Design

ミラノ・サローネ特集2013 – 3 –テーマパビリオンで展開された
エコで斬新な”光”のアイディア

「Punctum」Nigel Coatesデザイン。ステンレス素材、LED仕様。
ミラノ・サローネでは隔年で「キッチン」もしくは「照明」をテーマとしたパビリオンを設ける。2013年は「照明(Euroluce)」。2つの大きなパビリオンで展開されたEuroluceでは、エコロジーを唱えるLEDを前面に押し出したブースが有名無名を問わず、どこも活況を呈していた。翻って今ひとつ元気がなかったのが、ヴェネツィアガラス陣。大掛かりなシャンデリアなどクラシックな世界は見応えはあっても時代の気分ではないということだろう。そのほか、ユニークな商品展開を見せたカナダ、スペインのメーカー等が気を吐いていた。


SLAMP スランプ

「Punctum」Nigel Coatesデザイン。ステンレス素材、LED仕様。
「Punctum」Nigel Coatesデザイン。ステンレス素材、LED仕様。

空間の主役を張る
一点集中主義

デザイン大国イタリアを体現するような「スランプ」社。カリスマCEOロベルト・ズィラーニが率いる同社の1992年創立以来のスタイルは「夢と情熱に支えられた未来を目指す若者集団が偉大なるマエストロとの対話を繰り広げるアトリエ」。しかも、“光の速さ”で時代を行くのだという。2002年にナイジェル・コーツをアートディレクターに迎え、そのスピードはさらに加速している。同社の強みは、デザインを実現化する技術と特殊素材の開発力にある。名だたるデザイナーのほとんど実現不可能ではないかと思われるようなアイディアを現実の形にしてしまうのだ。デザイン大国を担う代表的企業の一つである。



「Aria」(黒)「Avia」(白)Zaha Hadidデザイン。「Aria」はスランプ社が開発した特殊軽量素材クリスタルフレックス製の羽50枚を使用。同様に「Avia」はオパールフレックス製の羽52枚使用。
「Aria」(黒)「Avia」(白)Zaha Hadidデザイン。「Aria」はスランプ社が開発した特殊軽量素材クリスタルフレックス製の羽50枚を使用。同様に「Avia」はオパールフレックス製の羽52枚使用。
「Clizia」Adriano Racheleデザイン。オパールフレックス製の無数の正方形の羽を縫い合わせた集合体。軽く、触ると曲がるほど柔らかい。色は白、黒、ブルー、オレンジ、パープルの5色。
「Clizia」Adriano Racheleデザイン。オパールフレックス製の無数の正方形の羽を縫い合わせた集合体。軽く、触ると曲がるほど柔らかい。色は白、黒、ブルー、オレンジ、パープルの5色。
「Etoile」Adriano Racheleデザイン。バレリーナの衣装を思わせる姿。スランプ社が開発したレンティフレックス製。LED仕様。直径900mmと730mmの2サイズ。
「Etoile」Adriano Racheleデザイン。バレリーナの衣装を思わせる姿。スランプ社が開発したレンティフレックス製。LED仕様。直径900mmと730mmの2サイズ。


「Illuminati」Nigel Coatesデザイン。ウォールライト。ポリカーボネートに着色。「Uomo」(男)は高さ500mm、ブロンズ色で「天分」や「力」、「価値」を表し、「Donna」(女)は高さ420mm、ゴールドで「尊さ」、「優雅」「確かなもの」を表している。


Album アルブム

「Medusina」小さなライトを幾つも使えばまるで海底にいるような気分に。
「Medusina」小さなライトを幾つも使えばまるで海底にいるような気分に。

顧客の私的な好みを
最優先するイタリア式

ミラノの北、モンツァ郊外に本社を構える「アルブム」が、創業以来25年間に渡って貫いてきたフィロソフィーは「必要なところだけに光を」。顧客のあらゆる好みと必要に応じるためラインナップは幅広く、ペンダント、天井及び壁埋め込み型、卓上、鏡など目に見えるモデルはもちろんのこと、独自の配電システムも開発し、ありとあらゆる場所に照明を設置できることがセールスポイントだ。室内だけでなく屋外照明も手がけ、またもちろん、LEDの分野にも積極的に取り組んでいる。



