Outdoor

パリ郊外のアーティストの家屋根を取り外し、中庭を作って
自由を得るという選択

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元工場を快適な住まいに

アーティストのマルティーヌ・カミリエリさん。普段の日常にひそむ思いがけない幸福を、インスタレーションや著書を通して私たちに見せ、気づきを与えてくれる不思議な才能の持ち主だ。

パートナーと共に、彼女はパリに隣接する郊外の街マラコフに住んでいる。郊外とは言っても、蚤の市でおなじみのポルト・ド・ヴァンヴ駅からすぐなので、都心に住む便利さは十分。それでいて、住まいの広さ、快適さ、住空間をデザインする自由度 は、パリ中心部では考えられないクオリティーを得ることができる。これらの価値を優先し、二人はマラコフ暮らしを選択した。

「ここはもともと、ストップウォッチの工場でした。それを買い取って改装し、ギャラリーを兼ねた住まいに作り変えたのですが、よくあるロフトには興味がなくて。屋根の一部を撤去し、中庭を作り、『家』らしく作り変えたのです」
と、マルティーヌさん。


アトリエから中庭に向かって。
アトリエから中庭に向かって。
屋根を取り払って作った中庭を上から。この眺めも気に入っている。
屋根を取り払って作った中庭を上から。この眺めも気に入っている。
2階の寝室とバスルームへの行き来は螺旋階段で。
2階の寝室とバスルームへの行き来は螺旋階段で。


玄関を入ってすぐ、ギャラリー兼リビングからの眺め。中庭の先がアトリエだ。
玄関を入ってすぐ、ギャラリー兼リビングからの眺め。中庭の先がアトリエだ。
中庭に面したトイレの扉。右のガラス張りの空間はアトリエ。
中庭に面したトイレの扉。右のガラス張りの空間はアトリエ。


大小様々な植木鉢を置いた中庭のミニガーデン。
大小様々な植木鉢を置いた中庭のミニガーデン。
キャンプをしたノルウェーから持ち帰った多肉植物や、友人と一緒にパリの雑貨店で買ったハーブなど。1つ1つに思い出がある。
キャンプをしたノルウェーから持ち帰った多肉植物や、友人と一緒にパリの雑貨店で買ったハーブなど。1つ1つに思い出がある。


発想の転換が豊かさのカギ

インダストリアル建築をロフトに改装して暮らすのは、多くのパリジャン・パリジェンヌにとって夢だ。仕切りのないだだっ広い空間への憧れがある。が、マルティーヌさんは あえて屋根の一部を取り外し、元工場の中央部分に中庭を設置。そんなことをすると、空間が途切れてしまい、しかも居住面積は少なくなってしまうが、これが予想以上のメリットをもたらすことになる。

「都市部では、南向きの家を建てることが必ずしも可能ではありません。この住まいも、南向きの窓は一つもないのです。それなのにこれだけたっぷりと自然光が入ってくるのは、中庭のおかげ。屋根を取り払ったおかげです。ロフトと違って空間が途切れはしますが、だだっ広いよりもかえって空間を有効に使えると感じます。 中庭に面した窓は壁を兼ねた引き戸なので、住空間は開いているようで同時に閉じてもいます。そんな曖昧さも心地よいです」


ギャラリー兼リビング。6つ並べた和紙製の照明は、気に入った大きさやデザインのものがない(または高価すぎる)ことから生まれたアイデア。
ギャラリー兼リビング。6つ並べた和紙製の照明は、気に入った大きさやデザインのものがない(または高価すぎる)ことから生まれたアイデア。
マルティーヌさんとベルントさんが主宰するギャラリー「ラ・ペリフェリ」のアーティスト作品が飾られている。
マルティーヌさんとベルントさんが主宰するギャラリー「ラ・ペリフェリ」のアーティスト作品が飾られている。
アーティストのフランソワーズ・ペトロヴィッチによるウオールアートが映える。
アーティストのフランソワーズ・ペトロヴィッチによるウオールアートが映える。


ギャラリー兼リビングから、中庭、アトリエの眺め。
ギャラリー兼リビングから、中庭、アトリエの眺め。
ギャラリー兼リビング。オレンジの扉が玄関。
ギャラリー兼リビング。オレンジの扉が玄関。


不便ではなく、チャーミング

まず玄関を入ると、リビング兼ギャラリースペースがあり、その奥にひと続きになったキッチンがある。 マルティーヌさんのアトリエは、中庭を挟んだ向こう側だ。トイレも、寝室とバスルームのある2階も、中庭を通ってアクセスする。つまり、雨の日でも寒い夜でも、一旦中庭を通過しないことにはそれらの場所にたどり着けない。ちょっと不便そうに思えるが、これも当然意図したもの。
「不便だから楽しいのです。田舎の家の暮らしを想像してください、薪ストーブにくべる木がなくなったら外の納屋に取りに行くでしょう? そういう面倒くささが面白い。私たちはこの中庭のおかげで、その日の天気を肌で実感し、季節の移り変わりを敏感に感じ取ることができるのです。屋根を取りはずし 住空間を犠牲にするという決断は、全く正解でした」。

驚くほどの開放感と、住まいのどのスペースにも巡りこむ自然光、それをあたえてくれる中庭の存在。「空間」と「時間」という一番の贅沢を享受する住まいは、ちょっとだけ視点を変えることで見えてくるヒントから生まれていた。ちょうど、マルティーヌさんの作品と同じように。


アトリエの棚にはキッチュな人形やオブジェがそこかしこに置かれている。
アトリエの棚にはキッチュな人形やオブジェがそこかしこに置かれている。
ポルトガル名物のカラフルな壺オブジェをコレクション中。1点数サンチームで買える。
ポルトガル名物のカラフルな壺オブジェをコレクション中。1点数サンチームで買える。


おもちゃを再利用したシャンデリアは、マルティーヌさんの初期の代表作。
おもちゃを再利用したシャンデリアは、マルティーヌさんの初期の代表作。
アメリカのメソッドに則って、立って仕事をするように。以来作業の効率が良くなった。
アメリカのメソッドに則って、立って仕事をするように。以来作業の効率が良くなった。


ノルウエーの暮らしの知恵に習い、外壁を木材で補強して断熱効果を上げている。
ノルウエーの暮らしの知恵に習い、外壁を木材で補強して断熱効果を上げている。