いソファをウッドデッキに出し、同僚を招いてホームパーティーをしたそう。「イスが足りないのでソファを出しただけで、セレブのパーティーみたいって言われました」と笑うご主人。リビングの延長として、また暮らしに潤いを与える贅沢な空間としてフル活用しているようだ。
「日曜日の過ごし方のバリエーションが広がりました」とは奥さま。プライバシーを確保した中庭で、家族の時間をのびやかに満喫している。


娘さん2人(中1、小1)ともハンモックが大好き。取り付けも簡単で、長女さんは自分で吊って、読書をしているという。
娘さん2人(中1、小1)ともハンモックが大好き。取り付けも簡単で、長女さんは自分で吊って、読書をしているという。
真ん中の棟によってできた屋根が日陰をもたらし、暑さを緩和してくれる。
真ん中の棟によってできた屋根が日陰をもたらし、暑さを緩和してくれる。
南側から中庭を見る。左側は収納たっぷりの納戸。最近、買い揃え始めたというアウトドアグッズなどが並ぶ。
南側から中庭を見る。左側は収納たっぷりの納戸。最近、買い揃え始めたというアウトドアグッズなどが並ぶ。
北側から中庭を見る。奥の棟は趣が異なり、“離れ”がコンセプト。
北側から中庭を見る。奥の棟は趣が異なり、“離れ”がコンセプト。
屋内の階段から中庭を見る。リビングや廊下が全面ガラス張りでゆるやかにつながっている。
屋内の階段から中庭を見る。リビングや廊下が全面ガラス張りでゆるやかにつながっている。


日曜日の朝食やブランチは、マットを敷いてピクニック気分。長女さんが座っているソファは、自室から持参したもの。北京で購入したテーブルも活躍。
日曜日の朝食やブランチは、マットを敷いてピクニック気分。長女さんが座っているソファは、自室から持参したもの。北京で購入したテーブルも活躍。

計算された採光と異なる表情

採光や風通しも入念に考えられている榊邸。3つの細い棟それぞれの南側には高窓が施され、そこからたっぷりの光や心地よい風が入ってくる。夏至や冬至の陽射しの入り方まで計算して造られたという。

設計当初は、アウトドアリビングの上は、寝室にする案もあったそう。現在のようにバスルームにしたときよりも1mほど幅が広くなり、中庭の空の抜けが少なくなることから、寝室案は却下された。「バスルームにして正解でした。その1mの差で明るさが全然違いますからね」とご夫妻は口を揃える。

また、榊邸の各棟の壁は、南側の面は白いが、北側の面は山小屋風になっている。南側から光を受ける壁を白くすることで、光が反射して明るさが増すといった効果を狙っている。

一方、アウトドアリビングから見て、南側の山小屋風の棟は、“離れ”のイメージ。「先日のホームパーティーの際、アウターリビングから南側の棟を見た同僚が、“ここって誰の家?”って(笑)。全くテイストが異なるため、ほかの家だと思ったのでしょうね」と、思わず笑ってしまうエピソードも。
見る向きによって全く異なる表情が楽しめるのも榊邸の魅力である。


来訪者が他の家と間違えた、“離れ”の内観。傾斜した天井や壁は木がむき出しで自然のまま。「人工的なものはあまり好きではない」とご夫妻。
来訪者が他の家と間違えた、“離れ”の内観。傾斜した天井や壁は木がむき出しで自然のまま。「人工的なものはあまり好きではない」とご夫妻。
北側の棟の2階に位置する主寝室。南側(右上)の高窓を通してたっぷりの光が注ぐ。
北側の棟の2階に位置する主寝室。南側(右上)の高窓を通してたっぷりの光が注ぐ。
壁の色を自分でチョイスしたという長女さんの部屋。窓を開けると、子どもだけが屋根に上がれるようになっている。
壁の色を自分でチョイスしたという長女さんの部屋。窓を開けると、子どもだけが屋根に上がれるようになっている。
屋上へ抜ける明るい廊下には、娘さんたちが描いた絵が飾られている。これは、次女さんが自分とお姉さんを描いたもの。
屋上へ抜ける明るい廊下には、娘さんたちが描いた絵が飾られている。これは、次女さんが自分とお姉さんを描いたもの。


