Architecture

大磯の海と山を満喫する家非日常性を演出する
ホテルライクなシンプル空間

大磯の海と山を満喫する家  非日常性を演出する ホテルライクなシンプル空間

“大磯っぽい”敷地

「ちょっと面白い土地があるんだけど、ということで最後に連れてってもらったのがこの敷地だったんですが、見た時に2人ともすごく気に入って」と話すのは須田邸の奥さん。不動産屋の人と大磯の土地をいくつか見て回った時のことだ。

「山の景色と海の景色がとても大磯っぽいところ」が気に入った須田さんは、即、購入することに決めたという。



白とグレーの無機質なイメージの空間の中で差し色の紫が映える。2人ともに「モノをごちゃごちゃと置くのは好きではない」ため、普段でもこのようにモノを置かずにすっきりとした空間だという。
白とグレーの無機質なイメージの空間の中で差し色の紫が映える。2人ともに「モノをごちゃごちゃと置くのは好きではない」ため、普段でもこのようにモノを置かずにすっきりとした空間だという。

それがネック?

海だけでなく、海と山の両方の景色がほしかったという須田さん。不動産屋の人には、「皆さんここの景色を気に入ってくれるんだけど、坂が急で階段も長かったりで、日常生活を考えるとあきらめる人が多い」と言われたが、坂も階段もあきらめる理由にはならなかったという。

「苦になるとは思わなかったですね、少しも。階段は上ればいいし坂も上がればいいんだったら、それは購入を考える際にネックにはならなかった。逆に、それがネック?と思ったくらいで」


正面の山の景色をうまくトリミングした横長の開口。須田さんは左の椅子に座りこの景色を眺めるのが好きという。
正面の山の景色をうまくトリミングした横長の開口。須田さんは左の椅子に座りこの景色を眺めるのが好きという。
南側に大きく開けられた開口。縁どって見せることにより目の前の風景を異化して非日常性を演出する。これだけ大きな開口だとさすがに夏は暑くなるが、カーテンをつける気はないという。
南側に大きく開けられた開口。縁どって見せることにより目の前の風景を異化して非日常性を演出する。これだけ大きな開口だとさすがに夏は暑くなるが、カーテンをつける気はないという。

建築家はお隣さん

須田邸の設計を手がけたのは、ほぼ同時期に隣の敷地に家を建ててお隣さんとなった建築家の猿田さん。インターネットで建築家を探している時に猿田さんの作品が目にとまりその空間のテイストは気に入っていたが、お隣同士となる猿田さんに依頼することになったのは、導かれるように偶然が重なった結果だったという。

それは話が出来すぎていてどこかでカメラが回っているんじゃないかと思うほどで、ちょっと気味が悪いくらいだったと。「同じ土地を気に入って、空間の質感や色の感覚だったりとか価値観とかもわりと近いのかなと思いましたし、縁も感じたので」(奥さん)と、猿田さんにお願いすることにしたのだという。


手前の天板はモルタルを塗った材に水性塗料を含浸させてから防水のクリアをのせて仕上げているが、塗装を手がけた塗装屋さんから業務用の塗料を入手して須田さん自らローラーで塗ってメンテナンスをしているという。
手前の天板はモルタルを塗った材に水性塗料を含浸させてから防水のクリアをのせて仕上げているが、塗装を手がけた塗装屋さんから業務用の塗料を入手して須田さん自らローラーで塗ってメンテナンスをしているという。

素晴らしい風景をトリミングして見せる

設計ではやはり景色をどう取り込むかが大きなポイントとなった。「打ち合わせの際の話ですごく印象に残っているのは、海と山の2方向に視線が必ず抜けるようにしてほしいって言われたんですね。どこからでもその景色が楽しめる家にしてほしいと」(猿田さん)

2階の山側は、ダイニングに座った時の眺めを考えて水平方向に細長い開口で景色をトリミングした。「すごくきれいにトリミングできるような感じが最初からあった」(猿田さん)という海側の壁は、大きな開口と通風用の開口を設け、前者の2つの開口が家の南側に広がる素晴らしい景色をフレーミングして見せるようにした。単に大きな開口を設けるよりも、景色の素晴らしさがより際立ち実感できる仕掛けだ。


