Architecture

都心近くで空を感じながら暮らす三方を横一列に開けた窓から
外の景色が入ってくる

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2倍の広さで建てられる

上のお子さんが保育園に通っていたので、保育園を変えないですむ範囲で敷地を探したという毛利さん。「ジョギングがてら探す感じで、しらみつぶしに1本1本このあたりの道を見て回りました」。付近の一帯は起伏のある土地で、谷地よりは高いところのほうがいいだろうと思って探していたところ、「走っていてたまたま見つけた」のが今の敷地だという。

決め手は、丘の高い位置にあって眺めが良く、角地で、土地も真四角できれいな形をしていたこと。また、保育園や駅に近く、利便性が良かったこと。さらに、容積率が高かったことも大きなポイントだったという。

「道の向こう側の家の容積率が100%で、道路を境にこちら側が200%になっているんです。それで、100%の良好な住環境だけれども200%という好条件で家が建てられる。200%だと3階建てが可能なので、土地面積の割に床面積が多くなるんです」と語るのは、大学で建築を学んだという奥さん。以前は仕事で設計も手がけていたという。


2階のリビングダイニングのスペース。右の窓は左へそのままぐるりとキッチンの部分まで壁なしで続く。
2階のリビングダイニングのスペース。右の窓は左へそのままぐるりとキッチンの部分まで壁なしで続く。

丘の上に建つ毛利邸。東側の窓からは遠くまで見渡すことができる。
丘の上に建つ毛利邸。東側の窓からは遠くまで見渡すことができる。

横一列に三方の窓を開ける

設計は大学時代の友人である岡村さんの事務所に依頼した。この家の最大の特徴は、壁を途中にまったく設けずに2階の三方の窓を横一列に開けていることだが、このアイデアは、夫妻で岡村さんと敷地を見に訪れて話しあった際にすでに出ていたものという。

「一緒に見に来た時に3人でこういうふうにできるといいよねという話をしましたね」(岡村さん)。


東側から2階のLDを見る。
東側から2階のLDを見る。
3階から2階の吹き抜け部分を見る。
3階から2階の吹き抜け部分を見る。


窓から導き出された壁

奥さんが、模型で設計案を見たときかなり斬新だと思ったというこの開口のアイデア、角地でかつ見晴らしがいいという敷地条件から出てきたものだが、2階に限らずこの家全体のつくりに大きな影響をもたらしている。

三方を開けているため、内側で3階の荷重を支える必要があるが、そのために2階では階段脇と、リビングダイニング(LD)とキッチンの間に構造壁を立てているのだ。そしてこの壁は1階から3階までを貫いている。

主用途は構造だが、外からの視線が気になる北と西側に関しては2階では目隠しの役目も果たしてLDの部分を守っている。


3階。将来は2つに区切って子ども部屋として使う予定。ドアが2つあるのはその時のためにあらかじめつくっておいたもの。
3階。将来は2つに区切って子ども部屋として使う予定。ドアが2つあるのはその時のためにあらかじめつくっておいたもの。
2階から見る。緑の壁の左側がLDのスペース。
2階から見る。緑の壁の左側がLDのスペース。
3階から1階まで緑の壁が続く。
3階から1階まで緑の壁が続く。


緑とグレーを選ぶ

さらに、存在感のあるこの壁は、同時に部屋に落ち着きのある明るさをもたらしている。建築家設計の家には珍しく、壁にはっきりした色が採用されているのだ。

「茶と藍色っぽい色を提案いただいたんですが、他の色のサンプルも見せてもらって、階段のほうは緑がいいかなということで決めました」。キッチンとLDを隔てる壁の濃いグレーは、この緑と合う色ということで選んだという。


2階キッチンの脇からLDと階段を見る。
2階キッチンの脇からLDと階段を見る。
3階から見下ろす。緑の壁がそのまま1階まで続く。
3階から見下ろす。緑の壁がそのまま1階まで続く。


2階から見下ろす。
2階から見下ろす。
1階から見上げる。
1階から見上げる。


LDから見えないキッチン

 
キッチンはこのグレーに遮られてリビングから見えないつくりになっている。これはLDから冷蔵庫の中身までが見えるようなつくりは避けたいという毛利夫妻のリクエストとも合致したものだが、LDと空間的に連続させた対面型にして家族と話などしながら料理をしたいというリクエストが多い最近の家づくりの中では比較的珍しいプランかもしれない。

こうしたつくりにできたのは奥さんが大学で建築を学ばれていて、三方の窓を開けるというこの家のメインコンセプトをしっかり理解してもらっていたからだと岡村さんは言う。奥さんも「窓をこのようなつくりにするというのが最初にありきで、その中でキッチンがこのようにしてあるということだったので」と頷く。


玄関のタイルがそのまま1階の廊下の床まで続く。
玄関のタイルがそのまま1階の廊下の床まで続く。
外壁も玄関の中まで入り込み、中と外の境界を曖昧にしている。
外壁も玄関の中まで入り込み、中と外の境界を曖昧にしている。


外の景色が入ってくる

キッチンでの作業はこの壁があることでかえって集中できるし、窓の外を見ながら作業ができるのもいいと奥さんはいう。LDのほうでは、谷側に向かって大きく開いた東側の窓の眺めがいちばんいいが、この窓からはごく自然に飛行機や鳥が飛ぶのを目にすることができる。

「子どもがお月様が見えるとか飛行機が飛んでいるとかよく言ってくるんですが、これだけ空が見えると家の中にいてもとても開放的な感じがしますね」と奥さん。毛利さんは「わざわざ外を見ようとしなくても外の景色が目に入ってくる感じがする」という。


2階の西側にあるキッチン。外の景色を見ながら作業ができる。「わりと空間も広いので、何人かで一緒に料理をしても狭い感じにはならないからいいですね」。
2階の西側にあるキッチン。外の景色を見ながら作業ができる。「わりと空間も広いので、何人かで一緒に料理をしても狭い感じにはならないからいいですね」(奥さん)。

高い位置で窓面積が広くて開放感があると、普通のつくりよりも自然がより近く感じられるということだろう。3方の窓を開けておくと当然ながら自然の風が家の中を気持ちよく抜けていく。西のキッチン側の窓から夕日が差し込むと部屋の中も赤く染まるというが、そういうときも同様に自然の存在が感じられるのだろう。

さらにまた、壁なしで横に連続したこの窓にはまったく予想しなかったことも。毛利さんが夜帰宅するときに、窓から部屋の明かりが水平に漏れて見える。「あれはけっこうきれいだなあと思って。高さがあるので中の人間は見えず明かりだけが見えるんです」。「そうした時に家に帰ってきたなあという気持ちになるのでは?」との質問に、毛利さんは笑みを浮かべて、「そうですね」という答えを返してきた。


2階のLDから東の空を見る。
2階のLDから東の空を見る。

東と北の壁面。外装材はガルバリウム鋼板の下見板張り。ガルバリウム鋼板はメンテのしやすさを考えて奥さんが希望した。
東と北の壁面。外装材はガルバリウム鋼板の下見板張り。ガルバリウム鋼板はメンテのしやすさを考えて奥さんが希望した。
北と西の壁面。キッチンは西側の2階にある。
北と西の壁面。キッチンは西側の2階にある。


毛利邸
設計 8d一級建築士事務所/岡村航太+大桑隆志
所在地 東京都大田区
構造 木造
規模 地下1階地上3階
延床面積 141.12m2