Style of Life
二人と一匹の心地よい暮らし空間をゆるやかに分ける
中庭+吹き抜けのある家
馴染みのなかった鎌倉で
四季を通じて人気の観光地として賑わう街、鎌倉。駅から車で20分ほど、もともとは別荘地だったという高台の一角に、早乙女さん夫妻と愛猫トンガリが暮らす住まいがある。
鎌倉という場所にこだわって土地探しをする人も多いなか、早乙女さん夫妻の場合はちょっと違ったようだ。
「じつは、鎌倉には何回か遊びに来たことがあるくらいで、特にゆかりはなかったんです」と奥さま。ご主人も湘南方面には度々来ていたものの、鎌倉には小学校の修学旅行で来た時の印象くらいしかなかったのだそう。
都内を含め、さまざまな場所での家づくりを検討する過程で、偶然紹介されたのが現在の土地。これまで川崎市の中心部にあるマンションで暮らしていたため、ご主人の通勤時間が長くなることや生活が不便になるのでは、という不安もあったが、それ以上に訪れた際に感じた街の雰囲気や、敷地の日当たりの良さなどが気に入ったのだという。「それに鎌倉なら、家族や友人に観光がてら遊びに来てもらえるというところも魅力でした」(奥さま)。
空間を緩やかに分ける
「仕切りをつくらず、家全体がひとつの空間になるようにしたかったんです」と話すご主人。玄関扉を開けるとまず正面に、大きなピクチャーウインドウ越しの中庭が目に入るが、この中庭を中心にダイニング・キッチンとリビングを左右に振り分けているのが早乙女邸の大きな特徴だ。扉や戸で仕切ることなく、緩やかに空間が分けられているため、「友人が15人くらい来た時も、自然と女性はキッチン、男性はリビングに集まっていました。ちょっと離れている感じが、居心地がいいんですよ」と奥さま。気配は感じつつも程よい距離感を保つことができるのが、居心地の良さの秘密だろう。
ダイニング・キッチンは、「生活感が出ないようにしたい」という奥さまの要望で、吊り戸棚や収納棚はつくらず、棚板を取り付けて見せる収納に。雑多な生活用品や食材はパントリーに収め、棚には好きな作家の食器やグリーンなどを並べて、小さなギャラリーのようなスペースにしている。「居心地がいいので、料理が楽しくなりました。何だか料理上手になった気がします」と笑う奥さま。コンロやシンクに立つと中庭、そしてリビングまで視線が抜けるのも気持ちがいいという。
一方リビングは、高い吹き抜けと大きな窓が開放的な空間だ。一角には階段があり、2階ともつながりが感じられるつくりになっている。
こうした仕切りのない自由な空間は、夫妻だけでなく愛猫トンガリにとっても居心地のいい住まいのよう。撮影中も優雅な足取りで家中を歩き回ったり、お気に入りの場所でゴロリと寝転んだりしながら気ままに過ごす愛らしい姿が見られた。
好きなものを散りばめて
棚の上に、窓辺に、壁にと、家中のあちらこちらに飾られているグリーンが印象的な早乙女邸。すべて奥さまの手によるもので、住み始めてから少しずつ買い求め、増やしてきたのだという。「育てるのが簡単なグリーンを中心にしています。200円くらいで買った植物がよく育ったりしておもしろいです」(奥さま)。
また、グリーンが映える落ち着いた内装デザインや家具は、もともとインテリア選びが好きだというご主人を中心に、二人で話し合いながら決めていったとのこと。「雑誌やウェブに載っている家の写真の中で気に入ったものをお互いに見せ合っていたのですが、好きなテイストが似ているので偶然同じ画像を保存していたこともありました」と振り返るご主人。意見がぶつかり合うことはほとんどなく、スムーズに決まっていったそうだ。
不便を楽しむ鎌倉暮らし
便利な都市部のマンションから、それまでゆかりのなかった鎌倉の地へ。この住まいを得て、二人の暮らしはどんなふうに変わったのだろうか。
「鎌倉は不便ですよ」と笑いながら話す奥さま。「でも、春には庭にタケノコやフキが芽吹いて、秋には紅葉がきれいで、冬には霜が下りる。そんなふうに四季を感じながら暮らせることがうれしいです」。一方ご主人はというと、都内の仕事場への通勤時間は長くなったものの、休日には遊びに来る友人と近くのハイキングコースを散策したり、海辺でのジョギングを楽しんだりと、鎌倉の自然の中での暮らしを満喫しているそうだ。
「不便が楽しいんです」——。そんな奥さまの言葉が、すべてを物語っているようでとても印象的だった。