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自然を直に楽しめる家台風、豪雨…どんな日だって、
ワクワク楽しくて仕方がない
こう語るのは建築家の保坂猛さん。妻のめぐみさんと2人で暮らす家は3×10mの狭小敷地に立つ。2階にあるリビングは、屋外に設けられた階段側の2面がフルハイトのガラス張りでその半分以上を開放することができる。全開放すれば、まさしく「外みたいな家」になるのだ。
以来、ずっと持ってきた「住宅というのは外が感じられないと駄目なのではないか」という思いのもとに自邸を設計した保坂さんだが、実は自分たちの家を建てようとはまったく考えていなかった。だが、休日の散歩の途中の不動産屋さんでたまたま安価な土地情報を見かけ、現地を見てみたら気に入り急遽購入することになったのだという。
対角線上の曲線
「うちの妻は、“あまりにも狭いから厳しい”と頭を抱えていましたけど、僕は問題ないと。で、すぐ買おうということになって、その場で家のプランを考えました」
土地を見てから3時間くらいでつくったというプランは、長方形の敷地の対角方向に曲線を引いたものだった。
「敷地の端を庭にすると向こうが外でこちらが屋内とはっきり分かれた感じになってしまいますが、敷地に対して対角線上に曲線を描くと、敷地を囲んでいる壁と屋根との間から光だけでなく雨風も入ってくるので家全体に外を取り込むことができるんです」
「どの部屋にも窓があって、開けると田んぼでした。空もよく見えるし緑もたくさんある。牛がいるしカエルの鳴き声も聞こえたりと、自然の要素がいっぱいだったんです」
しかし、都会の住宅地で窓を開けても隣家は見えるが空も緑も見えないため、都会で自然に接するためには、この家で採用したような都会ならではの建築構成上の工夫が必要になるというわけだ。
逆転の発想でつくった階段
そしてさらに、狭小敷地に立つ住宅ならではの工夫も。それはこの規模の住宅ではありえないぐらいの大きさでつくられた階段だ。
「ふつうこれだけ狭い住宅だと階段はできるだけ小さくつくる。コンパクトにしてできるだけ床面積を大きく取ろうとしますが、逆にそうすると“小さな住宅”感がどんどん出てきてしまう。でも、このくらいの大きな階段にすると、スケール感が狂って家の大きさが分からなくなるという効果があるんです」
家のドアを開けて正面に見える階段は1階からはその先端が見えないくらいのカーブを描いて2階へと至る。段の幅も広く700mm、踏面はふつうは450mmと通常の2倍くらい取っているという。長くて幅広の階段をゆったりと上がるという体験は狭小住宅ではできないものだ。
この家ならではの特別な体験
この階段を昇り降りする際には壁と屋根の間から空を直接眺めることができるが、普通の住宅では体験できないことはこの他にも。たとえば雨の降り始めというのは普通はなかなか気が付かないものだが、この家ではその瞬間がよくわかるという。「降り始めのパラッパラッ、パラパラパラパラという音がすごくきれいなんです」とめぐみさん。
ゲリラ豪雨のような激しい雨の時には家中すごい音が響き渡るが、これが意外と楽しいという。「これ以上降ったらどうなるんだろうかとワクワクしますね」と保坂さん。
めぐみさんは台風が来るといつも家に早く帰りたくなるという。「ひどい雨風を家の中で体験できるってまずないじゃないですか。リビングの方に向かって風が吹いていなければこ全開にしてもご飯を食べられるし話もできる。これがとても面白いんです」
保坂さんは、寝るときには、星空の下、階段を下りて寝室に向かうが、星を見ながら下りていくというのはあきることがないという。「暗い廊下でも、電気のついた廊下でもなく、星空の下の階段を下りて寝に行くので毎日新鮮です」
そしてまた、“明日も頑張ろう”という活力が湧いてくるという。「月が美しいとか星が美しいとか、ちょっとした感動ですけど、自然がくれる感動って大いなるものだからこれがけっこう活力になるんです」
設計 保坂猛建築都市設計事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 38m2