Architecture
ギャラリーに見立てた空間づくり空間構成と立地環境が
もたらす心地良い開放感
真っ白なキャンバスに描く
自宅の設計に際し、まず最初に出したリクエストが「シンプルでまっさらな感じ」だったという大久保さん。とにかく白いシンプルなインテリアがほしいということから、建築家の木下さんに参考に観てもらったのが、キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』で宇宙船の真っ白な内部が映し出されるシーンだった。
「もともと絵を描いていたので、自分で真っ白なキャンバスの上に描き込んでいく」つもりでのリクエストだったという。仕事ではグラフィックデザインを手がけ、Webサイトのプログラミングまでも行う大久保さんはまた「ハードウエアだけつくってください。僕はソフトウエアのほうを担当します」という表現でもその思いを伝えた。
「モノを展示するギャラリー」へ
しかし、建築家からの、「真っ白では住みにくくないですか」という話から、この考えを変更することに。室内が真っ白だと、いろいろなモノが置かれたときに、空間全体でとらえると、そのモノたちのノイズで白のキャンバスがプレーンすぎて逆に煩雑な感じになってしまう――こんな空間設計のプロからの意見を聞き入れての路線変更だった。
そこで、「真っ白なキャンバス」から、「モノを展示するギャラリー」へと家づくりのテーマがシフトした。写真や絵を展示するギャラリーは真っ白ではなく、コンクリートや木などある程度空間のアクセントになるものがあり、それを白い面と対比させている場合が多い。そのようなところから、「ギャラリー的な感覚にシフトしていって、木をメインにアクセントとなるものを入れていただくという話になりました」と大久保さん。
もうひとつこだわったのは2階の書斎/仕事場のスペース。映像の仕事も手がけているため、PCの比較的横長のモニターを置く必要がある。その一方で、グラフィックの仕事があるため、自身が横に移動すれば作業が一通りの流れでスムーズにできるようなつくりを目標として、そのような空間づくりを木下さんにお願いしたという。
フレキシブルな空間づくり
実際の空間づくりとモノの配置は、構造体である壁状の柱が連続する間のスペースに、どういうモノをおさめていくのかを建築家とコミュニケーションを取りながら決めていったという。「こちらである程度空間のレイアウトを決めて、それに対して、ここに何を置きたいとか絵をかけたいといった希望をもらい、それをもとにまた壁や棚の位置を含めて微調整するというようなキャッチボールを行いながら進めていきました」と木下さん。
そして、こうした作業を進めながら同時にこの家のもうひとつの大きな特徴である空間の可変性も考えていった。大久保邸は、家族構成の変化などに合わせて床の配置が自由に変えられるつくりになっているのだ。
融資を受けて住宅を建てる場合、改築時などに追加の融資を受けるのは難しいことから、初期投資で最大限の床を確保するケースが多い。しかし、そうして最初にむやみに部屋を多くして無駄なスペースをつくる必要はないという木下さんの提案を受け、今必要な部屋だけつくっておき、あとで簡単に足せるようにしておけばいいのではないか、そういう考えに落ち着いたという。
吹き抜けていてもいなくても心地良い
その結果、南側のリビングのスペースは現在2層分が吹き抜けており、「天井の高さを取っていただきたい」というリクエストとも合致して、大きな気積の中でのゆったりとした暮らしが可能になっている。家の前後を道が通る敷地のため、採光・採風ともにかなり良好な条件であることもこの心地良さを強めている。
しかし、この心地良さがあるからこそ、また別種の良さも引き立つことになった。「この2階の書斎の隣のスペースが吹抜けだったのがそうではなくなったのは良かった」と大久保さんは言う。「ボーっとするのに一番良いのがこの部屋なんですね。夜景がきれいで、窓が全開の状態でオペラシティとか眺めていると、非常に落ち着くんですよ」。さらに大久保さんは、「書斎の外への抜け感が良くて、仕事をしていてもリラックスでき、また気持ちが良くてすごく気に入ってます」と続けて語ってくれた。
設計 KINO architects
所在地 東京都渋谷区
構造 木造、一部RC造
規模 地下1階地上2階
延床面積 185.14m2