Kitchen
ホスピタリティに癒されるフレンチシックに彩る
サロン風邸宅
サロンとしての家
南仏プロヴァンスを思わせる、サーモンピンクの外壁に包まれた一軒家。料理、テーブルコーディネート、フラワーアレンジメントをトータルで教えるおもてなし教室主宰、岩下亜希さんのサロン兼自宅は、洗練されていながらもホスピタリティに満ちている。
「もともと友人を家に招いてお料理をふるまうのが好きで、その延長で教室を開くことになったんです。そのうちにフードコーディネーターの資格をとったり、フラワーアレンジメントを習ったりして今につながっています」
「それまでに引っ越しを何回か繰り返していて、人を呼ぶならこうしたい、というイメージがありました。お客様をお迎えした時に思うのは、まず玄関で靴を脱いでスリッパにはきかえてもらうのが申し訳ない、ということ。せっかく足元まで服に合わせてトータルコーディネートしてきて頂いているのに、それを損なうのは躊躇われます。それで、土足のままで入れるように、テラコッタの床を敷きつめました」
1階のリビングダイニングから、2階の廊下まで敷きつめられたテラコッタが、暖かい雰囲気を感じさせる。玄関での手間がないせいもあるのか、スムーズに中に招き入れられ、人の家にあがる緊張感も軽くなるようだ。この欧米スタイルは、岩下さんがフランスで過ごした2年間になじんだものでもある。
プロヴァンスをイメージ
「20代の頃ですが、フランスを中心に、ヨーロッパのあちこちを廻って、街を歩きながら気に入った家を写真に撮っていました。そこからイメージを固めていったところがありますね」
20畳ほどのリビングには、テラコッタの床でつながった回廊風のテラスを併設。日差しをよけるアーチ型の壁に、庭の植え込みには、渡欧の度に見つけると買ってくる、ユニークなオーナメントが。至るところにヨーロッパの雰囲気が感じられる。
「機能的には、広さをめいっぱい出すことを考えました。キッチンにカウンターを設けると狭くなるので、アイランドも可動式にしたんです。ベリーダンスをやっているのですが、ダンスパーティーを開くときには撤収したり、寿司パーティーなどビュッフェで楽しむときは、テーブルとして使ったり。フレキシブルに対応できます」
仕切りを設けると、死角となったスペースにものが増えていく。すっきりとした空間を保つために、クローズする部分を作らないよう考えた。仕事柄、たくさん揃う食器やキッチンツール、食材などは、階段下のデッドスペースをウォークインの収納庫に。
「お客様の多い家なので、どこを見られてもいいように、美しい生活感が出るようにと考えました。大変ではありますが、常にクリーンにしておくことを、自分に課しているところはありますね」
こだわり抜いたプライベート空間
収納庫の出入り口付近は、上から明るい日差しが届く。光が取り込めるよう、2階まで吹き抜けにしたいという、岩下さんのアイデアだ。2階にはベッドルーム、バスルーム、3匹の猫の遊び場ともなっているサンルームがあり、たっぷり採られた開口からの採光が、白いインテリアに映える。
「家はシンプルにして、私たちの生活感が映し出されるよう、箱だけを作ってもらったという感じです。そこに好みのインテリアを取り入れて楽しんでいます」
初めてフランスを訪れたときに蚤の市で見つけ、いつか家を建てるときには欲しい、と思っていた猫足のバスタブ、ヨーロッパの古き良き時代をモチーフに作られた水栓金具など、水まわりもこだわってコーディネート。
「ベッドリネンは、麻を一反でまとめ買いして、シーツや枕カバーを自分で作っています。リネンのシャリっとした感じが好きなんです」
妥協せず、生活を楽しむために手間をかける、それが心地よい空間を生み出しているのかもしれない。
ホスピタリティに人が集う
お気に入りのアンティーク家具がさりげなく揃えられたリビングには、いつも花を絶やさない。お客さんを招くときは、季節感を活かしてお気に入りのテーブルウエアでセッティング。この日は、パープル系でまとめられていた。
「フレンチをベースに、モロカンなどちょっとエキゾチックなテイストを加えたものが好きなんです。パープルをメインにヴィヴィッドなピンクをプラスし、かわいくなりすぎないように、グラスは黒で引き締めました」
テーブルクロスや、椅子のカバーも手作りしたもの。クリストフルのカトラリーが並ぶ豪華さと、温かさとがミックスされている。
「機能的でパワフルなキッチンは、よく“男前だね”って言われます。でも、お料理もお花もテーブルコーディネートも、女性的なものに思えますけど、私は男性的な作業だと思っているんです。女性を喜ばせたいという感覚に似ていますね。家に来てもらった人に、“素敵!”と喜んでもらえると嬉しいし、夫に出すお料理でさえも、彼女を喜ばせるみたいな気持ちで作っています」
生活を楽しむこと、人とのコミュニケーションを大切にすることは、フランス的なライフスタイルとも重なる。
「しょっ中パーティーをしていますが、人をおもてなしすることによって、自分に返ってくるものが必ずあるんです。情報交換できたり、つながりができたり。それが私の家の楽しみ方ですね」
フレンチシックな空間に漂うホスピタリティ。その居心地の良さから、人の出入りが絶えない。