同社はネーミングもユニーク。“クラゲ”のほか、“小さなイカ”“蝶”“滴”“雲”などの自然界のほか、“モッツァレッラ”などという名前のモデルも。
同社はネーミングもユニーク。“クラゲ”のほか、“小さなイカ”“蝶”“滴”“雲”などの自然界のほか、“モッツァレッラ”などという名前のモデルも。

Anglepoise アングルポイズ

「Giant1227」同社のアイコニック商品のビッグスケール。本来はロアルド・ダール博物館のために製作されたモデル。
「Giant1227」同社のアイコニック商品のビッグスケール。本来はロアルド・ダール博物館のために製作されたモデル。

元祖は頑にスタイルを守る
オーセンティックの本懐

デスクトップライトのクラシック、英国の「アングルポイズ」。1935年に発表された「1227」は、スプリングにより自在にアームを動かせるという画期的な仕組みによって、タスクライトとして机上での作業効率を格段に向上させた。以来、改良を重ねつつもオリジナルの姿を損なうことなく、デスクのみならずフロア、トップ、ウォールにラインナップを広げている。伝統を感じさせるスタイルはさまざまなシーンで独特の世界を繰り広げる。通常モデルの3倍の大きさである「Giant」は空間を圧倒する存在感でインテリアの要となり、また、ウォール据え付けの小型タイプはエレガントで落ち着いた雰囲気を醸し、ペンダントであればあえてポップな色を選んで明るいダイニングを演出する。オーセンティックだからこそ遊びが楽しめるのだ。


「Giant1227」Floor デスクトップタイプの3倍のスケール。アルミニウム製、キャスター付き。色は「クラシック」「トランキル」「ヴィヴィッド」の3レンジ10色展開。
「Giant1227」Floor デスクトップタイプの3倍のスケール。アルミニウム製、キャスター付き。色は「クラシック」「トランキル」「ヴィヴィッド」の3レンジ10色展開。
「Giant1227」Pendant フロアタイプ同様、3倍スケール。色も同様に3レンジ10色。
「Giant1227」Pendant フロアタイプ同様、3倍スケール。色も同様に3レンジ10色。



「Type75」ウォールタイプ。ソケット部分が内包されたシンプルなフォルム。


Atelier Alain Ellouz アトリエ・アラン・エルーズ

アラバスターの持つ自然の模様がまるで月のような表情を見せる。
アラバスターの持つ自然の模様がまるで月のような表情を見せる。

天然石を自在に操る
幻想的な光の世界へ

天然の鉱石アラバスターはその乳白の輝きと光を透過させる性質から古来、神聖なものとして宗教建築や美術品の素材として用いられてきたし、アラバスターを使ったランプシェードは中世の富裕層の屋敷でしばしば見かけられるものだった。「アトリエ・アラン・エルーズ」はこのアラバスターとロッククリスタルを専門にデザイン加工するフランスのメーカー。アラバスターは加工しやすいが脆い質なので、同社では成型後に独自の工程をほどこして強度を上げている。テーブル、カウンター、椅子、シンク、ウォール、フロアタイルまでおよそ室内のありとあらゆる部分をアラバスターやロッククリスタル仕立てにすることができるという。一般住宅ではなかなか難しい素材だが、シンプルな球体やキューブ型のライトは一つあると空間の印象を変えてくれるだろう。


