家具職人の住まい昭和の住宅を実験的カントリーハウスに

家具職人の住まい昭和の住宅を
実験的カントリーハウスに

300坪の土地に建つ中古住宅

東京都町田市。都内とは思えないほど緑豊かな風景の中に、板張りの外壁が目を引く1軒の住宅が建つ。ここに暮らすのは、「MOBLY WORKS」として、店舗の内装デザインや住宅の家具製作などを手がける鰤岡力也さん、菓子職人の妻・和子さん、そして長女のせとちゃん(3歳)の3人家族だ。

子どもがのびのび遊べる場所に家を建てたいと、土地探しをしていた鰤岡さん夫妻。探し始めて4年ほど経った頃にようやく出会ったのが、裏山を含めて300坪という異例の広さのこの土地だった。
「再建築不可の中古住宅付き」という一般的には敬遠される条件だったため、不動産屋さんにはおすすめされなかったというが、「周囲の環境が気に入ったし、建物自体は手を加えればどうにでもできると思ったので」と、鰤岡さん。
建築家の真田大輔さん(すわ製作所)に相談しながら、大規模なリノベーションを実施。内装デザインや素材選び、家具、建具などの製作はすべて自ら手がけた。


多彩なデザインテイスト、素材を組み合わせた実験的な空間。この建物の歴史を感じさせる重厚な梁が引き立つ。

多彩なデザインテイスト、素材を組み合わせた実験的な空間。この建物の歴史を感じさせる重厚な梁が引き立つ。

各所のドアも、すべて鰤岡さんの手によるもの。写真左手の廊下に続くドアは、ガラスとホワイトオーク材、アメリカ・ポートランドで購入したドアノブを組み合わせた。

各所のドアも、すべて鰤岡さんの手によるもの。写真左手の廊下に続くドアは、ガラスとホワイトオーク材、アメリカ・ポートランドで購入したドアノブを組み合わせた。

新設したハイサイドライトから、光と裏山の緑を取り込む。光を反射する効果を狙って、天井に光沢のあるレッドシダー材を張った。

新設したハイサイドライトから、光と裏山の緑を取り込む。光を反射する効果を狙って、天井に光沢のあるレッドシダー材を張った。



ショールームを兼ねた実験的空間

リビング・ダイニングに足を踏み入れると、まず目に入るのは、頭上に架かる迫力満点の梁だ。実は、リノベーションにあたって天井板を剥がしたところ、この梁が出現。「予想外に立派だったので、梁を生かした空間にしようと。この梁から家全体のイメージが膨らんでいきました」。
家具職人として、店舗の内装や家具製作を行っている鰤岡さん。自宅のインテリアは、この家の要である梁が引き立つカントリーを中心に、さまざまなテイストを組み合わせることに。
「自分がこれまで影響を受けたカントリーに、シェーカーやミッドセンチュリーのデザインを組み合わせると、どんな空間がつくれるのかというのがコンセプトでした」と鰤岡さん。
自身の仕事のショールームを兼ねた住まいとして、実験的な試みのある家づくりだった。


