建築ムービーストーリーテリングがユニークな建築ドキュメンタリー ふたつ

建築ムービーストーリーテリングがユニークな
建築ドキュメンタリー ふたつ


ファッション誌の取材・編集に関わる人物を追う『ファッションが教えてくれること』、作り手の華麗なる舞台裏を捉えた『ディオールと私』など、ファッションについてのドキュメンタリーが次々と公開され注目されていますが、ここに来て、建築のドキュメンタリーが2作品登場です。いずれもストーリーテリングがユニークで建築門外漢でも楽しめる作品。ひとつはなんと、建物自身が語りかけてくるスタイルで、世界的に知られる名建築とエピソードを映像化した『もしも建物が話せたら』。もうひとつは、国内外の建築家や評論家、ジャーナリストが出演し、日本の建築と建築家について忌憚なく語る『だれも知らない建築のはなし』。日本の建築界の舞台裏を知ることが出来作品です。いずれも建築についての情熱が熱く感じられる仕上がりです。



ベルリン・フィルハーモニー、ハンス・ハロウン、1963年 © Wim Wenders 2013

『もしも建物が話せたら』前編に登場、慈しみ深い女性の声で語り出す ベルリン・フィルハーモニー、ハンス・ハロウン、1963年 © Wim Wenders 2013 

『もしも建物が話せたら』
ヴェンダース監督が挑んだ世界的建築のドキュメントとは?


キャッチーなタイトルの『もしも建物が話せたら』は、昨年のベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映を果たし東京国際映画祭でも特別招待作品として上映された作品です。ドキュメンタリー作品に力を注ぐBS局WOWOWが国際共同制作プロジェクトの一つとして製作に関わり、あのヴィム・ヴェンダース監督が製作総指揮。自らも監督しています(6話のうち1話)。その他5人の実力派監督たちが参加し、自国の個性溢れる建築を際立たせようと腕を振るいます。あのロバート・レットフォードも監督として参加。自国を誇る建築に魅せられ、1話メガホンをとりました。昨年のベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映を果たし日本ではこの5月16、23日(3D版 29日)にWOWOWでオンエアされます。

この6話オムニバス形式のドキュメンタリーでは建築家を讃えることを主眼とせず、主役はあくまで建物で存在する意味とそこに集う人々の営みをていねいに伝えます。観ているうちにその建物にも魂があることすら感じさせるのです。物語を導くナレーションが解説者としての立場ではなく、あえて建物自身に語らせるスタイルなのもそういう思いもからでしょう。その語りは心地よく、あたかもその場を訪れ一緒に居る気持ちにさせられます。

 
ロシア国立図書館、1814年 © Wolfgang Thaler 2013

『もしも建物が話せたら』前編 迷宮のようなロシア国立図書館、1814年 © Wolfgang Thaler 2013

『もしも建物が話せたら』前編 ハルデン刑務所、2010年 © 2013 Heiki Färm

『もしも建物が話せたら』前編  近未来を感じさせる作りながら人間味を忘れないハルデン刑務所、2010年 © 2013 Heiki Färm

 
饒舌に語る6つの建築、
目から鱗のエピソード。


登場するのはコンサートホール、図書館、刑務所、医学研究所、オペラハウス、文化センターの6つの建物。

隣に突然あの東西を隔てた壁が建てられ、政治にも利用されたドイツのベルリン・フィルハーモニー・ホール。
なんとエカテリーナ王政時代から脈々と吸血鬼のように生きながらえるロシア・サンクトぺテルブルグ図書館。

たとえ殺人の罪を犯した者だとしても優しく受け入れるノルウェー・ハルデン刑務所。その建築環境でこそ多くの新薬が生み出されるアメリカ・サンディエゴの医薬研究所。内部のインテリアも価値を讃えるノルウエー・オスロ・オペラハウス。展示される作品以上に建築がアートしているフランス・ポンピドー・センター。

いずれも建物として一見の価値があることはもちろん、目から鱗のエピソードに圧倒されます。

建築は使う人々に愛され役立たなければ、いわゆる「箱」に過ぎません。しかしここでは建築物はまるで人を優しく包む自然の木々のようでもあり、取り壊されない限り永遠に人々の営みを記憶していく。そんな人々と建物の愛の交歓のような温もりをも各作品から感じ取れ、癒されます。

それら建物をヴェンダース監督は教会と同じ存在であり文化の大聖堂であると考え、この作品の原題を『Cathedrals of culture(文化の大聖堂たち)』としています。彼の審美眼に叶った6大聖堂の面構えや心根を見極めてみて下さい。

『もしも建物が話せたら』後編 ソーク研究所、ジョナス・ソーク、1963年 © 2013 Alex Falk

『もしも建物が話せたら』後編  環境が人をつくるということを深く考えさせるソーク研究所、ジョナス・ソーク、1963年 © 2013 Alex Falk

『もしも建物が話せたら』後編 オスロ・オぺラハウス、スノヘッタ、2008年 © 2013 Øystein Mamen

『もしも建物が話せたら』後編 周辺の風景、建築、人がともに溶け込みながら芸術を生み出すオスロ・オぺラハウス、スノヘッタ、2008年 © 2013 Øystein Mamen

『もしも建物が話せたら』後編 ポンピドゥー・センター、レンゾ・ピアノ、1977年 © 2013 Ali Olcay Gozkaya

『もしも建物が話せたら』後編  連打されるエキシビジョンの模様を交えながらその構造も紹介されるポンピドゥー・センター、レンゾ・ピアノ、1977年 © 2013 Ali Olcay Gozkaya

『もしも建物が話せたら』

WOWOWプライムにて放映 前編 2015年5月16日(土)13:00 、後編 23日(土)13:00
3D版はWOWOWシネマにて放映 前編 5月29日(金)11:30 、後編 5月29日(金)午後1:00

