木とともに暮らす屋内で自然を感じる“広場”のある家

木とともに暮らす屋内で自然を感じる
“広場”のある家

「迷路のような路地を抜けていったら、ちっちゃなかわいい公園があったという感じで…」

家のコンセプトのひとつをこう表現してくれたのは間田真矢さん。間田邸は夫の央さんとともに建築設計事務所を共同主宰する彼女の仕事場ともなっている。「かわいい公園」というのは、家の中央に位置する、真矢さんが“広場”と呼ぶ大きな吹き抜けスペースのことだ。天井のトップライトまで6m、中央には大きなシマトネリコの木が立つ。


真矢さんの仕事場から“広場”を見下ろす。右下にキッチン。向かいのやや細長い形状をした箱には、下から、バスなどの水回り、書斎、寝室が収められている。仕事場も含め、どの空間にも扉がないため、とても奥行き感が感じられる。

真矢さんの仕事場から“広場”を見下ろす。右下にキッチン。向かいのやや細長い形状をした箱には、下から、バスなどの水回り、書斎、寝室が収められている。仕事場も含め、どの空間にも扉がないため、とても奥行き感が感じられる。

キッチン・玄関の上が仕事場となっている。

キッチン・玄関の上が仕事場となっている。

大きな吹き抜け空間に接して、開放感のある真矢さんの仕事場。

大きな吹き抜け空間に接して、開放感のある真矢さんの仕事場。


南欧の広場のイメージも…

夫婦で設計を手掛けたこの家の出発点は“庭”だった。「とにかく庭が欲しかった」という真矢さん。最初は家の南側に庭をつくることも考えたという。しかし、庭をつくって北側に建物を寄せると、建物と庭の両方が中途半端な大きさになってしまうので断念。ほかの案も検討した末に、庭のような吹き抜けスペースを持つ現デザインに落ち着いた。

この家にはまた、「おじさんたちが路地にテーブルを出して陽気におしゃべりをしながらワインを飲んでいたりする」、ヨーロッパでよく見かける「気軽な感じのある場所」のイメージも流れ込んでいるという。


玄関を入るとすぐ、この規模の住宅では規格外の大きさを持つ“広場”が迎える。戸外がそのまま室内へと連続したような趣だ。

玄関を入るとすぐ、この規模の住宅では規格外の大きさを持つ“広場”が迎える。戸外がそのまま室内へと連続したような趣だ。

すぐ近くに見える隣家の窓。そんな感覚も抱かせる位置関係と窓のデザイン。

すぐ近くに見える隣家の窓。そんな感覚も抱かせる位置関係と窓のデザイン。

“広場“で休む真矢さんに思わず声を掛けたくなるような、程よい距離感。

“広場”で休む真矢さんに思わず声を掛けたくなるような、程よい距離感。


そういえば、この家の“広場”には、白い家壁に囲まれた南欧あたりの小さな広場にも通じる空気感がある。窓から住人が「おはよう!」と、通りかかった顔見知りに気軽に声を掛けるような、生活と密着感のある広場…。

両サイドにある大きな壁も小さな広場を囲む家々の壁のようだ。しかも、窓台が“広場”へと家の内部に少し突き出て、その上に鉢植えや花瓶も置かれている。

実際、南欧にあるような「建物に挟まれた小さな広場」も意識したそうだが、設計作業では、3つの要素をひとつの家の中にどう落とし込むかが大きなテーマになったという。


玄関・キッチン上部にある真矢さんの仕事場はモダンな箱型スペース。

玄関・キッチン上部にある真矢さんの仕事場はモダンな箱型スペース。

書斎から寝室に至る階段も抽象度の高いモダンデザイン。

書斎から寝室に至る階段も抽象度の高いモダンデザイン。

手すり、階段の踏面とそれを支えるスチール材にも軽やかなモダンな処理が施されている。

手すり、階段の踏面とそれを支えるスチール材にも軽やかなモダンな処理が施されている。


モダンデザインと素材感

3つのうちのひとつが、モダンデザインだった。広場の両端につくられた居住スペースは、どちらもシャープなデザインの四角い箱の形状とし、ディティールにも、階段の踏み板の先を薄くカットしたり、手すりを出来る限り細くするなど、モダンデザインの処理を施した。