Euroluceでのブース。石を通した柔らかな光は他のブースとは異なる雰囲気。
Euroluceでのブース。石を通した柔らかな光は他のブースとは異なる雰囲気。
スイッチオフにすると大理石のように見える。
スイッチオフにすると大理石のように見える。
「Cube Anapurna」ロッククリスタル製。高さ16cmから32cmまでの3サイズ展開。一番小さいものは3kg、最大は25kg。
「Cube Anapurna」ロッククリスタル製。高さ16cmから32cmまでの3サイズ展開。一番小さいものは3kg、最大は25kg。
普通は日陰な存在のサイドテーブルもインテリアのポイントに。
普通は日陰な存在のサイドテーブルもインテリアのポイントに。


BeWare ビーウェア

シリコン製ペンダント「Grace」モデル。
シリコン製ペンダント「Grace」モデル。

逆もまた真なり
製菓器具メーカーの挑戦

「BeWare Light Concept」は2012年9月にヴェネツィアで旗揚げしたばかりの新ブランド。母体はシリコン樹脂製の製菓器具を主に製造するメーカー。「シリコン樹脂製の製菓用の型をひっくり返してみたらランプシェードに見えた」のが発端で、考えてみたら可塑性、耐熱性に優れ、手入れも簡単で洗浄も可能、つまり照明器具に適しているというわけで、研究開発を重ね、この度、7モデルを持ってサローネに臨んだのである。こなれた価格も魅力で、1個80ユーロ弱。複数個を単色で、あるいはカラフルに使ってみるのもいいだろう。


型は7モデル、色は型によるが、2〜5色。表面はサティナートという淡い光沢加工、耐熱温度は230度。
型は7モデル、色は型によるが、2〜5色。表面はサティナートという淡い光沢加工、耐熱温度は230度。


照明と同時に万能コンテナーもリリース。パンや果物カゴとして、また鉢カバーなどに。


Bocci ボッチ

吹きガラスの偶発性を生かしたデザイン。
吹きガラスの偶発性を生かしたデザイン。

自然な柔らかさを醸す
アンティーク的光

2005年にカナダのバンクーバーに設立された「ボッチ」社は、本社内にガラス工房を持ち、デザイナー始め全社員が工房とダイレクトなつながりを持つというユニークな企業構造を持つ。ガラス以外の素材についても全て地元で調達するという地域密着型だが、そのデザインの独自性と素材を生かすアレンジ力とで短期間に世界的な成功をなし得た。吹きガラスは、最も原始的なガラスの製法の一つだが、形状や気泡など、2つと同じものがないところが魅力。不均一な厚みも光を通すとゆらぎを生み、独特の温かみをもたらす。同社の製品はこうした吹きガラスの特性を生かした、アンティークのような柔らかい光を発する点が多くの人の共感を呼んでいる。


シリーズ「28」 無色のほかカラーバリエーションは豊富で、全体に色がついたもの、ホール部分のみに色がついたものに分かれる。単体、もしくは、このように複数個を束ねてシャンデリアにすることもできる。
シリーズ「28」 無色のほかカラーバリエーションは豊富で、全体に色がついたもの、ホール部分のみに色がついたものに分かれる。単体、もしくは、このように複数個を束ねてシャンデリアにすることもできる。

シリーズ「38」は「28」のバリエーション。深いホール部分にエアプランツを入れることができる。不規則なワイヤー使いで空間に有機的な動きを演出。
シリーズ「38」は「28」のバリエーション。深いホール部分にエアプランツを入れることができる。不規則なワイヤー使いで空間に有機的な動きを演出。
「28」のバリエーション 暗色ガラスはドラマチックな雰囲気を与える。
「28」のバリエーション 暗色ガラスはドラマチックな雰囲気を与える。


Catellani&Smith カテッラーニ&スミス

グラスファイバーの半球体のシェード。白色のほか、金、銀、ナチュラルベージュがあり、それぞれの陰の色が異なってくる。
グラスファイバーの半球体のシェード。白色のほか、金、銀、ナチュラルベージュがあり、それぞれの陰の色が異なってくる。