窓際に造り付けたソファは、1カ月ほど前にようやく完成したのだとか。「クッションは届いていたのに、なかなか土台が決まらなくて(笑)」と鰤岡さん。

窓際に造り付けたソファは、1カ月ほど前にようやく完成したのだとか。「クッションは届いていたのに、なかなか土台が決まらなくて(笑)」と鰤岡さん。

憧れだったバーモントキャスティングスの薪ストーブを導入し、ストーブライフを満喫中。「焼き芋をつくってみたら、絶品でした!」(和子さん)。

憧れだったバーモントキャスティングスの薪ストーブを導入し、ストーブライフを満喫中。「焼き芋をつくってみたら、絶品でした!」(和子さん)。

窓の外に見えるのは、菓子職人である和子さんの仕事場“お菓子小屋”。店舗を構えず、「WOLD PASTRIES」の名で全国のイベントやお店で出張販売を行っている。

窓の外に見えるのは、菓子職人である和子さんの仕事場“お菓子小屋”。店舗を構えず、「WOLD PASTRIES」の名で全国のイベントやお店で出張販売を行っている。

床材には、アメリカの工場で使われていたパインの古材を削り直して使用。表面はきれいだが、よく見ると所々に釘穴などが残っていて、味わいがある。

床材には、アメリカの工場で使われていたパインの古材を削り直して使用。表面はきれいだが、よく見ると所々に釘穴などが残っていて、味わいがある。


鰤岡さんが木工旋盤で挽いてつくったドアノブ。手によくなじみ、デザイン性と使いやすさを兼ね備えている。

鰤岡さんが木工旋盤で挽いてつくったドアノブ。手によくなじみ、デザイン性と使いやすさを兼ね備えている。

廊下の壁に設置したブラケットライトも鰤岡さんの作品。四方に光が広がり、陰影が美しい。

廊下の壁に設置したブラケットライトも鰤岡さんの作品。四方に光が広がり、陰影が美しい。


部屋ごとに幅木の素材や高さ、壁からの厚みまで変える徹底ぶり。リビングの幅木は、高さ250㎜、厚み13㎜に。

部屋ごとに幅木の素材や高さ、壁からの厚みまで変える徹底ぶり。リビングの幅木は、高さ250㎜、厚み13㎜に。

ドア枠は削って、丸みを持たせた仕上げに。この加工のためにアメリカから専用工具を買ってきたそうだ。

ドア枠は削って、丸みを持たせた仕上げに。この加工のためにアメリカから専用工具を買ってきたそうだ。


素材の力を生かす

素材選びの妙も鰤岡邸の特徴のひとつ。壁材に選んだレッドシダーは、まず色の濃さごとに材を分類して色調を揃え、目透かし加工を施して張った。また床のパイン材は、古材の中から木目が詰まったものだけを選別。表面を削って使用しているが、釘跡や穴といった古材ならではの風合いは残している。他にもキッチンや洗面室のタイル、玄関土間に使ったアパラチア山脈の砂岩など、一つひとつの素材を吟味して選んだ。
「素材そのものの力を生かした家にしたかったので、10年、20年後に魅力が増す素材を選びました。そして、1つ1つには個性があるけれど、目立たずなじむようにしました」。


カントリーハウスのキッチンがコンセプト。ホーローの深いシンクはKOHLER社製。抽出しの取っ手も木工旋盤で挽いて自作したもの。

カントリーハウスのキッチンがコンセプト。ホーローの深いシンクはKOHLER社製。抽出しの取っ手も木工旋盤で挽いて自作したもの。

壁・床ともにタイル張りの浴室。「窓をすりガラスにしようかと迷いましたが、裏山のタヌキくらいしか通らないので(笑)」。

壁・床ともにタイル張りの浴室。「窓をすりガラスにしようかと迷いましたが、裏山のタヌキくらいしか通らないので(笑)」。

洗面シンクもKOHLER社製。国内でこのシンクの取り扱いがなく、アメリカで購入して輸送した。床は全面タイル張り。

洗面シンクもKOHLER社製。国内でこのシンクの取り扱いがなく、アメリカで購入して輸送した。床は全面タイル張り。


すっかり変わった暮らし

家づくりを振り返り、「考えながらつくっていったので、かなり辛かったです」と笑う鰤岡さん。「自分で判断して責任を追わないと、変わった家はつくれないので」と話す。こうして、ドアノブひとつにまでとことんこだわり抜いた住まいは、「家中どこを見ても、自分にとって違和感を感じるところがない」出来に仕上がった。

以前は夫婦揃って仕事が忙しく、当時住んでいたマンションは“眠るための場所”でしかなかったというお二人。けれど今は、「出かけるよりも、家にいたいという気持ちになります」と鰤岡さん。鳥の声で目覚め、家のメンテナンスをしたり、近くの里山で娘さんと虫を取って遊んだりして過ごす暮らしへとすっかり変わった。「この家にいると、自然の中に入り込んで暮らしている感じがします。周囲を気にしないで子どもを思い切り遊ばせてあげられるのが嬉しいです」と奥様の和子さんも話す。

まだ手付かずの2階に手を入れたり、ウッドデッキづくりや庭の手入れなど、これからやりたいこともたくさんあるのだそう。「裏山で流しそうめんをやるのもいいね!」と笑い合う夫妻。こだわりと思いが詰まったこの家に、鰤岡さん一家の新しい思い出が日々刻まれていく。


裏山を背景に、住まいと“お菓子小屋”が並ぶ。にほんの里100選に選ばれている里山が近く、野うさぎを見かけることもあるそうだ。

裏山を背景に、住まいと“お菓子小屋”が並ぶ。にほんの里100選に選ばれている里山が近く、野うさぎを見かけることもあるそうだ。


MOBLY WORKS
http://www.mobley-works.com/

WOLD PASTRIES
https://www.instagram.com/woldpastries