屋上からアウトドアリビングを見下ろす。右側の白い壁に南側からの光が反射し、さらに明るさをもたらす。
屋上からアウトドアリビングを見下ろす。右側の白い壁に南側からの光が反射し、さらに明るさをもたらす。

複数の家に住んだ経験の集大成

結婚してから、転勤による引っ越しが多かったご夫妻。「海外も含め、複数の家に住んだことで、家づくりに対する自分たちの経験値が高まりました」(奥さま)と、住まううえでの知識が増え、今回その経験が活かされたと話す。家事動線を考えた配置をリクエストし、メンテナンスを重視してバスルームはあえてユニットを選択。キッチンは使い勝手を優先して日本のメーカーのものに。海外での生活から、「日本人には日本のメーカーが最も合うと感じたため」と奥さま。ただし、食洗機はコンパクトな日本製ではなく、大型のスウェーデン製にするなど、随所にこだわりが見られる。

さらには、キッチンの上にトップライトを設けたり、防犯面を考えてシャッターを希望したり。人感センサー付きのライトの位置を指定するなど、デザイン以上に安心して生活できる“住みやすさ”を追求した。いろいろな家で実際に生活していて良かったことは取り入れ、不要なものは省くといった無駄のない造りを目指し、経験に基づいた意見を細かいところまで伝えていったという。

入居して約半年。新しい家の満足度は、ご夫妻ともに「100点に近い」という。住んでみてからの問題はいくつかあるものの、それは「自分たちの考えが至らなかったミス」と潔く、「これから変えていけばよい」と前向きだ。「1年間住んでみて、また四季を経験してみて気づくこともあると思います。これから自分たちの暮らしに合わせて、さらに住みやすく変化させていく楽しみや余白を含めての点数なのです」(奥さま)


アウトドアリビングの屋根にあたる部分。奥がバスルーム。洗濯ものが出てから、洗って仕舞うまでの動線を考えて設計。
アウトドアリビングの屋根にあたる部分。奥がバスルーム。洗濯ものが出てから、洗って仕舞うまでの動線を考えて設計。
奥さまが希望した屋上。トップライトを設けたことで、この下のキッチンは、昼間一定の自然光を得ることができる。
奥さまが希望した屋上。トップライトを設けたことで、この下のキッチンは、昼間一定の自然光を得ることができる。
トップライトからの光も入る明るいキッチン。奥の勝手口を開けると、一時的にゴミも置ける。防犯面から、人感センサー付きライトを設置してもらった。
トップライトからの光も入る明るいキッチン。奥の勝手口を開けると、一時的にゴミも置ける。防犯面から、人感センサー付きライトを設置してもらった。


リビングの一角に小上がりの畳コーナーを設けた。現在は、子どもの遊び場や作業スペースとして重宝。床材は、水回り以外、メープルの無垢材を採用。裸足で歩いても気持ちいい。
リビングの一角に小上がりの畳コーナーを設けた。現在は、子どもの遊び場や作業スペースとして重宝。床材は、水回り以外、メープルの無垢材を採用。裸足で歩いても気持ちいい。
奥さまが初任給で購入したというアンティークのキャビネットには、マイセンのティーカップが並ぶ。親しい友人たちからの結婚祝いで、花嫁が希望したブランドのカップを贈り合うのが恒例だそう。
奥さまが初任給で購入したというアンティークのキャビネットには、マイセンのティーカップが並ぶ。親しい友人たちからの結婚祝いで、花嫁が希望したブランドのカップを贈り合うのが恒例だそう。


榊邸
設計 GEN INOUE
所在地 東京都大田区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 124.44m2