Architecture

シンプルに心地よくシームレスにつながる
家族との共生の場

シンプルに心地よく シームレスにつながる家族との共生の場

斬新なテラスの発想

「最初は建売りを探したのですが、気に入ったものが見つからなくて。同じ予算なら自分たちで好きなように考えて建てた方がいいと思ったんです」

都内の人気住宅街に、真っ白な箱のような一軒家を構える宮村さん夫妻。6人の建築家にプレゼンしてもらった中で、いちばんチャレンジングだと家族からも言われた、藤原徹平さんのプランを採用した。

「彼は友人なのですが、友人だから選んだわけではないんです。自分たちの考えを組み入れた上で、こんなものはどうかと提案してくれたことが決め手でしたね」

たとえば、テラス。リビングの向こうにテラスが続き、その先に街の風景が広がる、という家に宮村さんは憧れていた。だが、提案されたのは南向きのテラスを壁で囲ってしまう設計。

「ここは住宅街だから、外を眺めたりしないでしょうと言われ、それもそうだなと。できてみると結果的には、日差しも上から差し込むし、白い壁がレフ板替わりになって明るい。空を見上げると、フレーミングされた感じがジェームス・タレルっぽくていい。表情豊かな設計になったと思います」


「お豆腐のような家にしたかった」と奥さん。
ガラス張りのテラス。雨の日の風情もいい。


家族の存在を意識できる家に

建築家にどうしても伝えたかったのは、シームレスな関係が保てる家であること。宮村夫妻はともにグラフィックデザイナーだが、宮村さんはこの家を自宅兼事務所として使用し、奥さんは出勤して夜遅く帰宅する。

「自分のワークスペースを独立させると、部屋にこもりっきりになるんです。だから僕は、家族のいるリビングとつながりを感じられるスペースに、仕事場を設けたかった。妻は毎日帰りが遅いので、玄関を開けたらすぐに家の暖かい雰囲気を感じられるような造りにしてほしいと頼みました。狭い土地でそれをやるのは、大変だろうなと思いましたが」

その願いは、スキップフロアでつながる設計で実現された。玄関を開けるとキッチン、テラス、リビングで構成されるフロアに連動。宮村さんのワークスペースは、リビングとベッドルームの間のフロアに設置され、家族が動いたり、寛いだり、そんな空気を仕事をしながらも感じることができる。

「ここはいわゆる踊り場なので、最初はこんなところが仕事場になるのか? と思ったんですけど、藤原さんいわく“ここは君の最高の場所になるよ”と。できてみると、家の中全体を見渡せるし、天井も高くてほどよいし、居心地のいいスペースなんですよね。机と本棚の間の小スペースでは、仕事の合間に、よく仮眠を取ったりしています」

1日の大半を過ごすこのスペースが、言われた通り、宮村さんのいちばんお気に入りの場所になったとか。その脇にある、3階につながる階段が、奥さんのお気に入りの場所。夏は涼しく、冬は暖かい、その階段に腰掛け、本などを読んで過ごすのだという。


シンプルで使い勝手のいいキッチンに立つ、奥さんの陽々さん。
ヤスヲさんのワークスペース。採光もたっぷり。

それぞれのお気に入りの場所で。絨毯敷きなのも寛げる理由。

隠せるものは隠してミニマルに

無駄がなく機能的であることも、この家の特長だ。造り付けにしたワークスペースの机は、横幅いっぱいに設けられ、広々として仕事をしやすい。窓は出窓にしてスペースを確保するなど、細かなところまで計算されている。造り付けの本棚も、蔵書のサイズを測り、それに合わせて設計したもので、すっきりと収まっている。

「荷物が多いので、デッドスペースを作らないようにしたいと思いました。建売りを探していたとき、収納が少ないなという印象だったので、玄関の下、ガレージの下、階段の下など、できるだけ収納を作ってもらいましたね」

エアコンは棚に内蔵。使っていないときは、すっぽりと収納される。隠せるものは隠す、が信条だ。大きなクローゼットを取り付けたベッドルームも、ベッド以外何もないミニマルな空間だ。3階の南側、南東側に面し、ガラス張りの大きな窓から明るい日が差し込む。その隣にあるのが、バスルーム。


地下の部屋もすっきり、広々とした空間。
スキップフロアでつながる室内。


家で過ごす楽しみが広がる

「お風呂に対するこだわりは全くなかったんです。以前はシャワーだけでもOKだったし。でも、今、お風呂に入るのが楽しみで。それが、この家に来ていちばん変わったところですね」

奥さんがこだわった白いタイル貼りの空間に、照明デザイナーによる間接照明。天井高のある閉塞感のない空間は、のびのびと身体を伸ばせて、疲れを癒やしてくれる。仕事の効率、家族との団欒、そしてリラクゼーション。すべてが満たされる理想的な住まいだ。

「建築中も何度も足を運んだり、細かいところに注文をつけたり、妥協せず作りあげたことが良かったですね」

これからは劇団員の友人を呼び、テラスをステージにして出し物を考えるなど、テラスの活用を考案中。暮らしの楽しみがさらに広がりそうだ。


安東陽子さんデザインのカーテンが、シンプルなベッドルームに映える。
岡安泉さんによる間接照明が雰囲気を出す、バスルーム。


ミニ家庭菜園。パセリ、シソ、ミントなど。
友人の作家によるアートが目をひく。