DIY
自然との調和を味わう木のぬくもりと手作りの温かさ
自然に溶け込む山小屋風の家
五右衛門風呂が夢だった
「別荘に来たみたい、ってよく言われるんです」
と、奥さんのゆかさん。カメラマン雨宮秀也氏の自宅は、都心から遠くない郊外の住宅地の奥まった場所にあり、目の前には豊かな森が広がっている。「木の小屋をイメージした」というその家は、まわりの自然に溶け込むかのような静かでひそやかな佇まいだ。
「もともと知り合いだった建築家の中村好文さんが設計してくれることになり、土地を探したんです。五右衛門風呂を作るのが希望でしたから、住宅の密集していない場所が条件でした」
玄関を入り、通り土間を渡ったその奥にあるバスルームに、鉄製の五右衛門風呂が。毎日、薪をくべて焚くこと30分。それは、雨宮氏の長年の夢だった。
「子供の頃、1シーズンだけ薪風呂を使ったことがあって、自分が風呂を焚く当番だったんです。夕方、焚きながらSFや冒険小説を読みふけっていると、とてもリアルな感覚があった。その時間が今、自分の根本になっている気がするんです。だから、もういちどそういう時間がほしいと思ったんです」
ベンチに腰をかけ、キッチンとつながる小窓から酒やつまみを出してもらい、薪をくべつつ読書にふける時間。それはある意味、とても贅沢なひとときなのかもしれない。
「家で仕事をしているので、仕事とプライベートの切替えが必要なんですよね。いい気分転換になっていると思います」
風呂場の窓からは、庭の緑も目に映る。「ぐつぐつと煮られている感じ」だという五右衛門風呂は、身体を芯まで温めてくれ、毎日が温泉気分なのだそうだ。
天然素材を活かした心地よさ
家を建てて丸1年。家の中には、今もほのかに木の香りが漂っている。自然の中にいるかのような心地良さは、そのかすかな芳香と、木の質感にあるのかもしれない。
「建材は、奥能登でよく使われているあての木(ヒノキアスナロ)です。匂いがよくて防虫効果が高い。左官壁は呼吸する素材と言われているだけあって、梅雨の時期もじめじめしませんでしたね。白木の床もさらっとしているので、あえてスリッパは履かず、裸足でその感触を楽しんでいます。もともと、ペンキを塗ったり、コーティングしたりすることが本当に必要なのかな、と思っていたので、家全体を無塗装に仕上げました。結果として、気持ちのいい家になったと思います」
できるところはDIYで
「できることところは自分たちでやる」ということから、壁ぬりをはじめ、建具家具の一部、庭作りは、自分たちでやった。壁は左官とペンキ仕上げ。友人たちに手伝ってもらい、10日近くかけて塗り上げた。キッチンは、設計図を元に、輪島の木工所にカットしてもらい、パーツで送ってもらったものを、組み立てた。
「余った木材で、本棚や収納棚を作ったり、ポストを作ったり」当初はのちのち作ってもらおうと思っていた建具も、職人さんが作ってくれたのを見ながら、見よう見まねで作った。「寒くなってきたから戸を作ろうとか、急がずにひとつずつ、必要なものから作っていったので。好きでやったというよりは、必然に迫られてやったわけですが、今思えば楽しかったですね」
庭と生活との一体感を楽しむ
庭づくりも、かなり大がかりな仕事だった。まずシャベルで土を掘り、何トンもの土を運んで造成。柵に使う板は、防腐作用を考えて、何日もかけて1枚ずつ手で焼いた。玄関脇にある、五右衛門風呂用の薪を保管する薪小屋も手作りだ。
「庭は牧場っぽいのがいいと思い、柵を取り付けたり、牧草の種をまいて育てたりしました。やっとそれらしくなってきましたね」
野の花などの素朴な植物は、花の教室を持つゆかさんが仕事で使う。キッチンにつながるドア付近のハーブや野菜などは、食卓に活かされている。
「ちょっとしたものは庭で育てて料理に使っています。近所にお店がなくて、ちょっと買い出しに行くということができないので、家にある材料でピザを作ったり、パンを焼いたりして食べることが多くなりました」
長年使いこんだダッチオーブンを使って、ピザやパンを焼く。生地の仕込みは雨宮氏担当。その他の作業はゆかさん担当だ。
「僕は粉もの作りだけですが。以前から好きで、そば打ちをしたり、パンの生地を作ったりしていたんです。年末には5キロの肉を買ってきて、裏庭で燻製にして乾かし、ソーセージやベーコンも作ります。冷凍して保存しておくと便利なんです」
2×6メートルの大きな窓から森が望めるリビングで、お手製のピザと庭で摘んだばかりのハーブサラダをご馳走になった。木の香りに包まれて、自然を堪能することができる、至福の空間がここにある。