木と風と光の心地よさ自然に寄り添う和の暮らし人の和も育む“つづき間の家”

木と風と光の心地よさ自然に寄り添う和の暮らし
人の和も育む“つづき間の家”

“和の家”で暮らしたい
昔ながらの個人商店が林立する、庶民的な味わいを残す商店街を抜けて徒歩数分。都内でも人気の住宅地に、鈴木さん夫妻は5年前に家を建てた。「最寄りの駅から徒歩15分以内で、歩くことが楽しいところ」を求め、出会ったのがこの地。子ども好きのお2人は、保育園の隣という立地も気に入っている。「可愛らしいにぎやかな声も楽しく、高い建物が建つ心配もない。園庭を借景として取り入れさせてもらっています」と奥さん。2階のテラスからは、子どもたちが駆け回る姿がよく見える。

家を建てるにあたり建築家への要望は、「“和の家”で暮らしたい」だった。「子どもの頃、実家やその周辺も縁側や畳のある生活だったせいか、日本らしいものが落ち着くんです。木などの自然素材や日本のアンティーク家具にいつのまにか惹かれるようになっていました」とはご主人。奥さんも「吉祥寺や自由が丘の古民家カフェが好きで、小さくてもいいから和室が欲しいと思っていました」と話す。ただ、「民芸調になりすぎるのはちょっと」と続ける。「程よく軽さを残したすっきり現代的な要素も織り込んでほしい」と要望に加えた。


テラスの左側が保育園。このテラスにはちゃぶ台がよく似合う。園庭を眺めながら会話が弾む。

テラスの左側が保育園。このテラスにはちゃぶ台がよく似合う。園庭を眺めながら会話が弾む。

2階の奥に位置する小上がりの和室は、茶室のような趣。沓脱石を置き、和の暮らしを愉しんでいる。

2階の奥に位置する小上がりの和室は、茶室のような趣。沓脱石を置き、和の暮らしを愉しんでいる。

和室と1階の寝室は、鈴木さん夫妻の希望で雪見障子を採用。変則的なサイズが現代的。

和室と1階の寝室は、鈴木さん夫妻の希望で雪見障子を採用。変則的なサイズが現代的。

床の間の飾り棚には、奥さんが買い集めた器たちが整然と並ぶ。高さ制限により、カーブを描いた天井がモダンな印象。


京町屋を思わせる“通り庭”

“和の家”を望む鈴木さん夫妻と話し合いを重ね、価値観や要望をしっかりと受け止めたうえで、日本の建築手法を使ったデザインを提案したのがSTARの佐竹永太郎さん。「家全体でひと続きになった空間を障子や襖で仕切る“つづき間”という手法に基づいた設計です。光と風が心地よく抜け、木や土など自然を取り入れた住まいを目指しました」

玄関の蔵戸を開けると、墨入りモルタルで土間風に仕上げた“通り庭”が奥の寝室まで続き、さわやかな風が通り抜ける。また、やわらかな光を生み出す障子でゆるやかに仕切られた小上がりは、京町家の雰囲気を盛り上げ、まるで京都の路地裏のようである。

部屋の壁は珪藻土を使用。調湿効果に優れているため、冬は乾燥を抑え、夏は蒸し暑さを軽減する。「冬は少なくとも湿度40%はあり、夏は70%以内に抑えてくれるので不快感がないです」(ご主人)と、一年中快適に過ごせると話す。

洗面所や浴室から眺めることができる坪庭は、ご主人自らレイアウトしたもの。ネットオークションで落札した灯篭をはじめ苔や手水鉢など全て自ら調達し、組み立てたという。「蔵戸や格子戸などの建具も、まずはネットなどで自分で探してみて、それを入れてもらえないかと毎週のように提案していました。ときには佐竹さんもお店に同行してくれて、一緒に選んでくれたことも。的確な助言がありがたかったですね」(ご主人)


