DIY
一戸建てから始まる構想自給自足的暮らしの
趣味が広がる家
自然とともにある生活
100坪の敷地にログハウス、野菜を育てる広い庭。都心郊外の緑に恵まれた環境の中、川辺さん一家は自然に包まれた暮らしを満喫している。
「年を重ねた後もずっと好きでいられるか、その時々に合わせて生活を柔軟に変化させられるかを考えた末、辿り着いたのがログハウスでした。もともとアウトドアが好きでしたが、だからこの家を建てたという訳ではないんです。たまたま選択することになって、住んでみたら生活スタイルが変わり、趣味が広がっていったという感じですね」
と語るのは夫・央士さん。家庭菜園と呼ぶには広すぎるほどの庭を、コンポストで堆肥化した土を使い、50CCの耕運機で耕して作物を育てる。庭には自作の小屋、薪ストーブ用の薪のストック。木の香りに包まれたログハウスの中からは、庭や向かいの神社の緑が眺められ、別荘にいるかのようなヒーリングに包まれる。
外とのつながりを感じる家
「以前はよくオートキャンプに行っていたのですが、行かなくなりましたね。今は毎日が非現実的な暮らしで、キャンプに行く必要性を感じなくなったんです」
広いデッキでは、食事やバーベキューをしたり、収穫した野菜を並べて選別したり、トレイルの道具のメンテナンスをしたり。大きな庇があり、雨の日でも過ごすことのできるデッキが、内と外とをつなぐ空間となり、自然との一体感を感じさせている。
「庇が深いので、夏は家の中に入る直射日光が遮られて涼しく過ごせます。冬も暖房器具は薪ストーブだけですが十分暖かいですね。友人が遊びにくると、床暖房入ってる? と聞かれるくらいです」
薪ストーブは、玄関の土間に設置。庭に自ら敷いた大谷石とこの土間は、年に数回訪れる益子の古家をイメージしたものだという。
「内と外をつなぐ空間を、玄関にも作りたかったんです。冬場はパン作りのためのぶどう酵母をストーブの前で発酵させたりしていますが、ここも生活の場として活用しています」
ピザやパンや肉を焼いたり、雨で濡れた服を乾かしたり。薪ストーブは、大震災でライフラインが寸断された時にも役立った。
「震災直後は身も心も不安な日々を過ごしていました。そんな中で、薪ストーブだけは暖かく燃え続けていて、どこかほっとするものを感じましたね。商店からものがなくなっていく中で、我が家の菜園には野菜があるし、火も起こせる。そんな生活の有難さを改めて感じました」
完成度の高いDIY
1階は土間、リビング、ダイニング、キッチンがワンフロアになった大空間。広々としていながら暖かな雰囲気は、素朴な木の家具や、妻・里佳さんの選んだ雑貨や器などからも醸し出される。
「家具はほとんどが自前です。以前住んでいたマンションでも作っていましたが、今は広いスペースがあるので作りやすくなりました」
建築時に出た廃材を使って、テーブルやソファーをはじめ、ベッドフレーム、本棚、子供のためのままごとキッチンや木馬、フォトフレームやキーボックスなどの雑貨まで央士さんが製作。里佳さんは、
「キッチン前のカウンターテーブルは、建築時に電気配線を敷いておいてもらい、夫が私の身長に合わせたサイズで作ってくれました。次女が生まれる前に、授乳用のソファが欲しいと言ったら、退院した時には3人掛けソファが出来上がっていました」
誕生後にも記念のソファが完成。次女・みのりちゃんが大きくなったときに話して聞かせるのが楽しみだという。
ひとりになれる空間も確保
央士さんのDIY歴は、クルマ好きだったことから始まる。
「クラシックカーが好きで、以前、実家に自分でガレージを作ったんです。下部のメンテナンスのために、堀込みのピットも製作して。写真も趣味だったので、暗室と洗い場も設けました。今にして思えば、それがDIYのきっかけですね」
2階の屋根裏納戸には、そんな央士さんが趣味にふける、秘密の小部屋が。
「アウトドア用の道具を収納している小部屋ですが、ここに机を置いて山の地図を眺めたり、本を読んだり、よくひとりで籠っています。自分の城のような感じで、家の中で特に好きな場所ですね」
その手前には、大きな自作のテーブルが置かれた、家族みんなで集えるスペース。ここでも手作りの本棚から雑誌を取りだして眺めたり、食事をとったり、長女ひよりちゃんが勉強したり。それぞれが自由に楽しむことができる。
「どれだけ居心地のよい場所があるかが家の価値だ、という建築家の中村好文さんの話を本で読んだことがあるんです。うちもそうあればいいと考えました」
小屋の可能性に挑戦
大学時代に読んだ中村さんの書物が、ライフスタイルや今後の家の構想に、今も影響を与えている。
「彼の小屋に対する愛情に強く惹かれました。たまたまこの家を建てた後に大震災があり、中村さんが軽井沢に小屋を建てたことを知って、我が家にも作ることを思い立ちました」
その計画は「Hutte Launch(ヒュッテ ランチ)=山奥の小型艦」と名づけた。菜園の脇に自ら建てた小屋は、現在は農作業のためのLaube(小屋)であり子供の遊び小屋。そこに五右衛門風呂を作り、電気、水道を敷き必要最低限の生活できるスペースを作る。さらには雨水を利用した浄水システムを構築するというものだ。震災などでライフラインが寸断されたときにも、生活を守れる場所の確保を目指す。
「いざというときのための安心感と、庭でも生活できるという可能性が楽しいんです。テントで寝る感覚と似ています。今はこの計画を少しずつ進行中しています」
家を得たことから広がる無限のプランニング。央士さんの理想の住まいは、これからも自らの手で作り続けられていく。