Architecture

遊び心を忘れない毎日を快適に楽しく暮らす
家事動線を考え尽くした家

遊び心を忘れない  毎日を快適に楽しく暮らす 家事動線を考え尽くした家

生活空間と仕事場を明確に分離

服飾クリエイターの相馬まどかさんが自宅兼アトリエを新築したのは3年前。土地区画整理に伴い、もともと住んでいた住宅から程近いこの場所に移ってきた。「以前は、建売住宅に住んでいて、生活空間と洋裁教室を行うアトリエが同じスペースだったんです。教室のときは、ダイニングテーブルに板を載せて作業台として使い、教室が終わるとその都度板を片づけて、食卓に戻す。使い勝手が悪かったんですね。新築するにあたり、教室スペースと生活スペースをはっきり分けるというのが1番の希望でした」。

教室を行うアトリエは1階に。赤い扉の玄関が空間のアクセントになっている。玄関脇には、広いシューズクローゼットが設けられ、家族が帰宅したときはそちらを通って家に上がるという動線を確保した。アトリエに生活感が出ないよう配慮されている。

また、アトリエの大きな特徴が“らせん階段”。これもまどかさんのリクエストである。「らせん階段の丸いフォルムが好きなんです。壁で仕切られているよりスペースも稼げ、圧迫感がないですからね」。約3.5mという高い天井と南向きの掃き出し窓が開放感をもたらし、明るく心地よい空間となっている。


らせん階段からアトリエを見下ろす。中央の作業台は卓球台の上に板を載せたもの。「生活空間とは別にアトリエを持てたことで、作業途中でもそのまま置きっぱなしで家事に入れるのが嬉しいですね」とまどかさん。
らせん階段からアトリエを見下ろす。中央の作業台は卓球台の上に板を載せたもの。「生活空間とは別にアトリエを持てたことで、作業途中でもそのまま置きっぱなしで家事に入れるのが嬉しいですね」とまどかさん。
1階のアトリエと2階のリビングをつなぐらせん階段。作品を飾ったトルソーとも相性が良くオブジェ的な美しさも。
1階のアトリエと2階のリビングをつなぐらせん階段。作品を飾ったトルソーとも相性が良くオブジェ的な美しさも。
ベドリントン・テリアのナンナくん(6歳半)。教室名の“まんま”にちなんで命名。“番犬”として定位置から目を光らせている。
ベドリントン・テリアのナンナくん(6歳半)。教室名の“まんま”にちなんで命名。“番犬”として定位置から目を光らせている。
玄関から土間続きのシューズクローゼットは、靴だけでなく、ご主人のサーフボードやコート類なども収納できる
玄関から土間続きのシューズクローゼットは、靴だけでなく、ご主人のサーフボードやコート類なども収納できる
ミシンはニット用や業務用、ロックミシンなど全部で9台。IKEAで購入したキッチン用の台を使用。
ミシンはニット用や業務用、ロックミシンなど全部で9台。IKEAで購入したキッチン用の台を使用。


家事の時間を短縮する工夫

一家5人と犬、猫が暮らす相馬さん宅。仕事で忙しい中、いかに家事を効率的にこなすかがまどかさんの重要なテーマでもあった。「息子3人がサッカーをしていて、毎日洗濯物が大量なんです。これを楽にできる方法はないか、建築家に相談しました」。家事動線や水回りの配置など女性の視点で提案してほしいと、近くで設計事務所を営む小野澤裕子さんに依頼。「お風呂場から洗濯機までがすぐの距離。洗濯物は洗濯機から出して目の前で干せ、乾いたら、そのまま脇のクローゼットへ。各自のスペースにそのまま掛ければ終了。立ったまま片づけられるので、楽ちんです」。

奥行き5m近くもある細長いウォーク・イン・クローゼットには、家族5人の衣類が全て収納されている。洗濯物をたたむという習慣を思い切って無くしたことで、家事の時間が短縮された。「これは絶対におすすめです!」とまどかさんも大満足。クローゼットの奥には、テラスにつながるドアが設けられているため、屋外に洗濯物を干した場合も取り込むのに便利。キッチンとも隣接しており、家事動線を考えた構造になっている。


