Style of Life

シンプルで良質素材と構造の美を楽しむ
ベーシックな生活スタイル

シンプルで良質  素材と構造の美を楽しむ ベーシックな生活スタイル

どこか温かなモダン空間

もともと建築や空間作りに興味を持っていた田辺さん。大学で文学を学びながら専門学校に通い、住宅の設計図面の引き方を覚える。自らの家を建てる際には、設計事務所で働いた経験が活かされた。

「大まかなプランや、ちょっとしたところは自分で考えて、図面を描いて工務店さんにリクエストしました。もともと山だった土地なので、傾斜を活かした造りにしたいということと、構造が持つ美しさを大事にしたいというのがテーマでしたね」

竹林だった山を切り開いて傾斜に沿うように建築。打ちっ放しのコンクリートと木で構成された空間は、素朴でありながら洗練されていてモダン。そして、どこか温かい別荘のようなムードが漂う。


窓から庭が見渡せるキッチン。天井をマダガスカルジャスミンが這う。コンロは4つ口にこだわり、フランスのロジェールを採用。
窓から庭が見渡せるキッチン。天井をマダガスカルジャスミンが這う。コンロは4つ口にこだわり、フランスのロジェールを採用。
家の両脇には階段が設置され、庭につながる。
家の両脇には階段が設置され、庭につながる。
ベイマツの外壁が、経年の味わいを増していく。
ベイマツの外壁が、経年の味わいを増していく。
かつてはこの家の1階で、器屋「百福」を営んでいた。和釘でプレートを固定。
かつてはこの家の1階で、器屋「百福」を営んでいた。和釘でプレートを固定。


無駄を排し、抜けをつくったリビング

「3階のリビングは、庭と地続きのように見せたかったんです。そのため、西側の窓と東側の庭に面した窓は大きくあけて、遮るものを設けないようにしました」

庭に面したキッチンには、高い収納棚などを設けないように、腰までの高さで統一。開口部が大きく、リビングからキッチンまで光が通り抜ける明るい室内は、解放感にあふれている。南側の壁面には、左右いっぱいにとった大きな収納庫。

「ものが出ているのが嫌なんです。特に家電はあまり見せたくないので、テレビも洗濯機も冷蔵庫も、全部使わないときはしまっておけるように、大きな収納扉をつけました」

開き戸にすると引くためのスペースを必要とするので、扉はほとんどをスライド式に。壁面いっぱいに広がった木の引き戸は、閉めておけばすっきりとして、ナチュラルな空間になじむ。


一面に取り付けた収納庫。開けるとテレビ、洗濯機、冷蔵庫が。上のロフトにつながる階段もある。
一面に取り付けた収納庫。開けるとテレビ、洗濯機、冷蔵庫が。上のロフトにつながる階段もある。
天井の梁がナチュラル感を出す。ダイニングテーブルは無垢の厚手の板で造り付けにした。
天井の梁がナチュラル感を出す。ダイニングテーブルは無垢の厚手の板で造り付けにした。
1階の土間から3階まで続く階段。構造の美しさが感じられる。
1階の土間から3階まで続く階段。構造の美しさが感じられる。
山だったところを造成した、キッチンに面した庭。レンガなどは夫とふたりで敷いた。
山だったところを造成した、キッチンに面した庭。レンガなどは夫とふたりで敷いた。
階段はスケルトンで、抜け感が出るように工夫。
階段はスケルトンで、抜け感が出るように工夫。


素材の持ち味を楽しむ

「素材を隠さずにあえて見せることも希望でした。コンクリートや木など、素材の持つ美しさを化粧で隠してしまうよりは、その質感を楽しみたかったんです。だから天井は梁をむき出しにした直天井にして、壁もクロスではなく珪藻土を塗りました」

町田市で和ものの器屋を営む田辺さん。その住空間は、シンプルな中に美しさがあり、使いこむほど味わいを増すもの、という器に対する審美眼と共通するものがある。

「コンクリートも木も強い素材ですが、組み合わせることによって、冷たいものと温かいもののとのバランスが楽しめると思います。経年変化の味わいも楽しんでいます」

設計士としての経験は、ディテールにも活かされている。リビングの大きな収納の中には階段が設けられ、ロフトにつながっているが、その階段下のスペースも物入れとして活用できるよう設計。

「見せる必要のないものは徹底的に隠すのが信条ですね。照明も天井の柱などに隠すように取りつけて、どうしてもつけなければいけない照明は、ボール球など、できるだけシンプルなものを選んでいます」

バスルームはあえて天井にすき間を設け、窓からの外光が室内に届くようにするなど、細かいところに演出が見られる。目につきやすいスイッチは、低い位置に設置して、なるべく視界に入らないようにも考えられている。


