Outdoor
平屋の暮らしを目指して高尾の自然と一体に
大開口のダイナミズム
平屋が建てられる土地を
「建物のイメージが先にあって、そこから土地を探し始めたんです」。
一級建築士・望月新さんの自邸は、登山客で賑わう高尾山の麓、清流の流れる小川のほとりに建つ。
「もともと多摩の田園地帯で育ったので、自然が豊かでのびのびと暮らせる環境が理想でした。そこに違和感なく溶け込み、地面に近い暮らしができる平屋の家を建てたいと思っていました」。
平屋を実現するために見つけたのは、30段ほどの階段を上がったところに開ける160坪の敷地延長の土地。後ろには竹林が生い茂り、眼下には街が見下ろせる。
「傾斜地に合うよう屋根の勾配を考え、外壁にはまわりの自然になじむレッドシダーを用いました。目立たせるのではなく、違和感のない佇まいが理想でした」。
子供部屋の確保のため、一部分に2階を設置したが、念願の平屋をほぼ実現。LDK、寝室につながる廊下を貫く大開口を開け放てば、多摩の自然の一部になれるかのようだ。
日本家屋の利点を取り入れる
古くから自然と共生してきた日本家屋。望月さんは、先人の知恵がつまった日本家屋の良さを活かしたいと考えた。
「例えば軒の庇は、ガラスを汚さないだけではなく、日差しも調整できます。ここは1.5mと深い庇をつけましたが、夏は約70度の角度で入ってくる日を極力遮ることができるし、冬は約30度で入る日差しを奥まで通して暖かく過ごせます」。
雨どいは設けず、代わりに雨だれを受ける石を、建物に沿ってクの字型に、庭に敷設。日本庭園の美しさも演出されている。庭に出ると広がる空が、室内ではアカマツの天井が、自然の中に包み込まれる感覚を与えてくれる。
「LDKの天井はLVLの垂木を見せているのですが、いずれ経年変化で赤く変わっていきます。デザイン的にも連続性があって奥行き感が出ると思います」。
大開口のある南側の庭と、BBQのできる北側のテラス。両側に抜けのある大空間のLDKを、温かい光と心地よい風が通り抜ける。
緩やかにつながるLDK
「うちは外から帰ってくるとき階段をあがってこなくてはいけないので、荷物の搬入が大変なんです。そこで玄関脇にパントリーを設けました」。
日用品のストックや、レジャーの道具などを収めるパントリーは、玄関脇からキッチンまでつながっていて、どちら側からも出入りできる。
「キッチンは妻の希望を取り入れ、娘2人がお手伝いできるよう幅やサイズを考えました」。
アイランドのシンクに立てば、LDK全体が見渡せる。仕切りのないワンルームだが、ダイニングはやや高く、リビングは逆にレベルを下げることで、空間を緩やかに分けている。
「リビングは落ち着いて籠れる雰囲気にするために、ソファーやテレビボードなども低い高さで造作しました」。
照明もスタンドライトで低い位置に設定。その脇では、薪ストーブが暖かく燃え盛る。
「薪ストーブが置きたかったのも、この土地を選んだ理由のひとつですね(笑)。ストーブを炊いて、ソファーに寝転がり、裏山の竹林を眺めている時間が好きなんです」。
自然を享受する生活
「寝室や子供部屋は、クローゼットを大きめに設けてあとはコンパクトに。読書コーナーも設けて、家族それぞれが好きなときに座れるイスも用意しました」。
窓辺の読書コーナーや、2階からのパノラマが広がる子供部屋。もとは旅館の敷地だったというだけに、保養地並みの景観がどの部屋からも楽しめる。
「もともとアウトドアが好きで、家を建てる前はよくキャンプに行っていたのですが、今は行かなくなりましたね。家にいても十分楽しめるんです」。
今凝っているのは、南側の庭から数段下がった位置にある畑での自家菜園だそう。
「キュウリ、ナス、ピーマン、白菜….、色んなものに挑戦しています。そうしていると自然に敏感になるし、地盤のこととか風の様子とか、建築にも関わることを体感できます。そんな経験をしながら、家族との生活をここでゆっくり楽しみたいですね」。