Architecture

サヴォワ邸の感動をもとに中庭の周囲を
子どもたちが走り回れる家

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強烈だったサヴォワ邸体験

2002年から数年間、仕事の関係でフランスで暮らしたNさんは、滞在中、時間を見つけてはヨーロッパのモダニズム建築を見て回ったという。その中でも気に入ったのがル・コルビュジエが設計したサヴォワ邸だった。

美しい芝生の上に建つその姿が第一印象として強烈に残ったというNさん。「バルセロナのガウディ建築なども含めていろいろ見てみた中でサヴォワ邸をとても気に入ったのですが、デザインをコピーするのでなく、そのエッセンスのようなものを取り込めないかと建築家にお願いしました」


中庭の一角に設けられた階段から、ぐるりと回遊動線が巡り、最後はまた中庭に戻ってくる。
中庭の一角に設けられた階段から、ぐるりと回遊動線が巡り、最後はまた中庭に戻ってくる。

「サヴォワ邸は、あの白い外観が非常に良かったし、リビングの水平連続窓もとても恰好がよかった」と語るNさんは、建築家との打ち合わせではもちろんオリジナルな要望も伝えていった。

「庭を広く取ってほしい」「子どもたちが走り回れる場所がほしい」「明るい家にしたい」「朝は朝日で目覚めたい」などなど。

建築家の相坂さんはこうした要望に応えつつ、コルビュジエ建築のエッセンスともいうべき要素をそこにうまく組み合わせていくことになった。


道路側にある主寝室前のテラスから続く動線。
道路側にある主寝室前のテラスから続く動線。
主寝室前から裏のテラスへと続く動線。
主寝室前から裏のテラスへと続く動線。


手前右の階段から始まる回遊動線が奥の階段まで続き、中庭を中心にぐるっと一回りする。
手前右の階段から始まる回遊動線が奥の階段まで続き、中庭を中心にぐるっと一回りする。

走り回れる場所

「広い庭」は敷地の中で子どもたちを遊ばせることができればという思いから出したリクエストだった。「子どもたちは公園にもちろん行きますが、目の届く範囲で遊べる環境があったらいいなと」

「広い庭」はガレージの奥に中庭として配置され、ガレージのシャッターを開けると道路から中庭まで視線が抜けていく。そしてこの中庭を囲むように「走り回れる場所」がある。相坂さんはこの場所をサヴォワ邸の特徴のひとつであるとともに、自身が以前より重視してきた回遊性をこの家に盛り込むことでつくり出した。

「空間の回遊性というのがサヴォワ邸のいちばんのいいところかなと思っています。サヴォワ邸と同様に少し上ってまた下りていく楽しみが味わえる立体的な変化に富むつくりにすると同時に、シーンごとに見える風景が変わっていくように、シークエンスの変化も楽しめるような設計を心がけました」


奥の「お立ち台」に立つと道路の様子がうかがえる。
奥の「お立ち台」に立つと道路の様子がうかがえる。
上のお嬢さんの部屋の前に設けられたテラス。
上のお嬢さんの部屋の前に設けられたテラス。
同じテラスからはずっと先の山の緑まで見通すことができる。
同じテラスからはずっと先の山の緑まで見通すことができる。


今夏、子どもたちはこの中庭でプールを楽しんだ。涼しくなったらバーべキューもしたいし、家庭菜園をすることも考えているという。
今夏、子どもたちはこの中庭でプールを楽しんだ。涼しくなったらバーべキューもしたいし、家庭菜園をすることも考えているという。

マンション住まいの時には光が差し込んでくるのが1方向からだけで、かつその時間が限られているのがストレスだったというNさん。この家では大小の窓に加え、トップライトやハイサイドライトもつくり込まれ、どこにいても多方向から光が入りこの家の明るさにはとても満足しているという。リクエストであった「朝日で目が覚める」こともかなえられたという。


開口が多く明るいだけでなく開放感もある1階スペース。
開口が多く明るいだけでなく開放感もある1階スペース。
西側に設けられたハイサイドライトから差し込んだ光がつくり出す壁の模様は、時間で変化していく。小上がりの下は収納。
西側に設けられたハイサイドライトから差し込んだ光がつくり出す壁の模様は、時間で変化していく。小上がりの下は収納。
Nさんの希望でつくれられたガラスのグラスケース。バックライトでグラスが光る。
Nさんの希望でつくれられたガラスのグラスケース。バックライトでグラスが光る。


リビングの天井は湾曲していて、ハイサイドライトから入った光がグラデーショナルに空間に広がる。
リビングの天井は湾曲していて、ハイサイドライトから入った光がグラデーショナルに空間に広がる。
「違うテクスチュアのものがほしい」とのNさんのリクエストから、テレビの後ろの壁には白タイルが貼られている。
「違うテクスチュアのものがほしい」とのNさんのリクエストから、テレビの後ろの壁には白タイルが貼られている。