極めて人工的に作り出す
有機的な光と陰の世界

光があれば陰があり、自然があれば人工がある。二つのものの間の絶妙なバランスを探求するのが、「カテッラーニ&スミス」社の信条だ。ミラノ近郊のベルガモに1989年に設立以来、エンツォ・カテッラーニ率いる同社は、照明という分野におけるアートの世界をクリエイトし続けている。緑豊かな田園地帯で、古い水車小屋にオフィスを構え、近隣の工場では川のせせらぎが聞こえ壁を覆うジャスミンの香りに包まれているという。そんな環境で、職人による手仕事をもって自然から得たインスピレーションを形にすれば、夜空を思わせる製品が生まれるのも至って道理だ。エコロジカルであることを大前提として、2013年発表の新作は全てLED仕様である。


「Lederam」通称“皆既日食”。極小LEDを使用、およそ1300ルーメン(80W相当)の明るさ。
「Lederam」通称“皆既日食”。極小LEDを使用、およそ1300ルーメン(80W相当)の明るさ。
「PostKrisi」サイズは直径140mmから1200mmまで、色は白、ナチュラルのほか、黄、青、赤。
「PostKrisi」サイズは直径140mmから1200mmまで、色は白、ナチュラルのほか、黄、青、赤。


Foscarini フォスカリーニ

「Rituals」Ludovica & Roberto Palombaデザイン。
「Rituals」Ludovica & Roberto Palombaデザイン。

照明界に息づく
ヴェネツィア的現実派

一千年もの間、海洋共和国として小国ながらその存在感をヨーロッパの歴史の中に刻み込んできたヴェネツィア。その偉業はヴェネツィア人の現実を見つめ冷静に判断し、商機を逃さないという性質に負うところ大だと言われる。「フォスカリーニ」社はまさにそのヴェネツィア気質によって現代の照明業界で堂々の一角を占める企業である。1981年にヴェネツィアのガラス産業本拠ムラーノ島に旗揚げし、さまざまな世界的デザイナーとコラボレーションした製品を世に送り続け、イタリアのプロダクトデザイン最高の賞コンパッソ・ドーロ賞も獲得している。2013年サローネでも内外の若手並びに有名デザイナーを起用した9つの新作のほか、2009年より提携関係にあるジーンズメーカー「Diesel」ブランドの新作も発表した。


「Lake」Lucidi&Pevereデザイン。まさに湖の湖面のよう。LED仕様。
「Lake」Lucidi&Pevereデザイン。まさに湖の湖面のよう。LED仕様。

「BIG BANG」外部デザイナーではなく自社工場の職人がデザイン。LED仕様。
「BIG BANG」外部デザイナーではなく自社工場の職人がデザイン。LED仕様。
「CABOCHE」Patricia Urquiola & Eliana Gerottoデザイン。2005年発表の製品をLED仕様でリメーク。
「CABOCHE」Patricia Urquiola & Eliana Gerottoデザイン。2005年発表の製品をLED仕様でリメーク。
「NUAGE」Phillippe Nigroデザイン。60年代前衛アートに想を得た。名前は“雲”という意味。
「NUAGE」Phillippe Nigroデザイン。60年代前衛アートに想を得た。名前は“雲”という意味。
「STEWIE」Luca Nichettoデザイン。中央はスポーツウェアやスーツケースに使われる特殊なテキスタイルを使用。名前はアニメのキャラクターから。
「STEWIE」Luca Nichettoデザイン。中央はスポーツウェアやスーツケースに使われる特殊なテキスタイルを使用。名前はアニメのキャラクターから。



「Successful Living from Diesel with Foscarini」キーワードはロック、ポップ、カジュアル、ヴィンテージ。
「Successful Living from Diesel with Foscarini」キーワードはロック、ポップ、カジュアル、ヴィンテージ。