1階の玄関を入ったところ。以前はここで器屋を開いていた。「土間っぽい雰囲気にしたかったんです」
1階の玄関を入ったところ。以前はここで器屋を開いていた。「土間っぽい雰囲気にしたかったんです」
スゥェーデン製のドアは真鍮のノブが味。床は工務店泣かせの洗い出し。
スゥェーデン製のドアは真鍮のノブが味。床は工務店泣かせの洗い出し。
ヒバの木を使ったバスルームは、ヒーリングムードに包まれる。左上の天井のすき間から、外光が入ってくる。
ヒバの木を使ったバスルームは、ヒーリングムードに包まれる。左上の天井のすき間から、外光が入ってくる。
空きスペースも活用。りんご農家から分けてもらった木箱には、犬の散歩道具が。
空きスペースも活用。りんご農家から分けてもらった木箱には、犬の散歩道具が。
蛍光灯は梁の後ろに隠して、間接照明っぽく。細かいところにも工夫が見られる。
蛍光灯は梁の後ろに隠して、間接照明っぽく。細かいところにも工夫が見られる。
鉄の作家さんの作品。素材感を活かしたインテリア。
鉄の作家さんの作品。素材感を活かしたインテリア。


和が似合う家

「なるべくすっきりとさせたいんです。個室をたくさん設けても圧迫感があるので、部屋を部屋として仕切るのではなく、閉じない空間にして解放感を出したかったですね」

水まわり以外、この家には個室というものがほとんどない。2階のベッドルームも、スライド式の大きな木の扉と障子で仕切られ、開ければワンフロアのようになる。一面に広がる窓から、明るい日が差し込む空間には、田辺さんの仕事場も。

「コストの面もあるのですが、仕事場にも仕切りは設けませんでした。予算の中でどうやるかを考えて、オープンシェルフや布などを利用して、収納を作りました」

昔から大切にしているアンティークの棚には、作家ものの和食器や、昔集めたロイヤル・コペンハーゲンなどの洋食器が。

「母が器好きだったので、私も興味を持つようになりました。以前は洋食器も買っていたのですが、だんだん土の魅力にはまって和食器ばかり集めるようになりましたね。洋食器は空間がないと活かされない美しさだと思うんです。この家の全体の調和を考えても、和が似合うと思って」


2階の仕事場。あえて個室を設けず、オープンなスペースに。
2階の仕事場。あえて個室を設けず、オープンなスペースに。
ベッドルームの扉は2枚で造り、ダイナミックに。
ベッドルームの扉は2枚で造り、ダイナミックに。
昔から大事にしているアンティークの棚。コンクリートと木の空間になじむ。
昔から大事にしているアンティークの棚。コンクリートと木の空間になじむ。
ベッド横は、イングリッシュセッターのひまわりの寝床。
ベッド横は、イングリッシュセッターのひまわりの寝床。
和箪笥は、結婚時の両親からの贈り物。和もよく似合う。縁側をイメージして障子を取り入れて設計。
和箪笥は、結婚時の両親からの贈り物。和もよく似合う。縁側をイメージして障子を取り入れて設計。


シンプルで贅沢な日常

仕事でもある器選びは、全国を回って出会った作家さんのものが中心。キッチンには、長年買い集めた和食器が並ぶ。

「いずれゴミになるようなものは使いたくはないんですね。家でも家具でも器でも、経年の変化が楽しめて、やがては土に帰っていく、そういう素材を大事にしたいと思います」

キッチンに併設した、造り付けのダイニングテーブルで、庭を眺めながら香り高いコーヒーや日本茶を愉しむ。お湯は鉄器で沸かしたり、ご飯は土鍋で炊いたり。素材の持ち味を楽しみたいという思いは、食にも表れている。

「普段はお店にいるので、家ではリラックスしていたいですね。週末はお酒を飲んだりしながらごろごろ、のんびりと過ごしています」

愛犬のひまわりも、広々としたリビングを走り回ったり、昼寝をしたり。ナチュラルで開放的な空間が、贅沢な日常を与えているようだ。


器のお店「ももふく」オーナーの田辺玲子さん。この日は、そばちょこにコーヒーを淹れてくれた。http://www.momofuku.jp/
器のお店「ももふく」オーナーの田辺玲子さん。この日は、そばちょこにコーヒーを淹れてくれた。http://www.momofuku.jp/
1点1点に思い入れのある和食器。作家さんとの出会いも楽しみのひとつ。
1点1点に思い入れのある和食器。作家さんとの出会いも楽しみのひとつ。
造りつけの棚に、全国を回って仕入れた器具がたくさん。
造りつけの棚に、全国を回って仕入れた器具がたくさん。
 
炒りごま用の器具など。吊るすことで見た目も美しく、省スペースに。
炒りごま用の器具など。吊るすことで見た目も美しく、省スペースに。
茶道も修行中。家でも練習のため、たしなんでいる。
茶道も修行中。家でも練習のため、たしなんでいる。
 
素材の持ち味が伝わる和の器。シンプルで質のいい田辺さんの暮らしぶりが伝わる。
素材の持ち味が伝わる和の器。シンプルで質のいい田辺さんの暮らしぶりが伝わる。