前編
『べルリン・フィルハーモニー』 監督:ヴィム・ヴェンダース
『ロシア国立図書館』 監督:ミハエル・グラウガー
『ハルデン刑務所』 監督:マイケル・マドセン
後編
『ソーク研究所』 監督:ロバート・レッドフォード
『オスロ・オぺラハウス』 監督:マルグレート・オリン
『ポンピドゥー・センター』 監督:カリム・アイノズ

『だれも知らない建築のはなし』
国内外の著名建築関係者がホンネで語る建築のこと。


昨年のイタリアのヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で展示用映像として上映され話題となり、追加撮影・編集などを経て劇場公開を迎えた『だれも知らない建築のはなし』。日本を中心に時代ごとの建築物が50余登場、それらをデザインした著名な建築家たちが本音の発言を放つ。今こそ語られる建築という仕事とその舞台裏。それが、まるで群像劇を観ているような面白さ、痛快です。著名な建築家のドキュメンタリー映像は今までも少なくないですが「建築を語る映画」って、新鮮です。
安藤忠雄のコメントからスタートする『だれも知らない建築のはなし』

安藤忠雄のコメントからスタートする『だれも知らない建築のはなし』

監督の石山友美さんは建築家である石山修武さんを父に持ち、日本女子大学家政学部で住居学を学びました。その後この映画でも中心人物として登場場面も多い磯崎新のアトリエに。カリフォルニア、ニューヨークに留学、しかし建築家にはならず映画監督をめざしたという変わり種。建築の立体3次元の構築をこそ映像表現に活かしたそう。石山監督は国内外の著名な10名の建築関係者へ日本の建築家、建築の合計20時間以上に及んだインタビュー撮影に果敢にも挑戦。取材映像と資料映像を加え、4つの章にまとめ長編ドキュメンタリーとして完成させました。

近代主義、メタボリズム、ミニマリズム、ポストモダンなどなど、時代の経緯に沿った建築様式の個人住宅、ビルや地方都市の地域施設など多数の建築物を時代に沿って見ることが出来るのも悦楽ですが、それらを語る磯崎新をはじめ安藤忠雄、伊東豊雄といった日本を代表する建築家の面々の登場が鮮烈です。各氏、本音で政府を含めた他者を批判もすれば、自らをアピールする主張も強く、そのやりとりが最大の魅力です。彼らから本音を引き出した石山監督の才能が見えてきます。

加えて、世界的に知られるレム・コールハース、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクスら建築家や評論家なども国際的視点で日本の建築と建築家について、深いリスペクトを持ちつつも鋭い批判を寄せます。そこから浮かび上がる世界の中の日本の建築の特異性。そして現在の建築界に求められているキュレーションという「建築せざる建築」。

2013年プリツカー賞を受賞の伊東豊雄いわく「日本では都市計画として新しいビジョンを提案すると予算がつかない」

2013年プリツカー賞を受賞の伊東豊雄いわく「日本では都市計画として新しいビジョンを提案すると予算がつかない」

磯崎新は1982年、まだ若手だった安藤、伊東の両氏を率いて「P3会議」へ。

磯崎新は1982年、まだ若手だった安藤、伊東の両氏を率いて建築の未来を考える「P3会議」へ参加する。

「建築家に未来はあるか?」のみならず建築とは? 都市とは? を問うこの作品、もっと早く制作・公開してほしかったという想いさえ抱かせるものです。
「(会議において)日本の建築家はコミュニケーションできていない。それだからオーラがあるともいえる。」と皮肉なレム・コールハース。

「(会議において)日本の建築家はコミュニケーションできていない。それだからオーラがあるともいえる。」とレム・コールハース。

1970年へさかのぼり建築ピーター・アイゼンマン率いるIAUS(ニューヨーク建築都市研究所)、「P3会議」の当時の状況も説明。写真はポスト・モダン建築 新宿区歌舞伎町二番館、竹山実、1970年

1970年へさかのぼり建築ピーター・アイゼンマン率いるIAUS(ニューヨーク建築都市研究所)、「P3会議」の当時の状況も説明。写真はポスト・モダン建築 新宿区歌舞伎町二番館、竹山実、1970年

バブル時代を象徴するアサヒスーパードライホール、フィリップ・スタルク、1989年

バブル時代を象徴するアサヒスーパードライホール、フィリップ・スタルク、1989年

バブルがはじけたあと、ポスト・モダンの終わりに。秋田市立体育館、渡辺豊和、1994年

バブルがはじけたあと、ポスト・モダンの終わりに。秋田市立体育館、渡辺豊和、1994年

ロッテルダム クンストハル、レム・コールハース、 1992年

ロッテルダム デ・ロッテルダム、レム・コールハース、2013年「凡庸でつまらないがよく機能する」東京の建築に影響を受けたという。

『だれも知らない建築のはなし』

2015年5月23日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

出演:安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクス、レム・コールハース 、中村敏男、二川由夫、藤賢一、生田博隆 
ナレーション:カズオ ギエルモ ペニャ
インタビュー:中谷礼仁、太田佳代子、石山友美
監督:石山友美 
撮影:佛願広樹
編集:佛願広樹、石山友美
照明:草彅秀興、桝谷滋威
録音: 臼井勝:光地拓郎、Diego Van Uden Stephen Lee Danial Neumann
原題: Inside Architecture -A Challenge to Japanese society
製作:第14回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展日本館製作委員会、P(h)ony Pictures
配給:P(h)ony Pictures 
配給協力・宣伝: プレイタイム
2015年 / カラー / 16:9 / 73 分 / ドキュメンタリー