FrauMaier フラウマイヤー

「slimsophie」(左)は同社のフラッグシップ。「minisophie」(右手前)、ボリュームのある「fatsophie」(奥)のほか、シェードは白でスタンドがカラフルな「annie」(右)もある。
「slimsophie」(左)は同社のフラッグシップ。「minisophie」(右手前)、ボリュームのある「fatsophie」(奥)のほか、シェードは白でスタンドがカラフルな「annie」(右)もある。

ドイツの家庭に似合う
クリーンな色彩とライン

犬や猫が駅長だったり、社員だったり、というのは日本でもないわけではないが、「フラウマイヤー」社のボスはビーグル犬のマイヤー嬢。南ドイツのエスリンゲンに創業してまだ8年という若い会社だが、マイヤー嬢をトップに掲げることからもわかるように、親しみやすく使いやすい、そしてリーズナブルな価格の製品を提供し、ドイツ・北欧を中心にヨーロッパ各地、そしてオーストラリアにも販路を拡大するなど、順調に伸びている企業だ。シンプルだが特徴的なデザインは一度見たら忘れられない。サローネ会場ではマイヤー嬢もちゃんとブースで“接客”に勤しんでいた。いろんな意味で独自の路線を行くメーカーである。


「slimsophie」高さ1760mm。全12色。
「slimsophie」高さ1760mm。全12色。
「annie」高さ1680mm、全6色。
「annie」高さ1680mm、全6色。


LASVIT ラスヴィト

「Bamboo」Jitka Kamencova Skuhravaデザイン。チェコのガラス・デザイナーによるインスタレーション。自然の中にモチーフを見つけるという。
「Bamboo」Jitka Kamencova Skuhravaデザイン。チェコのガラス・デザイナーによるインスタレーション。自然の中にモチーフを見つけるという。

ボヘミアガラスの
新しい光と形

ヨーロッパ中世において、ガラス器の製造は長くヴェネツィアによって独占され、ごく一部の富裕層にだけ許される贅沢品だった。ところが、近代になり、ボヘミア(現チェコ)の安価なガラス製品が市場を席巻、ヴェネツィア共和国はすでに没落久しかったが、ガラス産業は滅亡寸前まで追い込まれたのである。以来、ボヘミアガラスといえば、手頃な価格のそこそこ綺麗なガラス器の代名詞となった。2007年にプラハに設立した「ラスヴィト」社はしかし、そんな従来のボヘミアガラスのイメージにとどまらず、有名デザイナーやチェコのデザイナーを起用したアーティスティックな世界に挑戦するメーカーである。今年のサローネでは会場内のブースでも、会場外のトルトーナ地区でも大掛かりなインスタレーションを展示。ボヘミアガラスの新たな一面を存分に披露していた。


「Jar RGB」Arik Levyデザイン。三原色に白をプラスすることで光に広がりが出るという。
「Jar RGB」Arik Levyデザイン。三原色に白をプラスすることで光に広がりが出るという。
「Art Bulb」Rony Pleslデザイン。昔ながらの工場ライトに、凹凸カッティングをほどこした電球型のガラスを組み合わせた。
「Art Bulb」Rony Pleslデザイン。昔ながらの工場ライトに、凹凸カッティングをほどこした電球型のガラスを組み合わせた。


Liat Poysner Kantor リア・ポイスナー・カントー

「weaving」極細いワイヤーですだれのように光源を覆っている。
「weaving」極細いワイヤーですだれのように光源を覆っている。

無機質なマテリアルの
無限の可能性

サローネ会場内の小さなブースはひっそりとしていた。人がいないわけではなく、誰もが小さな声で会話をしていた。展示されているのはメタリックなオブジェのような照明。どれもさほど大きくはなく、住宅やオフィスで使われることを想定したサイズ。しかし、その近寄り難い雰囲気は、多くの人に受け入れられるものではないことを物語っている。イスラエルで活躍する照明デザイナー自らの名を冠した「リア・ポイスナー・カントー」は、デザイナーの個性を静かに、しかし強烈に表現するブランドだ。扱う素材は金属のみ。無機質なマテリアルなのにどこか有機的な動きや不安定さを漂わせ、それでいて落ち着きを醸し出す、不思議な照明である。


