Architecture

素材にこだわった開放的空間さりげなく
“自然志向”の家。

素材にこだわりつくった開放的空間 さりげなく、 “自然志向”の家。
コンクリート打ち放しの1階とは対照的に、2・3階の仕上げはコールテン鋼。都内・小田急線沿線の住宅地に立つ滝川邸の外観は、一度目にしたら忘れられない特徴的なものだ。

赤みを帯びたコールテン鋼の壁が傾き、4つの部分に分割されたその姿は山が連なっているようにも見える。この外観デザインはコールテン鋼が周囲に圧迫感を与えないようにするためで、道路側から奥へと向かってその4つの“山”が段々と小さくなっているのも同じ理由からだ。

コールテン鋼は、建築家が好んで使う建築素材のひとつだが、すでに建て直す前の滝川家でも表札に使われていたという。


2・3階部分のコールテン鋼が赤味を帯びているのは錆のため。雨のためいつもより濃いめの色合いに。山が連なるような外観に、滝川さんの愛車、ランドローバ― ディフェンダーがしっくりと合う。2世帯住宅で、1階に親世帯、2・3階に子世帯が住む。
2・3階部分のコールテン鋼が赤味を帯びているのは錆のため。雨のためいつもより濃いめの色合いに。山が連なるような外観に、滝川さんの愛車、ランドローバ― ディフェンダーがしっくりと合う。2世帯住宅で、1階に親世帯、2・3階に子世帯が住む。

経年で味わい増す素材

「コールテン鋼は子どもの頃からずっと身近にありました」と滝川さん。この2世帯住宅の1階部分に住まわれている彫刻家のお父様がコールテン鋼を使用した作品も制作されていて、この素材には長い間親しんできたのだ。それで、表面の錆が膜となって内部を保護するなどこの素材の性質も熟知していたという。

錆びたコールテン鋼独特の味わいが好きだという滝川さん。「素材は鉄ですが、遠くから見れば木に見えなくもない」とも。この家を設計した建築家の石井さんは、「経年変化が味わいとなっていくところが自然素材の良いところですが、そういった意味ではコールテン鋼はまさに自然素材だと言っていい」と語る。

滝川夫妻は新しい家には木と鉄を使いたいと素材にこだわったというから、この滝川邸は、自然素材を使った“自然志向の家”と言うこともできるだろう。


左のDKに面した開口と奥のベランダに面した開口、さらに上のハイサイドライトと、外光がふんだんに注ぎ込んで明るい室内。視線の抜け感が開放感ももたらしている。窓の外に見える木はシマトネリコ。
左のDKに面した開口と奥のベランダに面した開口、さらに上のハイサイドライトと、外光がふんだんに注ぎ込んで明るい室内。視線の抜け感が開放感ももたらしている。窓の外に見える木はシマトネリコ。

自然志向の空間

この“自然志向”をより鮮明に感じ取ることができるのが、外観の閉鎖的ともいえるイメージからは想像できないほど光がふんだんに注ぎ込む2・3階の室内だ。

2階に上がってすぐ右手の木の壁は、滝川さんが「真っ白い空間の中にちょっとごつごつした立体感があると面白いと思った」ところから、その手前のデッキ状の3階床と階段で使用しているレッドシダーへと施工途中で変更されたものだ。

DK部分は特に、この壁のほかに、フローリング、そして約3.8mもあるダイニングテーブルと、木が多用されて“自然志向”が強く感じられる空間になっている。


キッチンとダイニングにまたがる、長さ約3.8mのテーブルは存在感抜群。椅子はハンス・J・ウェグナーのアームチェア。
キッチンとダイニングにまたがる、長さ約3.8mのテーブルは存在感抜群。椅子はハンス・J・ウェグナーのアームチェア。
ベランダに面したリビング部分のソファでくつろぐ。夫妻ともに、グラフィックデザイン関係の仕事をされている。
ベランダに面したリビング部分のソファでくつろぐ。夫妻ともに、グラフィックデザイン関係の仕事をされている。
テーブルと木壁、シマトネリコと“自然”を感じる要素に囲まれたDK。さらに白壁には桜の枝を模した装飾も。
テーブルと木壁、シマトネリコと“自然”を感じる要素に囲まれたDK。さらに白壁には桜の枝を模した装飾も。


北欧デザインとアウトドア

白い壁・天井と木のコンビネーションが、夫妻の好きな北欧デザインのウッディながらクールな感触も与えるこのDK空間にはまた、アウトドア的な空気感も漂う。

レッドシダーの壁が、吹き抜けに面して2層分の高さがあるために外壁のようにも感じられるのに加えて、空間が明るく開放的なこともあり、室内ながら外部にいるような感触があるのだ。


DKの収納の上に置かれた、木でつくられたフィンランド製の置物。
DKの収納の上に置かれた、木でつくられたフィンランド製の置物。
夫妻の趣味の映画ソフトが収められた棚に置かれた、ユーモラスな動物たちの置物。
夫妻の趣味の映画ソフトが収められた棚に置かれた、ユーモラスな動物たちの置物。
レッドシダーの壁に合わせて仕上げが変えられた収納。一部、白い塗装仕上げとしているのがポイント。
レッドシダーの壁に合わせて仕上げが変えられた収納。一部、白い塗装仕上げとしているのがポイント。


「建築的フォルムと木がうまく融合されていて格好いい」と滝川さんお気に入りの椅子はJ・プルーヴェのアントニー。
「建築的フォルムと木がうまく融合されていて格好いい」と滝川さんお気に入りの椅子はJ・プルーヴェのアントニー。
ダイニングテーブルの上に吊るされていたのは、赤と黒の木製の飛行機。デンマーク製。
ダイニングテーブルの上に吊るされていたのは、赤と黒の木製の飛行機。デンマーク製。


「外遊びが好き」で、休日には愛車のランドローバーを走らせて、よく2泊3日のキャンプに出かけるという滝川一家。子ども部屋にはハンモックが吊るされているが、滝川邸で家に居ながら楽しめるアウトドア=外部空間は、唯一、リビングに面したベランダのみだ。滝川さんが「庭みたいなもの」と言うこのベランダには人工芝が敷かれ、その上に、当然のようにバーベキュー用の器具が置かれていた。

休みの日には、「炭に火を付けてちょろちょろと一杯飲む時間がいちばん好き」と言う滝川さん。「気がつくと肉とか焼いていて、ここに座って食べればって言うんです。それが真夏とかでもあるんですよ。暑い中、汗びっしょりになりながら…」と奥さんがすかさず補足する。

最後にうかがったこのエピソードからは、素材へのこだわりとは違う次元でもまた一貫している滝川さんの“自然志向”のようなものが感じ取られた。


奥のベランダ左側にバーベキュー用の器材が見える。3人の様子を3階デッキから見ているのは猫のリン。
奥のベランダ左側にバーベキュー用の器材が見える。3人の様子を3階デッキから見ているのは猫のリン。
2階に上がったところで、滝川さんのお父様が制作された彫刻が迎えてくれる。
2階に上がったところで、滝川さんのお父様が制作された彫刻が迎えてくれる。


滝川邸
設計 石井秀樹建築設計事務所
所在地 東京都世田谷区
構造 鉄骨造、一部RC造
規模 地上3階
延床面積 158.3m2
1階の玄関扉を開けると、子世帯へと上がる階段が現れる。
1階の玄関扉を開けると、子世帯へと上がる階段が現れる。