ハンガーを使った“掛ける収納”でたたむ手間を省いた。季節により上段のケース内の衣服と入れ替えるだけ。
ハンガーを使った“掛ける収納”でたたむ手間を省いた。季節により上段のケース内の衣服と入れ替えるだけ。
クローゼットの1番奥には、お籠り感たっぷりで集中力もアップする勉強スペースが。今年大学受験だった長男さんは見事志望大学に合格! 来年は三男さんが高校受験のため、縁起の良いこのスペースで勉強予定。
クローゼットの1番奥には、お籠り感たっぷりで集中力もアップする勉強スペースが。今年大学受験だった長男さんは見事志望大学に合格! 来年は三男さんが高校受験のため、縁起の良いこのスペースで勉強予定。
洗濯機に向かって左側がクローゼット、右側が風呂場。夜、廊下に洗濯物を干しておくと、朝には乾いているそう。
洗濯機に向かって左側がクローゼット、右側が風呂場。夜、廊下に洗濯物を干しておくと、朝には乾いているそう。
ダイニングの奥が洗濯物を干す廊下に。ダイニングテーブルは義父からの結婚祝いで、以前から使用していたもの。アジアンテイストがこの部屋にもぴったりマッチしている。
ダイニングの奥が洗濯物を干す廊下に。ダイニングテーブルは義父からの結婚祝いで、以前から使用していたもの。アジアンテイストがこの部屋にもぴったりマッチしている。


美しく機能的なキッチン

家族が集い、生活の中心となっているのが2階のLDK。デッキテラスとつながった南側一面の掃き出し窓により、採光がたっぷりで気持ちがいい。

「傾斜した天井を見たらハンモックを取り付けたくなったんです(笑)」とまどかさん。ラワンベニヤの勾配天井と壁に囲まれた素朴な空間に、エスニック調のハンモックがよく映える。ハンモックにすっぽり包まれ、テレビを観たり、読書をしたり、ウトウト昼寝したり……。家族が思い思いの時間を楽しむ空間となっている。

プライベートな時間はほとんどキッチンに立っているというまどかさん。それだけにキッチンへのこだわりは強い。「両親が共働きだったので、小学生の頃から普通に食事を作っていました。“もっとこうだったら効率いいのに”とアイディアはいろいろ持っていましたね。そのイメージしていたものをここで実現した感じです」。

壁一面の収納棚は、先に冷蔵庫を決めてスペースを確保。収納する鍋や食器、キッチン家電なども収納する物に合わせてスペースを作った。また、大容量がありがたいミーレの食器洗い機とオーブンは必須で、シンクや調理台についても使いやすい大きさをオーダーした。振り返れば手が届くスペースに、動線を意識したレイアウトと収納。キッチンの随所にも家事の時短を意識した工夫が施されている。


勾配天井と相性のよいハンモック。鮮やかな色が部屋のアクセントに。「形が気に入った」というベンチはバリ島から直輸入。
勾配天井と相性のよいハンモック。鮮やかな色が部屋のアクセントに。「形が気に入った」というベンチはバリ島から直輸入。
身体を預けるように座るチェアタイプのハンモックは、心地よい浮遊感がたまらない。「昼寝には最適」とのこと。
身体を預けるように座るチェアタイプのハンモックは、心地よい浮遊感がたまらない。「昼寝には最適」とのこと。

南向きで日当たり抜群のデッキテラス。これからの季節、バーベキューを楽しむことも。
南向きで日当たり抜群のデッキテラス。これからの季節、バーベキューを楽しむことも。
白で統一されたキッチンは、テラスに出入りできるドアを設け、回遊性も確保。対面式で家族との会話も楽しめる。
白で統一されたキッチンは、テラスに出入りできるドアを設け、回遊性も確保。対面式で家族との会話も楽しめる。
使う頻度の高い鍋はコンロから振り返ってすぐの引き出しに。適材適所の収納により、動きも少なく、作業能率もアップ。
使う頻度の高い鍋はコンロから振り返ってすぐの引き出しに。適材適所の収納により、動きも少なく、作業能率もアップ。


ロフトを最大限に活用する

まどかさんが建築家の小野澤さんにもう1つリクエストしたのが、寝室をロフトにすること。「寝るだけのスペースだから、布団も敷きっぱなしでいいのが楽ですね。それに、ロフト下を何かしらに使えると思ったんです」。その期待どおり、夫婦の寝室の下は、教室用のトイレと納戸に。子供たちの寝室の下は、玄関脇のシューズクローゼットや通路、子供部屋の勉強スペースとなり、有効活用されている。