「plate spiral」一枚の金属板に、精密板金の技術であるフォトエッチング加工をほどこしてスパイラル状のシェードを作り出している。
「plate spiral」一枚の金属板に、精密板金の技術であるフォトエッチング加工をほどこしてスパイラル状のシェードを作り出している。
「plonter」流れるようなラインは“印象主義”を形にしたもの。形状を保つための素材研究に多大な時間を費やしたという。
「plonter」流れるようなラインは“印象主義”を形にしたもの。形状を保つための素材研究に多大な時間を費やしたという。


Lithos Design リトス・デザイン

大理石を加工し、光を透過させる装飾ウォール「Pietre Luminose」シリーズ。
大理石を加工し、光を透過させる装飾ウォール「Pietre Luminose」シリーズ。

光が映し出す
大理石の神秘

大理石は本来、光をあまり通さない鉱物である。しかし、大理石のなかでも幾つかの種類は光を通す性質がある。その特殊な大理石を使って透過光壁面をプロデュースするのが「リトス・デザイン」社だ。イタリアのヴェネト州ヴィチェンツァ郊外の山間で石材加工業を営んできたベヴィラックア家は、父の跡を継いだクラウディオとアルベルト兄弟の代となって、新たなプロジェクトを発表するブランドとして2007年に同社を立ち上げた。大理石を始めとする天然石の無垢のみを扱い、床や壁の装飾を手がけている。ミケランジェロは大理石の塊から「ここから出してほしいと叫んでいるものを彫り出す」と言ったが、同社も石の声を聞き、石が最もふさわしい形になるように仕立てることを信条とする。今年のサローネでは、“石のプロ”としての経験と技術を注ぎ込んだ件の「ピエトレ・ルミノーゼ」シリーズを発表。現段階では8パターンのみの展開だが、徐々にバリエーションを増やしていくという。


「Antares」モデルを使った一例。トスカーナ州カッラーラの大理石を使用
「Antares」モデルを使った一例。トスカーナ州カッラーラの大理石を使用

「Alcor」モデル。スイッチをオン/オフすることによって二つの異なる表情をもたらす。単位は600mm×600mmの正方形で、1枚ごとに独立した照明装置がつく。組み合わせが利く上に、1枚だけを絵画のように飾ることも可能。
「Alcor」モデル。スイッチをオン/オフすることによって二つの異なる表情をもたらす。単位は600mm×600mmの正方形で、1枚ごとに独立した照明装置がつく。組み合わせが利く上に、1枚だけを絵画のように飾ることも可能。
照明機能はないが、同社のほかの製品の一例。布のドレープ感を石で表現している。
照明機能はないが、同社のほかの製品の一例。布のドレープ感を石で表現している。


Petite Friture プティ・フリトゥール

「RAY」Tomas Kralデザイン。アルミニウムとエポキシ樹脂を使用。
「RAY」Tomas Kralデザイン。アルミニウムとエポキシ樹脂を使用。

パリの暮らしを彩る
エスプリの利いた照明

「プティ・フリトゥール」、小さな揚げ物などという名前からして、自由気ままそうなメーカーだと想像がつく。フランスで2009年に誕生したマニュファクチャーをベースとするデザインプロダクツの企業だ。扱うのはさまざまな生活シーンにちょっとした楽しみや個性をプラスするアイテム。照明、テーブル、椅子、鏡、テーブルウエアから小物の類いまでさまざま。いわゆる雑貨の範疇に当てはまるが、どれもあまり子供っぽくはなく、いかにもフランスらしいエスプリを感じさせるデザイン。時代の最先端を目指してしのぎを削るメーカーが集うサローネで、アットホームでマイペースな雰囲気を醸し、逆に印象深かった。


