Green
丘のある家住宅地の真ん中で
自然へと開かれた暮らし
「子供が遊べる庭がほしい」ということから、添田さんは自身で簡単な図面まで描いて建築家に見てもらったという。添田さんの案では家はL字形で庭はフラットだったが、建築家の岸本さんが考えた実現案は家がコの字形でその間にできる中庭に土を盛るというものだった。
開きながら視線はカット
子供は平らなところよりも、山や公園の築山などをかけめぐりながら遊ぶほうを好む。この丘には、そんな建築家の考えも反映しているが、その向こう側にある公園からの視線を遮る役割もあって、その高さは開放的なつくりながら室内が丸見えにならないようなギリギリの線で決められているという。
添田さんは敷地を塀でぜんぶ囲ってほしいとリクエストをしたが、ぜんぶ囲ってしまうと誰がどんなふうな生活をしているかがわからずどこか不自然な印象の建物になってしまう。そんな建築家の意見もあり結局塀では囲わないことに。
「丸見えになってしまうのではという心配もありましたけれど、実際住んでみたらそんなことはまったくないですね。やはりこのように公園のほうに向けての抜け感があったほうが絶対いい。そういう計算もあってこの丘は出来たんだろうと思います」
コストセーブにも貢献
さらに、この「丘」にはもうひとつコストセーブというポイントも大きくかかわっていたという。建物の基礎をつくる際に出る土の処理には通常費用が発生するが、丘をその土を使ってつくることでこのコストをゼロにしたのだ。
つまりこの丘は、子供たちの遊び場、視線の抜けおよびプライシーの確保、さらにコストセーブといった要件のすべてが同時にバランスよく収まるようなかたちで考えられた結果、生まれたものなのだ。
グラデーショナルにつながる空間
「丘」はこの家のもうひとつの大きな特徴となっている「段差」と密接にからんでいる。家に段差がほしいというのは添田さんから元々出ていた要望でもあったが、丘という地形的なものをきっかけにこれに応じるように自然な形でさまざまなレベル(段差)をつくることが可能になったのである。
グラデーショナルに空間がつながっていく、そんなこの家のつくりには「1階と2階、というようにはっきりわけられるのではなく、中間の高さというか、あいまいな空間がほしかった」という添田さんのまた違った要望にも応えるものになった。
無数のシーンを楽しむ
この段差を取り入れたつくりによって、1階の目線と2階の目線とが大きくわかれることなく、1階とちょっと上がったところの目線、そしてまたちょっと上がったところの目線というふうに無数とも言える目線のバリエーションも生まれた。
この段差は床にとどまらずに家具のほうにも波及していて、ダイニングやリビングの椅子やテーブルもこの地形的な段差のシステムにうまく組み込まれている。そのことによって、たとえば椅子として座っていたものが、人が向きを変えただけでテーブルになるというように、いる位置によってモノの意味が変わってくるようなことも起こっている。
最後に奥さんのこんな言葉を聞いて、丘をつくり、またその丘へと家を気持ちよく開いたことが、この家の生活を自然に向けて開き、自然を近くに感じられるものへと変えたのだと思えた。
設計 岸本和彦/acaa建築研究所
所在地 神奈川県小田原市
構造 木造
規模 地上1階
延床面積 143.26m2