また、子供部屋のロフトにはアトリエが見渡せる小窓を設けたり、猫だけが出入りできる小さな穴を壁に開けたりと、遊び心のある仕掛けがさりげなく施され、住む人はもちろん洋裁教室の生徒さんたちも楽しませている。

まどかさんが主宰する「man~ma(まんま)」は、“思ったまんまの服作り”が好評。「自分が作りたいものを自由に作らせてくれるのが嬉しいです。どんな要望にも応えてくれるのは、相馬先生しかおりません(笑)」と生徒さんからの信頼も厚い。

自然体で飾らない、“ありのまんま”のまどかさん。そのさわやかな笑顔からは、効率よく家事をこなし、仕事との両立を実現させた確かな充足感が伝わってくる。


ロフトをベッドとして利用した夫婦の寝室。低い天井が安心感をもたらせ、深い眠りを誘う。奥の棚は、よく読む雑誌のサイズに合わせた設計になっている。
ロフトをベッドとして利用した夫婦の寝室。低い天井が安心感をもたらせ、深い眠りを誘う。奥の棚は、よく読む雑誌のサイズに合わせた設計になっている。
大1、高2、中3の息子さんたちの部屋。ロフトは3人の寝室、ロフト下は勉強スペースとシューズクローゼット等。
大1、高2、中3の息子さんたちの部屋。ロフトは3人の寝室、ロフト下は勉強スペースとシューズクローゼット等。
子供部屋のロフトに設けられた小窓(右上)。毎朝、階段からこの小窓に向かって、「起きろー!」と息子さんたちを起こすそう。
子供部屋のロフトに設けられた小窓(右上)。毎朝、階段からこの小窓に向かって、「起きろー!」と息子さんたちを起こすそう。
猫のムサシくん(10歳)専用の通り道が家全体で5か所設けられている。「ナンナ&ムサシ」の追いかけっこが時折見られるとか。
猫のムサシくん(10歳)専用の通り道が家全体で5か所設けられている。「ナンナ&ムサシ」の追いかけっこが時折見られるとか。


着物をほどいてブラウスを作製中。オートクチュールデザイナーのアシスタントや婦人服のパタンナー、リフォームショップなど多彩な経歴を持つまどかさんは技術が高く、作品の幅も広い。現在は女子高校の家庭科の講師もしている。
着物をほどいてブラウスを作製中。オートクチュールデザイナーのアシスタントや婦人服のパタンナー、リフォームショップなど多彩な経歴を持つまどかさんは技術が高く、作品の幅も広い。現在は女子高校の家庭科の講師もしている。

生徒さんからの新築祝い。巻き髪の女性はまどかさんをイメージ。「man~ma」のロゴも刺しゅうで忠実に再現。
生徒さんからの新築祝い。巻き髪の女性はまどかさんをイメージ。「man~ma」のロゴも刺しゅうで忠実に再現。
 
まどかさんの作品。黒いレースのワンピースは長男さんの高校の卒業式に、鮮やかなグリーンが目を引く帯生地を使用した衣装は大学の入学式に着用。左のサンバイザーは次男さんが通う高校のタオルで作製。サッカーの応援時に使用するそう。
まどかさんの作品。黒いレースのワンピースは長男さんの高校の卒業式に、鮮やかなグリーンが目を引く帯生地を使用した衣装は大学の入学式に着用。左のサンバイザーは次男さんが通う高校のタオルで作製。サッカーの応援時に使用するそう。
生徒さんが作製中の、4歳のお孫さんに結婚式で着せるスーツ。ボタンホールは手作業で、裏地付き。まるでお店でオーダーしたようなクオリティの高さ。
生徒さんが作製中の、4歳のお孫さんに結婚式で着せるスーツ。ボタンホールは手作業で、裏地付き。まるでお店でオーダーしたようなクオリティの高さ。
目印にもなっている「m」の赤いロゴ(右上)は、ご主人の友人に作ってもらった新築祝いだそう。三男さんが保育園生の頃から乗っているという愛車「フォルクスワーゲン・タイプ2」も家の外観とマッチしている。
目印にもなっている「m」の赤いロゴ(右上)は、ご主人の友人に作ってもらった新築祝いだそう。三男さんが保育園生の頃から乗っているという愛車「フォルクスワーゲン・タイプ2」も家の外観とマッチしている。


相馬邸
設計 小野澤裕子建築設計事務所
所在地 東京都稲城市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 100m2