創作と暮らしの場を自分の手で母屋は明治の古民家を移築、工房はセルフビルド

創作と暮らしの場を自分の手で母屋は明治の古民家を移築、
工房はセルフビルド

陶芸家の矢津田義則さんの益子のお宅は、明治4年築の庄屋づくりの古民家を移築した建物。工房として使っている建物(上の写真)は、義則さん自身がセルフビルドしたもの。母屋と工房が並んで緑に囲まれた静かな高台に建っている。

「地元の材木屋に『明治時代の建物を解体することになったのだけれど、移築してみないか?』と声をかけられたんです」と義則さん。

古い日本家屋を移築するにあたってまず考えたのは、暗い室内をいかに明るくするかだったそう。
「壁や天井を白く塗り、天窓を開け、玄関をガラス戸にしました。天窓からの光が部屋の奥まで差し込む明るい住まいになりました」

古民家の改造のアイディアは義則さんが提案し、地元の大工さんと二人三脚で作り上げたそう。かなり苦労を重ねたという、釘を使わずにクサビを打って作った螺旋状の階段と、その階段を使って登る2階部分はすべて義則さんの手作り。

「ここに越す前は同じ益子町の茅葺き屋根の家に住んでいて、そこもとても気に入っていたのですが、子どもの小学校まで遠かったのでここに引っ越しました。けれど、通っていた学校が廃校になってしまって、結局スクールバスで通うことになってしまったのですが」と奥様の好美さんは笑う。


井桁組みの頑丈な梁が、大きな空間を支える。年季の入った梁の渋い色が、白い漆喰の壁に映える。

井桁組みの頑丈な梁が、大きな空間を支える。年季の入った梁の渋い色が、白い漆喰の壁に映える。

囲炉裏も移築前の古民家にあったものだそう。「鉄瓶を吊るしているシンプルな自在鉤は友人に戴いたものです」

囲炉裏も移築前の古民家にあったものだそう。「鉄瓶を吊るしているシンプルな自在鉤は友人に戴いたものです」

「桜の木の囲炉裏の枠は元からのもので、周りの榎の台は僕が置いたものです」 お膳は古道具屋さんで見つけたもの。 

「桜の木の囲炉裏の枠は元からのもので、周りの榎の台は僕が置いたものです」 お膳は古道具屋さんで見つけたもの。 

大型の簾はベトナム製のもの。奥の廊下の左側には、8畳の広さの部屋が6つ連続している。

大型の簾はベトナム製のもの。奥の廊下の左側には、8畳の広さの部屋が6つ連続している。


陽がたっぷり差し込む廊下は、東南の角で直角に曲がる。夜はシェードを降ろして暖かい空気を逃がさないようにしているそうだ。

陽がたっぷり差し込む廊下は、東南の角で直角に曲がる。夜はシェードを降ろして暖かい空気を逃がさないようにしているそうだ。

矢津田宅には不思議とインドネシア、ネパールなどのアジアの国々の家具がしっくりと馴染む。この棚はインド製のものだそう。

矢津田宅には不思議とインドネシア、ネパールなどのアジアの国々の家具がしっくりと馴染む。この棚はインド製のものだそう。

1階に作品を紹介するギャラリーが設えてある。様々な色の化粧土を配合し、物語を感じさせる文様が描かれた矢津田作品。

1階に作品を紹介するギャラリーが設えてある。様々な色の化粧土を配合し、物語を感じさせる文様が描かれた矢津田作品。


囲炉裏が置かれている場所で、以前は作陶していたのだそう。工房が完成したので、ここに畳を敷き、移築前の古民家で使われていた囲炉裏を再現。

「ここで煮炊きはしていませんが、炭を入れてお湯を沸かし、お茶をいただいています。お菓子やお茶を載せるテーブル代わりのお膳を便利に使っています」と好美さん。

年季の入った梁の美しさを引き立たせる白い漆喰の壁は、地元の職人さんが塗ったもの。
「化学的な接着剤を使った材料は使いたくなかったので、天然の糊の原料、角叉(つのまた)を使って塗ってもらいました」と義則さん。

「角叉の漆喰を塗れるベテランの職人さんが現役でいらしたのでできたことでした。でもあまりに久しぶりに角叉を使ったので、最初は配合の分量を思い出せないようでした(笑)」と好美さん。