「Tidelight」Pierre Favresseデザイン。自動車工場で見かけたものにインスピレーションを得た。ガラスが透明なものとスモークの2種類がある。
「Tidelight」Pierre Favresseデザイン。自動車工場で見かけたものにインスピレーションを得た。ガラスが透明なものとスモークの2種類がある。
「Vertigo」Constance Guissetデザイン。空中に浮遊する不思議な物体のよう。色は白のほか、黒、ターコイズ、コッパーの4色。
「Vertigo」Constance Guissetデザイン。空中に浮遊する不思議な物体のよう。色は白のほか、黒、ターコイズ、コッパーの4色。


Terzani テルツァーニ

「ANGEL FALLS」Nigel Coatesデザイン。クリスタルガラス製、ハロゲンもしくはLED仕様。
「ANGEL FALLS」Nigel Coatesデザイン。クリスタルガラス製、ハロゲンもしくはLED仕様。

照明の域を超え
オブジェと化す

1972年イタリア、フィレンツェに創業した「テルツァーニ」社は、メタル素材やガラスを用いたデザイン照明のメーカー。特にシルバーカラーのドラマチックでエレガントなデザインで、ホテルやレストランなどを豪奢に演出することを得意とする。空間を光で照らすというよりも、光を使ったオブジェで場の雰囲気をコーディネートするといったほうがいいだろう。ナイジェル・コーツやマウリツィオ・ガランテといった大御所デザイナーとのコラボレーションにも積極的だ。



「Argent, A Silver Cloud」Dodo Arslanデザイン。シルバーの小さな円盤が無数に連なり、光を反射する。金属加工と成型は職人の手仕事による。


VIBIA ビビア

「Meridiano」Jordi Vilardell & Meritxell Vidalデザイン。屋外用の照明。
「Meridiano」Jordi Vilardell & Meritxell Vidalデザイン。屋外用の照明。

スペイン式リニアな
美しさを追求する

原始より光は人間の憧れだった。太陽は万物を育て、闇夜の月明かりは不安を取り除いた。そんな憧れの光を自在に操り、美しく見せることが、「ビビア」社のモットーだ。スペイン・バルセロナに1987年に創業した同社はスペインのデザイナーを始め、世界で活躍するデザイナーとともにシンプルで美的な照明の製作に勤しんでいる。デコラティブとは無縁な、リニアなラインが特徴的で、今年はNendoによるリネン製の「NUNO」、壁面に差し込む小片の傾きを変化させて光と陰の動きをアレンジする「SET」(Josep Lluis Xuciaデザイン)、ワイヤーと電球のみのシンプルな組み合わせに幾何学的な造形を与えるArik Levyの「Wireflow」等を発表した。


「Wireflow」Arik Levyデザイン。
「Wireflow」Arik Levyデザイン。
「NUNO」Nendoデザイン。
「NUNO」Nendoデザイン。
「Cosmos」Lievore Altherr Molinaデザイン。
「Cosmos」Lievore Altherr Molinaデザイン。
「SET」Josep Lluis Xuciaデザイン。
「SET」Josep Lluis Xuciaデザイン。
「Into」Cornelissenデザイン。
「Into」Cornelissenデザイン。


VITA ヴィータ

たたんでフラットに収納できるシェード。新作は羽の「Eos」。
たたんでフラットに収納できるシェード。新作は羽の「Eos」。

たためる照明の
“フェザー”級に注目

デザインというものは見た目だけでなく、機能性や利便性などさまざまな側面を持つ。全てにおいてバランスよく及第点をとるデザインとなると、イタリアなどはあまり得意ではなく、北欧にトップの座を譲らざるを得ないだろう。デンマーク・コペンハーゲンで2008年に創業した「ヴィータ」社は、北欧らしいモダンデザインのシェードをフラットなパッケージに納めた製品でその認知度を高めた。50ユーロを切る価格帯の製品もあり、一般家庭から商業施設まで幅広いクライアントを獲得している。


