Architecture

空間のメリットを楽しみつくす空が見える家で
外を感じながら暮らす

空間のメリットに気づき楽しみつくす  空が見える家で 外を感じながら暮らす

空を見るのが好き

「あまり奇抜ではずれたものではないけれども、一般的な住宅とは違ったものをお願いしたかった」と話すのは清水さん。建築家の土田さんへのリクエストの中には「北欧調のインテリアが入るような家」というのがあったが、ほかには色はグレイが好きとか、木を使うのなら濃いよりも薄い色の方がいいといった具合で、空間の具体的なイメージは伝えなかったという。

同様に具体的なものではなかったが、この家をつくるのに「北欧調の…」とともに大きなポイントとなったリクエストがあった。それは「空が見られる家」というものだった。


ほぼ木だけでつくられた空間は北欧デザインのテイストに通じるが、とても柔らかい人柄という清水夫妻に合うように考えられたデザインでもあるという。フローリングは、清水さんの要望で、裸足で木の質感が楽しめるような材が選択された。
ほぼ木だけでつくられた空間は北欧デザインのテイストに通じるが、とても柔らかい人柄という清水夫妻に合うように考えられたデザインでもあるという。フローリングは、清水さんの要望で、裸足で木の質感が楽しめるような材が選択された。

ともに空を見ることが好きだという夫妻から出てきたものだが、この要望は土田さんにとってとても印象に残ったという。

「はじめてお会いした時に空を見るのが好きだと言われたのがとても印象的で、そこで、“外”をどう感じながら生活していけるかをいちばんのテーマとしていこうと思いました」(土田さん)

単に空が見られるだけでなく、外部と内部とをどう関わらせていくのかもデザインでの大きなポイントとなって、アレーと呼ばれる空間を家のセンター部分にすえての設計が詰められていった。


キッチンの上にもトップライトが設けられている。
キッチンの上にもトップライトが設けられている。
テーブルはこの家のためのオリジナル。これも夫妻の人柄に合わせてやさしい印象のデザインになっている。
テーブルはこの家のためのオリジナル。これも夫妻の人柄に合わせてやさしい印象のデザインになっている。


外部とつながる

アレーとは路地という意味だが、家型にくり抜かれた壁からこの空間に入って見上げると台形に開けられた天井から空を眺めることができる。そして、右側へと向くと大型ガラスを使った開口からリビングダイニングの木の空間をそのまま見渡すことができる。

内部に入ると、土間部分とは段差を最小限に抑えて張られたフローリングのスペースが広がる。大開口と、仕切りを設けずにそのまま段差を抑えて土間とリビングダイニングを一体化させたデザインとが外部と内部とを隔てなく結びつけている。


ダイニングからリビング側を見る。右手にあるのがキッチン。壁に開けられた開口だけでなく、リビング部分のトップライトからも光が入る。
ダイニングからリビング側を見る。右手にあるのがキッチン。壁に開けられた開口だけでなく、リビング部分のトップライトからも光が入る。

デメリットをメリットに

ほとんど外部とも言えるような開放感を感じられるこの構成には、アウトドア好きという土田さんの思いも盛り込まれている。サーフィンをはじめアウトドアのスポーツを楽しむという土田さんは、設計打ち合わせの際に夫妻に対して、外を感じながらの生活の素晴らしさについてしばしば語ったという。

だが、外に開かれているということは外から内部が見られやすいことにもつながる。また、アレーの開けられた天井からは雨がそのまま降り注いでくる。この2点に関して夫妻は、はじめ、不安をもっていたという。

しかし、プライバシーに関しては、外からの視線が内部まで通らないように配置が考えられているのでまったく問題なく、アレーの天井に関しては、一年中雨が降るわけではないし、開いていたほうがぜんぜん気持ちがいいということに生活をしてみて気づいたという。


リビング部分の天井に開けられたトップライト。
リビング部分の天井に開けられたトップライト。
 
アレー側の壁面。床は土間になっている。
アレー側の壁面。床は土間になっている。
敷地のいちばん奥につくられた壁面。開口から裏の斜面の緑が見える。
敷地のいちばん奥につくられた壁面。開口から裏の斜面の緑が見える。
右がキッチン、左奥に寝室がある。突き当りを右に折れるとダイニングの空間。
右がキッチン、左奥に寝室がある。突き当りを右に折れるとダイニングの空間。


アレーの奥から建物正面側を見る。右手には物置とピアノ室が設けられている。
アレーの奥から建物正面側を見る。右手には物置とピアノ室が設けられている。

「屋根があった方がいいよって周りのみんなに言われたんですが、ある夜、外で作業をしていたら風が吹いてきたことがあって、“ああ、なんて気持ちいいんだ”ってその時に思ったんですね」(清水さん)

設計時に土田さんから説明を受けたこの空間のメリットがいまひとつピンと来ていなかったが、そうした体験を通して「あ、これを言いたかったのか」と気づき、それ以来、この家に対する見方が大きく変わったという。 

つまり、この家のメリットを楽しみつくそう、そんな方向へと生活も変わっていったのだ。たとえば、リビングにあるトップライトを開けると風が抜けていくが、奥さんはこの下で縁側にいるような感じでゴロンと寝ころがるのが好きという。


外部でもあり内部でもあるようなこの空間に入る際に、家に入るという気持ちになってもらうために家型デザインにした。
外部でもあり内部でもあるようなこの空間に入る際に、家に入るという気持ちになってもらうために家型デザインにした。
今年の夏はここにビニールプールを広げて子どもたちが遊んだという。
今年の夏はここにビニールプールを広げて子どもたちが遊んだという。


この空間の素晴らしさをやっと知り始めた段階なので、もっともっとその良さを発見できるのではないかとも感じているという。

「まだまだ伸びしろがあるというか、プラスにドンドンなりそうだなという感じはすごくしています」(奥さん)。どんな良さ、魅力を2人が引き出していくのか――これからがまた楽しみな家である。


庭から家型にくりぬかれた入口を通してリビングダイニングを見る。
庭から家型にくりぬかれた入口を通してリビングダイニングを見る。
 清水邸

清水邸
設計  no.555一級建築士事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上1階
延床面積 106m2