2つめは、素材感。壁を漆喰にしてコテ跡をしっかり見せ、また、フローリングも無垢にして塗装で仕上げず、木肌を感じる仕上げに。

モダンデザインはともすると硬めの印象になりがちだが、こうして素材感を出すことで“広場”に面した空間に柔らかさが加わった。“広場”の床の煉瓦タイルも、目地を取らずにわざとデコボコ感を出したため、モダンデザインのフラットな印象を和らげている。


見上げると、一層、ヴォリュームを感じる枝ぶり。心地よい木陰を提供する。夫の央さんは休日に、このシマトネリコの木陰で昼寝することもあるという。家の中での木陰のまどろみ――普通では考えられない贅沢だ。

見上げると、一層、ヴォリュームを感じる枝ぶり。心地よい木陰を提供する。夫の央さんは休日に、このシマトネリコの木陰で昼寝することもあるという。家の中での木陰のまどろみ――普通では考えられない贅沢だ。


自然を楽しむ家

3つめの要素が中央に位置することになる木だった。庭をもつことにこだわった家づくりで、当然、これは大きなポイントだった。枝葉の付き具合に加えて、半落葉樹であることと、丈夫であまり手間がかからないことなどからシマトネリコを選んだ。

「これから春になると、蝶がよく迷いこんできます。 シマトネリコからもたくさん新芽が出てきてぐんぐん育ち、 夏前には、とても小さなものですけど、花も咲かせます」

家にいながら自然の息吹を感じさせるシマトネリコ。癒し効果も抜群だ。真矢さんは、木のほうを見やるたびに仕事の疲れが癒される毎日だという。


6mあるトップライトの近くまで伸びたシマトネリコ。キッチンからの見上げが彼女のお気に入りの眺めだ。

6mあるトップライトの近くまで伸びたシマトネリコ。キッチンからの見上げが真矢さんのお気に入りの眺めだ。

木陰でリラックスのひと時。

木陰でリラックスのひと時。

シマトネリコの脚もとには、水やりのための蛇口がある。

シマトネリコの脚もとには、水やりのための蛇口がある。


シマトネリコの木とともに、とても明るく開放的な“広場”が魅力のこの家、「晴れている日は、人一倍うれしくなる」という。でも、この空間の魅力は、晴れた日だけじゃないと、最後に、真矢さんが教えてくれた。

「けっこう雪の時もいい感じですよ。トップライト全体に雪が被るので、大きなかまくらの中にいるような、しっとり感があるし、室内にいながらしんしんとした雰囲気も感じられて」

雪が解けるときには、キラキラと光って美しく、雨の日もトップライトにできる波紋の変化が面白い、という。

寒さにかじかむことも雨に打たれることもなく、室内でどんな天候も楽しめる。家にはそんな楽しみ方もあったんだな――都会生活で忘れかけていた感覚がふと呼び起こされる気がした。


時間帯によって壁につくり出される光の造形。この形が変わっていくのを追うのも楽しみ。

時間帯によって壁につくり出される光の造形。この形が変わっていくのを追うのも楽しみ。

木片からつくられたキリンの彫刻。木の葉を食べようとしているかのよう。

真矢さんの仕事場に吊るされていたプラスチック製のアルファベットは事務所名を象ったもの。

真矢さんの仕事場に吊るされていたプラスチック製のアルファベットは事務所名を象ったもの。

木片からつくられたキリンの彫刻。木の葉を食べようとしているかのよう。

キッチン回りの食器類にもデザイナーらしい繊細なセンスが行き届いている。

キッチン回りの食器類にもデザイナーらしい繊細なセンスが行き届いている。


間田邸
間田邸
設計  mamm-design
所在地 東京都世田谷区
構造 鉄骨造
規模 地上2階・地下1階
延床面積 60.67㎡