ろくろが2台置かれた工房は、なんと義則さんのセルフビルド。「建具は解体している家から譲ってもらうことが多いです」

ろくろが2台置かれた工房は、なんと義則さんのセルフビルド。「建具は解体している家から譲ってもらうことが多いです」

義則さんの仕事は夜型。夜中の2時くらいまで仕事をするそう。「特に絵付けの作業は、夜のほうが集中してできるんです」

義則さんの仕事は夜型。夜中の2時くらいまで仕事をするそう。「特に絵付けの作業は、夜のほうが集中してできるんです」
 

矢津田家のポストももちろんお手製。アメリカ式の旗がある形だけれど、色も表札も、この家にピッタリ。

矢津田家のポストももちろんお手製。アメリカ式の旗がある形だけれど、色も表札も、この家にピッタリ。

チベットに旅した時に買ってきた旗が、工房の軒下に飾られている。

チベットに旅した時に買ってきた旗が、工房の軒下に飾られている。

泥で窯を密閉して追加で薪を投入すると、火が粘土の中の酸素まで使って燃えようとし、特別な釉薬が銀色に光り始めるのだそう。

泥で窯を密閉して追加で薪を投入すると、火が粘土の中の酸素まで使って燃えようとし、特別な釉薬が銀色に光り始めるのだそう。

夜型の義則さんに対して、奥様の好美さんは朝型。朝4時に工房に来ると部屋がまだほんのり暖かいのだとか。

夜型の義則さんに対して、奥様の好美さんは朝型。朝4時に工房に来ると部屋がまだほんのり暖かいのだとか。


工房はすべてセルフビルドで。

工房の建物をセルフビルドで建ててしまったという驚きの大工仕事の腕前を持つ義則さん。セルフビルドに関する造詣が深く、『セルフビルド〜家をつくる自由』という本の著者でもある。

「旅が好きで、チベット、シッキム、中南米と、たくさんの場所に旅に出かけ、旅先での新しいものとの出会いが創作の意欲になっていました。今は新しい空間を自分の手で作り、環境を変えることが創作の刺激になっているのかもしれません」

現在は、いちばん下のお子さんのための子ども部屋と、薪小屋を兼ねた門の増築を計画中とか。ちなみに最新作は犬小屋。母屋に薪ストーブの導入計画もあるけれど、梁を避けながらどこに設置するのがいいか、日々頭を悩ませているそうだ。


「元々、梁の向こうは馬を飼っていた場所だったようです。低い厩梁を、頭をぶつけないぐらいの高さまで上げました」

「元々、梁の向こうは馬を飼っていた場所だったようです。低い厩梁を、頭をぶつけないぐらいの高さまで上げました」

「日本製のPEACEやRUBY社製の直接火にかけるタイプのガスオーブンも、古いものを見つけるとつい買ってしまいます」

「日本製のPEACEやRUBY社製の直接火にかけるタイプのガスオーブンも、古いものを見つけるとつい買ってしまいます」

「ヴィンテージのル・クルーゼや、DANSKのホーローの鍋を集めています」 ピーマンやニンニクの形の鍋は新しいものだそう。

「ヴィンテージのル・クルーゼや、DANSKのホーローの鍋を集めています」 ピーマンやニンニクの形の鍋は新しいものだそう。

キッチンカウンターも作ったけれど、食事はこのテーブルですることが多いそう。「食器も近くにあるし、便利なんです」

キッチンカウンターも作ったけれど、食事はこのテーブルですることが多いそう。「食器も近くにあるし、便利なんです」


矢津田家がキッチンとして使っている場所は、移築前の古民家では馬を飼っていたところなのだとか。
「馬をつなぐための厩梁はもっと低い位置にあったのですが、頭をぶつけない高さまで上げました」

キッチンの棚には可愛いデザインのオーブンがズラリと並んでいる。ガス台に直接乗せて使う、現在は製造中止になっている日本製のガスオーブンなのだそうだ。

「レトロなデザインと機能に愛着が湧いてしまって、ネットで探して買っています。デッドストックの状態で手に入れたものは、もったいなくてまだ一度も火にかけて使ってません」