紫色の階段を上ると屋上に出る。白とグレーの空間に差し色となる紫を選んだのは奥さん。
紫色の階段を上ると屋上に出る。白とグレーの空間に差し色となる紫を選んだのは奥さん。
料理が得意という奥さんのお気に入りはやはりキッチン。窓際のステンレス部分はパンをこねるためのもの。
料理が得意という奥さんのお気に入りはやはりキッチン。窓際のステンレス部分はパンをこねるためのもの。
風もよく通ってとても気持ちがいいという2階のデッキ部分。
風もよく通ってとても気持ちがいいという2階のデッキ部分。
きれいに並べられた、キッチン奥の収納棚。
きれいに並べられた、キッチン奥の収納棚。
 
デッキの下は浴室。デッキからも大磯の海が望める。
デッキの下は浴室。デッキからも大磯の海が望める。


ホテルのような空間

もうひとつ須田さん夫婦からあった大きなリクエストは、無機質な印象の空間にしてほしいということだった。そして、「すごくシンプルなテイストが2人とも好きなのと、夜も帰りが遅くて休みとかもほとんどなくて旅行にもあまりいけないので、ホテルのようなシンプルで非日常性の感じられる空間にしてほしいとお願いしました」(須田さん)

内部空間での白とモルタルのグレーという配色がこの「無機質」と「非日常性」というリクエストに応じているが、白が強い印象の空間だと病院のような印象になってしまうところから、2階では差し色として階段に紫色を使った。モルタル部分で質感を出しているのも、同様の理由からだろう。


床のウッドと合うように1階から2階へと上がる階段は紫ではなくブラックに塗った。
床のウッドと合うように1階から2階へと上がる階段は紫ではなくブラックに塗った。
1階奥から洗面スペースを見る。左側が寝室。
1階奥から洗面スペースを見る。左側が寝室。


高級ホテルのような雰囲気をもつ洗面室と浴室。須田さんは休みの日に、お風呂に入りながら外を眺めたいと浴室の位置にこだわったという。
高級ホテルのような雰囲気をもつ洗面室と浴室。須田さんは休みの日に、お風呂に入りながら外を眺めたいと浴室の位置にこだわったという。

2階とは対照的にダークな色合いの壁と上辺を斜めにデザインされた開口が印象的な寝室。
2階とは対照的にダークな色合いの壁と上辺を斜めにデザインされた開口が印象的な寝室。
寝室から奥に浴室を見る。
寝室から奥に浴室を見る。


「ホテルのような非日常性を感じられる空間」をコンセプトのひとつとして建てられたこの家で、奥さんが予想外に良かったというのは裏のデッキ。「風も通るし、とても気持ちがいい」と言う。別荘などでよく見かけるタイプのこのデッキ、訪れた人たちもここがいちばん気持ちがいいと言ってデッキに置かれた椅子にずっと座っていることが多いという。

奥さんが特に気に入っているのはキッチンで、「空間が広くてすごく居心地がいい」という。
須田さんは、2階南側の開口から見える海の景色がお気に入りだ。特に冬の透明感溢れる海の眺めは格別で、感動的ですらあるという。大きな2つの開口でフレーミングされた風景は、「五感に訴えてくる」とも。非日常性を演出する建築的仕掛けがとてもうまく機能している、そのように感じられた。


三角屋根と2つの大きな開口が特徴的な南側外観。
三角屋根と2つの大きな開口が特徴的な南側外観。
屋上から大磯の海を望む。 
屋上から大磯の海を望む。
 
デッキはちょうど木陰になる位置にある。
デッキはちょうど木陰になる位置にある。


人が集まった時には窓際の段差の部分や階段に座る人がいるが、ダイニングから距離が近く一体感が感じられていいという。
人が集まった時には窓際の段差の部分や階段に座る人がいるが、ダイニングから距離が近く一体感が感じられていいという。

須田邸
設計 CUBO design architect
所在地 神奈川県大磯町
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 99.4m2