Green
古い日本家屋に暮らす癒しと恵みに溢れた
豊かな土壌のある生活
静かな環境に溶け込む
野菜生活研究家の鈴木富樹子さんは、「庭つきの平屋限定で」家を探していた。「日本家屋の落ち着く雰囲気が好きで。縁側や雪見障子などのある古い一軒家が希望でした」。1年程探して7年前に出会ったのが現在の家。近くに大きな公園がある、緑豊かな吉祥寺の住宅街。路地の奥に現れる築70年のその家は、昭和の趣きをそのままに残して佇む。大学院でランドスケープを学んだ鈴木さん。造園会社に就職し屋上菜園の設計を担当したことがきっかけで、野菜作りに興味を持つ。庭のある家に暮らすことはある意味で必然だった。「肥料を使わない自然栽培を目指しているのですが、それにはいろんな種類の微生物が育ってくれるのが条件。今はまだ途中段階にあります」。
縁側の窓の向こうに広がる緑は仕事場であり、食生活の一部を支える場であり、生活の潤い、癒しでもある。手入れの行き届いた庭と木造の古い家屋の風情が、静かなまわりの環境の中に溶け込んでいる。
昭和レトロに統一
引き戸の玄関、畳の部屋に床の間、欄間、キッチンの脇のお勝手口。昔の暮らしが偲ばれる空間は、落ち着く雰囲気に溢れている。
「この物件を見つけたのは私なのですが、平屋の古い家というのは私にとってはどこか不思議な感じですね」と、映像作家であるご主人の井内雅倫さん。「私自身はこういう家に暮らした経験もないし、懐かしいという感じはなく逆に新鮮な感じ。日本の文化に興味を持つ外国人のような気分ですね」。
しかし住んでみて気づいたのは、「ディテールの面白さがある」こと。例えば、玄関の細かな細工や、桟の細工…。「今の規格品にはない面白さを感じます。ふたりの志向は全然違ったのですが、だからといって中間くらいで折り合いをつけようとすると中途半端なものになってしまったかもしれません。一方に合わせたのは正解でした」。
昭和レトロな雰囲気に合わせる家具も富樹子さんが選択。畳の居間に置かれたちゃぶ台などが味を出している。「ネットで探したり、吉祥寺のアンティークのお店で買ったりしたものばかりです。私の仕事机は父が長年使っていたもののお下がりですが」。
アンティークの古びた家具に室内の活き活きとしたグリーンがよく映えている。「木のものばかり置いても古っぽくなるので、金属の小物を合わせて変化をつけてみたりもしています」。室内のモミの木はアルミのバケツにアレンジ。「普通の鉢などはあまり使いません。ざるとかバケツとか、実用的なものと合わせた方が便利だし、生活空間になじむと思いますね」。
庭の恵みを食卓に
お勝手口のあるキッチンは、昔ながらの味わいのあるスペース。ここにもアンティークの戸棚を置き、お気に入りの益子の作家、高坂千春さんの作品などを並べる。窓際にはカブやレタス、ハーブなどをガラスの小瓶に入れて水耕栽培。
「育ってきたら庭に植えるものもあります。昔から発酵食に興味があって。お味噌は定番ですが、この季節ならお庭で採れた夏みかんやジューンベリーなどで酵素シロップを作っています」。
ここに暮らすようになってから、庭で採れた食材を使いたいという思いから料理のレパートリーも増えたという。「ラタトゥイユやジェノベーゼ、アオジソの塩づけなどもよく作りますね。シンプルで素朴なものしか作れませんが、素材の味を楽しめるレシピかなと思っています」。
家族とともに育つ家
今、庭で育てている食材はミョウガやニラ、ブルーベリー、ブラックベリー、ミント、レモンバーム…。トマトやゴーヤなども、これから育ってくる季節。「夏野菜は毎日、何かしら食卓に載ってきますね。これからはエダマメやオクラがおいしい季節。採れたての味は全然違うので、キッチンでお湯を湧かしてから採りにいくこともあります」。
幼い頃、祖母が庭で育てて朝収穫した野菜をもってきてくれたことが、とても印象に残っているという富樹子さん。そんな記憶が今の暮らしの原点なのかもしれない。現在2歳半の息子も、庭のある一軒家ですくすくと育っている。「虫が大好きで、ダンゴ虫やチョウチョなど見つけては喜んでいます。農薬を使っていないので、いろんな虫が飛んでくるんですよ」。
一緒にトウモロコシの種を蒔いたり、ジャガイモの種芋を植え付けたり。「10歳までに自然と触れ合わせていろんな体験をさせたいですね。食育、食農教育の大切さを感じています」。そんな環境を与えられるのも、自然を身近に感じられる家ならでは。豊かな実りがもたらされる日が楽しみだ。