Family

昭和レトロの趣不便を楽しみながらの、
懐かしくも新鮮な暮らし。

陽一さんが装丁を手がけた近刊。
mots  http://www.motsite.com/

武蔵野の自然に囲まれて

井の頭線の最寄り駅から、歩いて10分ほどの閑静な住宅地。すぐ近くには玉川上水の遊歩道があり、23区に隣接するエリアながらのどかな風景が広がる。その一画に建つレトロな雰囲気の2階建てが、
グラフィックデザイナーの坂本陽一さん・舞台制作の仕事に携わる彩子さん夫妻が愛娘の野恵ちゃんと暮らす住まいだ。

「この家に引っ越してきたのは4年ほど前。それまでは、井の頭公園の近くのアパートに夫婦二人で暮らしていました」と話す陽一さん。「僕が独立して自宅で仕事をするようになって、できれば2階建ての家に住んで、生活の場と仕事場を上下に分けたいなと思ったんです」。

それまで住んで気に入っていた井の頭公園の近くを中心に探し、見つかったのが「たぶん築50年は経っていますね。正確にはわからないんですが(笑)」という古い建物。「でも、見に来たら日当たりが良くて。狭いながらもお庭もある。何より、懐かしい雰囲気の佇まいが気に入りました」(彩子さん)。


大きなダイニングテーブルは、かつて陽一さんが仕事場で作業台として使っていたもので、脚に天板を載せただけのシンプルなつくり。家具は古道具屋さんで買ったものや、友人から譲り受けたものなどが多い。
大きなダイニングテーブルは、かつて陽一さんが仕事場で作業台として使っていたもので、脚に天板を載せただけのシンプルなつくり。家具は古道具屋さんで買ったものや、友人から譲り受けたものなどが多い。
東側に開口部がたくさん設けられており、日中は光がたっぷりと入る。季節によって光の入り方も違うため、そうした変化に気づくことが、陽一さんのデザインワークにも反映されていったとのこと。
東側に開口部がたくさん設けられており、日中は光がたっぷりと入る。季節によって光の入り方も違うため、そうした変化に気づくことが、陽一さんのデザインワークにも反映されていったとのこと。
夫妻の蔵書が並ぶ本棚には伝統こけしや赤べこが。
夫妻の蔵書が並ぶ本棚には伝統こけしや赤べこが。
仕事がきっかけで、こけし好きになったという陽一さん。コレクションの一部がディスプレイされている。
仕事がきっかけで、こけし好きになったという陽一さん。コレクションの一部がディスプレイされている。
ダイニングとリビングには、陽一さんがデザインしたポスターが貼られている。
ダイニングとリビングには、陽一さんがデザインしたポスターが貼られている。

変幻自在の空間

もともと、古いものが好きだという坂本さん夫妻。「今の世の中は便利なモノであふれてますが〝不便の便〟というんでしょうか、多少不便だからこそ感じられるものがあるように思います」と彩子さん。「この家に暮らすようになってから、寒かったら床に絨毯を敷いてみるなど、日々の暮らしをいかに快適に過ごすかを考えるようになりました(笑)。自分たちの感覚を鈍らせない、そんな環境ですね」(陽一さん)。

また、昔ながらの間取りの柔軟性にも改めて気づいたという。「1階は2部屋+キッチンという間取りですが、襖や引戸を外せば、ひとつながりの空間に。子どもが生まれてからは成長に合わせて模様替えしているのですが、変幻自在な空間が思いのほか便利ですね」。


小さなスペースながら、窓のあるキッチン。料理好きな彩子さんが使いやすいように工夫している。
小さなスペースながら、窓のあるキッチン。料理好きな彩子さんが使いやすいように工夫している。
調理器具を置くテーブルは、小学校で使われていたもの。天板下の引き出しのないモノ入れスペースが意外に使いやすいそう。
調理器具を置くテーブルは、小学校で使われていたもの。天板下の引き出しのないモノ入れスペースが意外に使いやすいそう。
鴨居に吊るして乾燥させているトウガラシもインテリアの一部に。
鴨居に吊るして乾燥させているトウガラシもインテリアの一部に。

畑をつくり、野菜を育てる

さらに、四季を身近に感じられるのも戸建の魅力だそう。子どもが生まれるまでは、庭に家庭菜園のスペースをつくって畑仕事をしていたそうで、「土に触れるのは新鮮な体験でした。種まきや収穫などをすると、季節を感じざるをえないんです」と夫妻は声を揃える。

また、アパートと比べて戸建は東西南北の方位をしっかりと感じることができるため「例えば冬は、北側に寒いところには野菜を保存するのに便利ですよ(笑)」と彩子さん。


北側に位置する階段は、ネギや根菜などをストックするスペースとして活用している。
北側に位置する階段は、ネギや根菜などをストックするスペースとして活用している。
レトロなデザインのガラスが印象的な玄関。靴箱の上には楽しげな小物が並ぶ。
レトロなデザインのガラスが印象的な玄関。靴箱の上には楽しげな小物が並ぶ。
2階へと続く階段。ランプは彩子さんが古道具屋さんで買ったもの。
2階へと続く階段。ランプは彩子さんが古道具屋さんで買ったもの。

地に足のついた暮らし

当初は陽一さんの仕事場を2階に設けるつもりで引っ越したものの、今は2軒隣の戸建住宅を事務所用に借りているとのこと。「大家さんが同じで、家のつくりも似ているんです。1階を仕事場、2階を倉庫にしています」。

この家に暮らし、野恵ちゃんを授かったことで、夫妻の生活にも変化がもたらされた。「日々の暮らしを営む上でも、また子どもを育てる環境としても、地に足をつけて暮らす良さを実感しました。これからも、自然や季節を感じられる暮らしを続けていければと思います」。


デザイン事務所motsを主宰する陽一さんの仕事場。
デザイン事務所motsを主宰する陽一さんの仕事場。
仕事場の本棚にも、鳴子や土湯など産地を訪れて集めたこけしコレクションが。
仕事場の本棚にも、鳴子や土湯など産地を訪れて集めたこけしコレクションが。
階段下を活かした押し入れ。襖を取り払って収納スペースにしている。
階段下を活かした押し入れ。襖を取り払って収納スペースにしている。


陽一さんが装丁を手がけた近刊。
陽一さんが装丁を手がけた近刊。mots  http://www.motsite.com/