Architecture
癒しと高揚感絶景を眼下に家族が集う
エントランスラウンジのある家
2世帯で暮らす、愛着のある家
眼下に海を見下ろす、葉山の高台。そのロケーションを最大限に生かした家に、加藤潤子さんファミリーは実妹ファミリーと暮らす。
「海の近くに暮らしたいという母のために、36年くらい前に父が建てた家なんです。いちどは家を出て東京に住んでいたのですが、この家を売却するという話を聞いて大反対して。妹夫婦と2組で父から購入して、2世帯で住むことにしたんです」
海辺での暮らしを堪能したご両親は、今度は蓼科の山に惹かれ移住することに。そのためこの家を売却する必要があったのだが、幼少期を過ごした葉山の家を人手に渡すのは、潤子さん姉妹はどうしても嫌だったのだという。
「まわりの環境も含めて、子供の頃の思い出がいっぱいつまった家ですから。今、自分が親になって子供を育てるにあたっても、色々な点で安心感を感じることができますね」
小学3年生と3歳の男の子を持つ加藤さん夫妻、赤ちゃんが生まれたばかりの妹さん夫妻。そして時々帰ってくるご両親。大家族の温かな家が、海と山に囲まれた風光明媚な地に建つ。
絶景を生かして設計
母親が60年前に出会った米国の雑誌「house&garden」の表紙に、海を目の前にゆったりと建つ、芝生のある高台の家が載っていた。そのイメージを持ち続けて探した土地は、いちばん海がきれいに見えると近所の人にも評判の場所だった。玄関を入ると、緩やかな階段につながった広々としたリビングの向こうに、青い海が広がる。
「初めは少ししか海面が見えないのですが、階段を降りて行くに従って、視界の中に海が広がっていく、そういうことも計算しました」
と語るのは、この日たまたま蓼科から遊びに来ていた潤子さんの父親、石渡強治さん。空間プロデューサーとして店舗などのデザインの仕事をしていた石渡さんが、この家のプランをたてた。
「若い頃から古い家を自分でいろいろ改造していましたが、家を新築するのは初めてだったので、当時、模型なども作っていろいろ考えました。仕事から帰ってからの夜な夜なのプランニングに、家内の智子は気に入らないと寝てしまうので、30案くらいプランを作りました。まず入ってきたら一番のご馳走のような海の広がりを味わいたいと、生活感を消しカジュアルなエントランスラウンジにしました」
リビングはみんなが集えるラウンジとして、この家の中心となっている。
「家の中でも外にいるような感じにしたいというのもありました。そこでエントランスラウンジは吹き抜けにして開放的に、外につながるような雰囲気にしました。幅を広めにとって少しゆとりを持たせた階段は、ハの字型に海に向かって広がっていくイメージです。2×4でここまでできたことは、工務店さんに感謝していますね」
階段を降りる度に広がっていく海の絶景。ドラマティックな造りは、演出の技術的手法だという。ラウンジの先にはテラスが設けられ、リゾートホテルにいるようなムードに浸ることができる。
「冬でも晴れた日の昼間なら暖かくてとても気持ちがいいんです。テラスでお茶をしたり、食事をとったりなどもよくしていますね」
と潤子さん。海の向こうには伊豆大島、晴れた日には富士山も眺められる。遮るもののない視界が心からの寛ぎを与えてくれる。
ラウンジを生活スペースが取り囲む
1階のラウンジをとり囲むように、生活スペースであるキッチン、ベッドルーム、バスルームなどがあり、2階には妹さん夫妻の部屋が。バスルームやベッドルームも海に面していて、贅沢な気分を日常的に味わうことができる。
「月を眺めながらお風呂に入るのは、最高に気持ちがいいですね。ありがたいことにキッチンもお隣の南向きの庭に面していて、明るく暖かくて好きな場所です」
潤子さんはアロマセラピストとして自宅でサロンとセラピスト養成教室を運営。そのための部屋は1階の和室を使用。ヘア&メイキャップアーティストである夫・泰由さんのアトリエも、半地下のスペースに。各個室が階段でつながった立体的な構成が面白い。泰由さんは、
「家にいながらそれぞれの仕事ができるし、快適ですね。アトリエでは家族のヘアカットなどもしています」
DIYも得意で、棚など必要なところに必要なものを作成。アトリエも家全体と同じ、白で何度も塗り替えた。
「塗装は何度塗っても剥げてきてしまうんです。でもそれが却って味になっているかもしれません」
不思議な癒しに包まれる家
経年を感じさせる白い塗装に包まれた空間に、潤子さんが使用するアロマオイルの香りが漂う。
「東京に住んでいたときはまるで夜がないみたいでした。すり減らすような生活をしていたんでしょうね。結婚してもなかなか子供ができなかったのですが、ここに住んだとたん長男を妊娠して、その後またしばらく別の場所に住み、5年くらい経ってここに戻ったとたん次男を妊娠しました。安心するのでしょうね」
潤子さんが語るとおり、1歩足を踏み入れた途端、非日常的な高揚感と同時に、寛ぎを感じさせてくれる。年月を経て家族の成長を刻んできた温かさと、自然を身近に感じる暮らし。ここにいるだけで心身ともに癒されていく、そんな空気に満ちあふれている。