ヴィンテージのル・クルーゼの鍋も集めているそう。
「1958年のレイモンド・ローウィーのデザインのものが気に入っています」と義則さん。

「ピーマン型のル・クルーゼは玄米がおいしく焚けるんです。これに玄米を入れてお友達のおうちに持っていくと、中はシチューじゃないのねってちょっとガッカリされます」と笑う好美さん。


「梁に頭をぶつけずに登るには、90度づつ向きを変えて登る階段を作るしかないという結論になったんです」

「梁に頭をぶつけずに登るには、90度づつ向きを変えて登る階段を作るしかないという結論になったんです」

「釘を使わず、ケヤキのクイを削り出して使いました。設計図は書かず、考えながら作っていきました」

「釘を使わず、ケヤキのクイを削り出して使いました。設計図は書かず、考えながら作っていきました」

吹き抜けを挟んで手前と奥に部屋がある。その部屋と部屋を結ぶ渡り廊下。

吹き抜けを挟んで手前と奥に部屋がある。その部屋と部屋を結ぶ渡り廊下。

子ども部屋のベッドも、もちろん義則さん作。「ベッドにあがってモノを仕舞える天袋も、秘密基地気分が盛りあがるようです」

子ども部屋のベッドも、もちろん義則さん作。「ベッドにあがってモノを仕舞える天袋も、秘密基地気分が盛りあがるようです」

梁は上下に2本づつ渡してあるのがわかる。斜めの天井部分は、義則さんが自分で珪藻土を塗った。

梁は上下に2本づつ渡してあるのがわかる。斜めの天井部分は、義則さんが自分で珪藻土を塗った。


2階のコタツのある部屋。「冬は2階が暖かいので、夜は家族でこの部屋で過ごすことが多いです」

2階のコタツのある部屋。「冬は2階が暖かいので、夜は家族でこの部屋で過ごすことが多いです」


階段と2階部分は、すべて義則さんのDIY。
「前の家が平屋だったので、子どもたちから2階を作ってほしいという熱いリクエストを受けたんです」

矢津田家の広々とした1階部分に対して、子ども部屋は秘密基地のようなあえて小さな作り。
「ハシゴを登って天井の低いベッドにもぐりこむのが、子どもたちは大好きなようです」

母屋の外には広々としたデッキが広がる。
「外と中をゆるやかにつなぐデッキは我家にはなくてはならないものです。家を眺めのいい方向に建てると西向きになってしまうので、家は南向きに建て、眺望はデッキで楽しむことにしました」

「この家の好きなところは、大木の中に暮らしているような気分になれるところです。床に寝っ転がって上を見るとほんとうに気持ちいいんです」と好美さん。

大木が枝葉を伸ばすように家は少しずつ変化し、周囲の環境も変わって行く。そんな中で作陶を続ける矢津田さん。環境と作品、矢津田さんはその両方をこの場所で創造し続けている。


母屋全景。街道から山道を登った場所に現われる開けた土地は、もともとソバ畑だったそう。そこに明治4年築の古民家を移築。

母屋全景。街道から山道を登った場所に現われる開けた土地は、もともとソバ畑だったそう。そこに明治4年築の古民家を移築。

「デッキでは、バーベキューをしたり、夏はプールを作ったり、楽しい時間を過ごします。地震で崩れたピザ焼き窯も作り直したい」

「デッキでは、バーベキューをしたり、夏はプールを作ったり、楽しい時間を過ごします。地震で崩れたピザ焼き窯も作り直したい」

玄関をガラスにすることで、よりたっぷりと家の中に光が差し込む。「タイルは、自分で焼いたものを使いました」

玄関をガラスにすることで、よりたっぷりと家の中に光が差し込む。「タイルは、自分で焼いたものを使いました」

立派なワンちゃんのための建物がこちら。「僕の最新作です(笑)」 向かって右がタオくんのお宅。

立派なワンちゃんのための建物がこちら。「僕の最新作です(笑)」 向かって右がタオくんのお宅。

左にお住まいのパドマちゃんはあまりこの建物がお気に召さないそう。中に敷物のフリースを入れても引っ張り出して外泊。

左にお住まいのパドマちゃんはあまりこの建物がお気に召さないそう。中に敷物のフリースを入れても引っ張り出して外泊。


「薪小屋を兼ねた門を増築して、エントランスを作りたいと思っています」

「薪小屋を兼ねた門を増築して、エントランスを作りたいと思っています」