「Eos」シリーズ。サイズは直径350mmのミニ、直径450mmのスタンダード、直径750mmのxlの3種類。
「Eos」シリーズ。サイズは直径350mmのミニ、直径450mmのスタンダード、直径750mmのxlの3種類。
「Silvia」シリーズ。ポリカーボネートとポリプロピレン使用。
「Silvia」シリーズ。ポリカーボネートとポリプロピレン使用。


Artemide アルテミデ

「Paragon」Daniel Libeskindデザイン。
「Paragon」Daniel Libeskindデザイン。

人に寄り添う照明
イタリア的考え方

中世のイタリアの僧が、宗教改革以前のドイツの教会でのミサを見て、「誰もおしゃべりをしているものがいない」と感動したという。つまり、イタリアのミサではその時代すでに私語が絶えなかったということ。このエピソードにはいろんな解釈があるだろうが、穿って言えば、たとえ神様の前であっても現世に生きる自分という人間が前面に出てしまう、それがイタリア人であるということを示しているようにも思う。1960年にエルネスト・ジスモンディによって設立されたミラノ近郊の照明メーカー「アルテミデ」は名実共にイタリアを代表する企業の一つである。同社の哲学は、The Human Light、人とともに、人のためにある照明、である。イノヴェーションは人のより良い暮らしのためにあり、イノヴェーションのためのイノヴェーションであってはならない(ましてや神のためでもない)ということを実践し、業界をリードしてきた。そのアルテミデ社は今年のサローネで、ジスモンディ率いる同社のデザイナー陣、並びに、ジャン・ヌーヴェルなどトップデザイナー・建築家による同社の哲学に基づいた新作を発表。すべてLED仕様である。その多くは近未来的な突拍子もないデザインに見えるのだが、よくよく見れば、そして機能を理解すれば、なるほどと思うものばかり。中世の昔から脈々と受け継がれてきた、“人間ありき”の発想をとことん追求する姿勢、これはイタリア人のDNAのなせる業かもしれない。


「Paragon」4つのセグメントが動くことでさまざまな形状を見せるテーブルライト。最上部は360度回転でき、残りの3つは水平方向に90度まで曲がる。LED仕様。
「Paragon」4つのセグメントが動くことでさまざまな形状を見せるテーブルライト。最上部は360度回転でき、残りの3つは水平方向に90度まで曲がる。LED仕様。


「Objective」Jean Nouvelデザイン。直径72mm、高さ371mmのLED小型テーブルライト。基本的な使い方は3パターンあり、下部の間接照明、トップの直接照明、そしてトップを回転させることによるスポット照明である。トップ部分は本体を軸に360度回転可能。小さななかに最先端技術を注ぎ込んだ、極めてパーソナルな照明である。


「Solium」Karim Rashidデザイン。ガラスファイバー製の流れるようなラインがデザイナー曰く「ソフィア・ローレンのように」美しいフロアライト。
「Solium」Karim Rashidデザイン。ガラスファイバー製の流れるようなラインがデザイナー曰く「ソフィア・ローレンのように」美しいフロアライト。
「Empatia」Carlotta de Bevilacqua & Paola di Arianelloデザイン。ヴェネツィアのガラス職人とのコラボレーションによる吹きガラスドームのテーブルライト。LED仕様。スタンドをつけてフロアライトに、またペンダントライトにもアレンジできる。
「Empatia」Carlotta de Bevilacqua & Paola di Arianelloデザイン。ヴェネツィアのガラス職人とのコラボレーションによる吹きガラスドームのテーブルライト。LED仕様。スタンドをつけてフロアライトに、またペンダントライトにもアレンジできる。


ミラノ・サローネ特集、続きはこちら

ミラノ・サローネ特集 第1回「椅子」
ミラノ・サローネ特集 第2回「トピックス」
ミラノ・サローネ特集 第3回「照明」
ミラノ・サローネ特集 第4回「注目の若手デザイナー」