四季の移ろいを感じる前庭。墨色の左官仕上げの外観と木製ルーバーは鈴木さん夫妻のリクエスト。

四季の移ろいを感じる前庭。墨色の左官仕上げの外観と木製ルーバーは鈴木さん夫妻のリクエスト。

重厚な蔵戸は、アンティーク家具屋で調達。行燈は「安くてイメージに合うもの」(ご主人)をネットで探して合計3つ購入。前庭とテラスにも置いた。

重厚な蔵戸は、アンティーク家具屋で調達。行燈は「安くてイメージに合うもの」(ご主人)をネットで探して合計3つ購入。前庭とテラスにも置いた。


蔵戸を開け、玄関から見た通り庭。クランクしながら奥の寝室につながることで、さらに奥行を感じさせる。風情のある正面の竹飾りは、佐竹さんのアイディア。

蔵戸を開け、玄関から見た通り庭。クランクしながら奥の寝室につながることで、さらに奥行を感じさせる。風情のある正面の竹飾りは、佐竹さんのアイディア。

ヒノキで造作した洗面台。自然光を取り込む窓から、坪庭を眺めることができる。通り庭を挟んだ逆側は、洗濯機などを納めた収納スペース。

ヒノキで造作した洗面台。自然光を取り込む窓から、坪庭を眺めることができる。通り庭を挟んだ逆側は、洗濯機などを納めた収納スペース。

レトロな電笠。以前住んでいたマンション時代にすでに購入していたもの。

レトロな電笠。以前住んでいたマンション時代にすでに購入していたもの。

アンティークの建具は現代のサイズよりコンパクトなため、高さ調整をしてもらったうえで使用。

アンティークの建具は現代のサイズよりコンパクトなため、高さ調整をしてもらったうえで使用。

通り庭の左奥がバスルーム。脱衣所の入り口は障子を採用しているため、一見バスルームとは気づかない。

通り庭の左奥がバスルーム。脱衣所の入り口は障子を採用しているため、一見バスルームとは気づかない。

坪庭を眺めながら入浴できるバスルーム。蔵を意識した黒のタイルが斬新。

坪庭を眺めながら入浴できるバスルーム。蔵を意識した黒のタイルが斬新。


玄関脇の小上がり。壁に珪藻土を塗る体験をした思い出深い部屋。自分たちで塗ったところには特に愛着を感じる。右側の“刀箪笥”は100年以上前のもの。

玄関脇の小上がり。壁に珪藻土を塗る体験をした思い出深い部屋。自分たちで塗ったところには特に愛着を感じる。右側の“刀箪笥”は100年以上前のもの。


唯一無二の一枚板のテーブル

家に入った瞬間、豊かな木の香りに包まれる鈴木邸。2階に上がるにつれ、さらにそれが強まっていく。階段上の格子戸を開けて目を奪われるのが、長さ2m20cm、厚さ7cmの一枚板のテーブルである。日本最大の木工の産地、福岡県大川市まで出向いて木を選び、注文したものだ。「大川まで実際に足を運び、何軒も見て回りました。最後に立ち寄ったところで、ありがたい出会いがありました。責任者の方にいろいろ質問していたら、翌日わざわざ倉庫に連れて行ってくれて。飛行機の格納庫みたいな広大なスペースに、所狭しと置いてある何百枚の板の中から、この樹齢100年を超えるサペリという木を薦めてくれたんです。磨く前の白っぽい状態で、出来上がりを想像しづらかったのですが、この人が薦めてくれるなら間違いないと即決しました」とご主人。

可能な限り自然を残しつつカットしたそのテーブルは、躍動感たっぷりで深い味わいがある。5年経った今も、状態はキープされ、素材の良さを物語っている。
長い年月をかけて大地で育ってきた力強さやぬくもり、そしてその香りが人を癒してくれる。


空間に華やかさと自然の力強さを演出する一枚板のテーブル。時の経過とともに深みのある色合いに変化し、愛着が増す。

空間に華やかさと自然の力強さを演出する一枚板のテーブル。時の経過とともに深みのある色合いに変化し、愛着が増す。

鈴木邸には地窓が数か所ある。外の人との視線が交わることなく、風景が楽しめる。

鈴木邸には地窓が数か所ある。外の人との視線が交わることなく、風景が楽しめる。

骨董市で購入した和箪笥たち。ペアで購入した黒漆の箪笥は、実は高さが異なる。テレビ台として利用するにあたり、下に敷く木枠だけ家具屋に発注して高さを合わせた。

骨董市で購入した和箪笥たち。ペアで購入した黒漆の箪笥は、実は高さが異なる。テレビ台として利用するにあたり、下に敷く木枠だけ家具屋に発注して高さを合わせた。


訪れる人にも愛される空間

「友人が大勢来ても座れるテーブルが欲しかった」(ご主人)と、大きなテーブルを入れられるスペースは設計の段階から取っていたという。
鈴木邸を一度訪れた友人たちは、その居心地の良さに魅了されるよう。よく友人たちが集い、食事会を楽しんでいる。「多いときは10人近くが集まりますが、このテーブルなら余裕で座れます。それにテラスやキッチンなど全部つながっているため、居場所がたくさんあるんです」と奥さん。
テーブルのあるリビング・ダイニングからキッチンは土間でつながり、奥には書斎、小上がりの和室、そして外のテラスへとひと続きになっていて、回遊性もある。どこにいても人の気配を感じることができ、“人の和”も育む空間となっている。

「付き合い始めてすぐのデートが、東京ビックサイトで開催していた“建築・建材展”でした(笑)。突然連れて行かれ、なんだ、これは? と戸惑いました」と当時を思い出して笑う奥さん。その後結婚し、マンション住まいの頃から、骨董市などに足を運んではアンティーク家具や古民具をコツコツ買い集めていたという。家を建てる準備を着々と進め、結婚3年目にして念願の“和の家”が完成した。

好きなものには徹底的にこだわり、労を惜しまないご主人。「家を建てるにあたっての1年半くらいは、休日いつもは仕事の調べ物に当てていた時間をすべて家関係のことに当てていました(笑)。望んでいたことを全て実現してもらい、イメージ以上のものができました。やりきったという感じです」と言い切るご主人の表情は、充足感にあふれていた。


「格子戸から光が差し込む光景が好き」とご主人。無垢材を使用した椅子たちは洗練されたデザインが印象的。左奥がキッチンへと続く。

「ルーバーから光が差し込む光景が好き」とご主人。無垢材を使用した椅子たちは洗練されたデザインが印象的。左奥がキッチンへと続く。

右奥がテラスへと続く掃き出し窓。

右奥がテラスへと続く掃き出し窓。

キッチン後ろのヒノキを使用した作業台は、パーティー時はカウンターバーとして人気。テラスにいる人へそのまま食事などを手渡すこともできて便利。

キッチン後ろのヒノキを使用した作業台は、パーティー時はカウンターバーとして人気。テラスにいる人へそのまま食事などを手渡すこともできて便利。

和室から、テラスやリビング方向を見る。

和室から、テラスやリビング方向を見る。

キッチンから書斎へと続く土間。

キッチンから書斎へと続く土間。


鈴木邸
設計 STAR/有限会社エスティエイアール
所在地 東京都中野区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 82㎡