小上がりの畳の上から見る。畳の色はフローリングの色に合わせてセレクト。キッチンは子どもたちの居場所が見えるようにとの奥さんの要望で対面式に。奥の冷蔵庫は開く向きが逆のものを2つ組み合わせている。
小上がりの畳の上から見る。畳の色はフローリングの色に合わせてセレクト。キッチンは子どもたちの居場所が見えるようにとの奥さんの要望で対面式に。奥の冷蔵庫は開く向きが逆のものを2つ組み合わせている。

色彩を施す

「白い家」のイメージが強いサヴォワ邸だが、実は1階の外壁部分をはじめ色彩が建築の各所に施されている。Nさんからも部分的に色を使ってほしいとのリクエストが伝えられた。

「白だけでは少し面白みが足りないという思いがありました。それと、子どもたちがまだ小さいということもあって、アクセントとなるような色があったほうがいいんじゃないかと。子どもたちがピンクが好きだったりラベンダー色が好きだったりということもあったのでそれもお話ししました」

この要望に応え相坂さんはこの家の特徴である「回遊性」にちなんで色も赤橙黄緑青藍紫と色相が一巡りするように、かつ、2つの色が同時に見えないように慎重に配色。子ども部屋、Nさんの書斎、玄関、トイレ、洗面所などの壁が各色に塗られた。


上のお嬢さんの部屋からテラスを見る。
上のお嬢さんの部屋からテラスを見る。
上のお嬢さんの部屋と姉妹共有のウォークインクローゼットを仕切る戸はピンク色。入口付近にトップライトが設けられている。
上のお嬢さんの部屋と姉妹共有のウォークインクローゼットを仕切る戸はピンク色。入口付近にトップライトが設けられている。


下のお嬢さんの部屋とウォークインクローゼットを仕切る戸は紫色。2つの色が同時に見られないように配慮されている。
下のお嬢さんの部屋とウォークインクローゼットを仕切る戸は紫色。2つの色が同時に見られないように配慮されている。
Nさんの書斎と夫婦のウォークインクローゼットの間の戸はオレンジ。書斎は3畳と当初より狭くなったが居心地がいいという。
Nさんの書斎と夫婦のウォークインクローゼットの間の戸はオレンジ。書斎は3畳と当初より狭くなったが居心地がいいという。


主寝室からスロープ状になった廊下を見る。階段と通ずる開口も設けられている。
主寝室からスロープ状になった廊下を見る。階段と通ずる開口も設けられている。
西側部分につくられた「水平連続窓」。廊下は主寝室に向かってスロープになっており、なだらかに下る。
西側部分につくられた「水平連続窓」。廊下は主寝室に向かってスロープになっており、なだらかに下る。


洗面所にはドアの色に合わせて青色の椅子が置かれている。
洗面所にはドアの色に合わせて青色の椅子が置かれている。
トイレの壁は緑に塗られている。
トイレの壁は緑に塗られている。


これからの楽しみ

Nさんが「家の中でいる時間が長い」と話してくれたのはダイニングだ。「ここでお酒を飲んでいることが多いですね。この1階のスペースは子どもがリビングのところで遊んだりテレビを見たりと家族がともに過ごせる空間があることもあって、ここで過ごす時間が自然と長くなります」 

お酒が好きで2つある冷蔵庫のひとつは酒類だけで占められているというNさん。春には中庭に置かれた椅子に座ってお酒を飲んだりもしたが、これから涼しくなってきたら屋外で楽しみにしていることがあるという。

それはバーベキューで、中庭に加えて2階にも2カ所、バーベキューを楽しめる場所があるのだ。中でも、アウトドア感が最高に満喫できそうなのが裏側のテラス。ずっと先の山の緑まで見通すことのできる場所で楽しむバーベキューは格別なのではないだろうか、そのように勝手ながら予想した。 


廊下の突き当りを右に折れるとリビングがある。
廊下の突き当りを右に折れるとリビングがある。
手前の玄関とシューズクローゼットの間の壁は黄色に塗られている。右のガラスドアからガレージに出ることができる。
手前の玄関とシューズクローゼットの間の壁は黄色に塗られている。右のガラスドアからガレージに出ることができる。


吹き抜け下のリビングでくつろぐNさん夫婦と子どもたち。
吹き抜け下のリビングでくつろぐNさん夫婦と子どもたち。

右がガレージでその奥に中庭がつくられている。左の奥が玄関。
右がガレージでその奥に中庭がつくられている。左の奥が玄関。

N邸
設計 相坂研介設計アトリエ
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 206.44m2