Style of Life
好みの壁紙やパーツを持ち込んで古さと新しさを織り交ぜた
自分たちらしい住まい
斜線制限をかわしてトンガリ屋根に
結婚3年目のNさん夫妻。結婚を決めたと同時に、「住まいは注文住宅がいいね」と、土地探しをスタート。結婚式の準備と並行してマイホームの構想も始めたという。当時住んでいて気に入っていた東急東横線沿線で探し、駅からも程近い好立地な物件に出会った。設計は、g_FACTORY 建築設計事務所の渡辺ガクさんに依頼した。
「ガクさんの事務所のサイトを見て、素材を大事にした家に対する考え方や作品のテイストが気に入って連絡しました。会話をしていて、自分たちの日常生活に寄り添って考えてくれるところに惹かれ、この人にお願いしたら間違いないと確信したんです」(ご主人)。
Nさん夫妻が購入したのは、住宅密集地で斜線制限もかなり厳しい20坪弱の敷地。
「各斜線制限を意識しながら、できるだけ天井を高く、最大限にスペースを確保できるように考えました」(渡辺さん)。
斜線制限をかわすことで生まれたトンガリ屋根の可愛らしいフォルムと黒い外壁が、住宅街の中で異彩を放っている。
素材や段差でゾーニングしたワンルーム
2階は、キッチンからダイニング、リビング、テラスまでが一続きになった開放的な空間。階段も部屋になじませ、広々としたスペースを実現した。
ダイニングの床はミモザの無垢材、一段下げたリビングはエイジング加工を施したタイルを敷き、素材の変化とレベル差でゆるやかにゾーニング。テラスの床はリビングと同じタイルで延長し、テラスの壁にはスギの木を貼り、室外だがまるで室内にいるような雰囲気を演出。テラスまで部屋がつながったような視覚効果を狙った。
「家を建てるにあたり最初に決めたのが、『Miele』のオーブンを入れることでした」とは奥さま。
料理好きのお2人は、キッチンにもこだわった。キッチンカウンターは迷った末にクールなモルタル仕上げをセレクトし、『KOHLER』のホーローのシンクを設置。キッチン下の収納部分は木を使用してあたたかみをプラスし、『Miele』のオーブンと大型食洗機をビルトインした。共働きのお2人は、一緒にキッチンに立つことも多いため、動線を考え、広めのスペースを確保した。
コロナ禍でホームパーティも自粛ムードになる前は、会社の仲間や友人を呼んで料理をふるまうことがよくあったそう。念願のオーブンを使った奥さま特製のラザニアやチキン料理、ご主人のパスタは大好評だったという。
ロンドン生活の影響を受けて
数年前、ロンドンに語学留学をしていたという奥さま。家を建てるにあたって、留学先で見てきたものが影響されているという。
「古いものと新しいものがミックスされたロンドンの街や家の雰囲気が好きなんです。あちらの人は、室内を好きに装飾するのが一般的です。壁紙を替えたり、好きな色にペインティングしたり。今回、私も挑戦してみました」(奥さま)。
3階の寝室はすべて奥さまの考案。まず、大胆な花柄の壁紙が目に飛び込んでくる。「この壁紙を使いたかったんです」と、海外から取り寄せ、一面に使用。壁紙に合わせて黒に近いグレーのペンキを購入し、奥さま自ら塗った。
「あえてムラを残して塗るのが外国っぽいんです(笑)」
と、塗り方も研究。下地が所々に残っていたり、雑なムラ感を出したり、奥さまが器用にペイントした。
「インパクトのある花柄ですが、横たわると頭の上なので目に入りません。ダークな部屋で熟睡できます。朝、天窓から自然光が入り、目覚めもいいですよ」(ご主人)。
頻繁に使う空間こそ贅沢に
隣家が迫る1階は、日当たりも期待できないため、思い切って部屋を設けなかった。その分、玄関やサニタリールーム、シューズクローゼットなどのスペースをたっぷり取り、贅沢な空間に仕上げた。
「コンパクトな家で全部小さくすると息苦しくなるため、日常的に使用するところこそゆとりをもたせ、リッチな空間にしました」(渡辺さん)。
広々とした玄関ホールには、色味を抑えた花や枝物がセンス良く飾られ、ゲストを迎える。使用頻度の高いサニタリールームは、ホーロー製のバスタブを置き、タオル掛けなどのパーツは真鍮製にこだわり、好きなテイストで仕上げた。新しい中にもレトロな雰囲気が加わり、ヨーロッパ映画にも出てきそうなこの空間は、お2人のお気に入りスペースとなった。
海外のエッセンスを上手に取り入れ、ヴィンテージ感とモダンさが共存したN邸。居場所がたくさんあり、ゆったり寛げる心地よさに加え、大らかで楽しいお2人の人柄に惹かれ、コロナ禍が落ち着いた頃にはまた人が集まってくることだろう。
N邸
設計 g_FACTORY 建築設計事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 95.31㎡