自然を直に楽しめる家台風、豪雨…どんな日だって、ワクワク楽しくて仕方がない

自然を直に楽しめる家台風、豪雨…どんな日だって、
ワクワク楽しくて仕方がない

「家を建てるのであれば外みたいな家に住みたいってずっと昔から思っていたんです」

こう語るのは建築家の保坂猛さん。妻のめぐみさんと2人で暮らす家は3×10mの狭小敷地に立つ。2階にあるリビングは、屋外に設けられた階段側の2面がフルハイトのガラス張りでその半分以上を開放することができる。全開放すれば、まさしく「外みたいな家」になるのだ。


2階リビング。その奥にキッチン。壁に落ちる影が1日の中で様々に変化しその多彩な表情で楽しませてくれる。

2階リビング。その奥にキッチン。壁に落ちる影が1日の中で様々に変化しその多彩な表情で楽しませてくれる。

保坂邸のシンボルツリーはシマトネリコ。

保坂邸のシンボルツリーはシマトネリコ。

リビングにひとり佇むのはウサギの保坂アスプルンドくん。

リビングにひとり佇むのはウサギの保坂アスプルンドくん。


保坂さんがそんな家に住みたいと思ったのは大学2年の時という。ワンルームマンションで1人暮らしをしたことがきっかけだった。「家の中に入ると外から遮断された感じがして、次の日の朝、ドアを開けると、“あ、やっと外に出られた”みたいな体験がすごく強烈だったんですね」

以来、ずっと持ってきた「住宅というのは外が感じられないと駄目なのではないか」という思いのもとに自邸を設計した保坂さんだが、実は自分たちの家を建てようとはまったく考えていなかった。だが、休日の散歩の途中の不動産屋さんでたまたま安価な土地情報を見かけ、現地を見てみたら気に入り急遽購入することになったのだという。


リビング奥にあるキッチン。コンパクトなスペースに料理好きのめぐみさんこだわりの香辛料などが上手に収められている。

リビング奥にあるキッチン。コンパクトなスペースに料理好きのめぐみさんこだわりの香辛料などが上手に収められている。

 2階の屋外部分に置かれたチェストの上には、ロウソクとイギリスなど海外で購入したキャンドルホルダーがズラリ。貝殻はアイルランドの海で拾ったもの。

2階の屋外部分に置かれたチェストの上には、ロウソクとイギリスなど海外で購入したキャンドルホルダーがズラリ。貝殻はアイルランドの海で拾ったもの。


対角線上の曲線

「うちの妻は、“あまりにも狭いから厳しい”と頭を抱えていましたけど、僕は問題ないと。で、すぐ買おうということになって、その場で家のプランを考えました」

土地を見てから3時間くらいでつくったというプランは、長方形の敷地の対角方向に曲線を引いたものだった。

「敷地の端を庭にすると向こうが外でこちらが屋内とはっきり分かれた感じになってしまいますが、敷地に対して対角線上に曲線を描くと、敷地を囲んでいる壁と屋根との間から光だけでなく雨風も入ってくるので家全体に外を取り込むことができるんです」


壁と屋根で空をさまざまにフレーミングして、移動するごとに異なる風景を提供する。

壁と屋根で空をさまざまにフレーミングして、移動するごとに異なる風景を提供する。

自然を直に楽しめる家
自然を直に楽しめる家


このような家にしたのには大学時の体験のほかに山梨で過ごした少年時代の記憶も大きく作用しているようだ。

「どの部屋にも窓があって、開けると田んぼでした。空もよく見えるし緑もたくさんある。牛がいるしカエルの鳴き声も聞こえたりと、自然の要素がいっぱいだったんです」
 
しかし、都会の住宅地で窓を開けても隣家は見えるが空も緑も見えないため、都会で自然に接するためには、この家で採用したような都会ならではの建築構成上の工夫が必要になるというわけだ。


リビングと玄関を見る。 

リビングと玄関を見る。
 

2階から階段を見下ろす。カーブを描いているのがよく分かる。

2階から階段を見下ろす。カーブを描いているのがよく分かる。

階段の先端部分。手前の部分あたりから急なカーブを描いて2階に至る。

階段の先端部分。手前の部分あたりから急なカーブを描いて2階に至る。

ドアを開けて正面に見える階段は途中からカーブを描きその先端が見えない。

ドアを開けて正面に見える階段は途中からカーブを描きその先端が見えない。


逆転の発想でつくった階段

そしてさらに、狭小敷地に立つ住宅ならではの工夫も。それはこの規模の住宅ではありえないぐらいの大きさでつくられた階段だ。

「ふつうこれだけ狭い住宅だと階段はできるだけ小さくつくる。コンパクトにしてできるだけ床面積を大きく取ろうとしますが、逆にそうすると“小さな住宅”感がどんどん出てきてしまう。でも、このくらいの大きな階段にすると、スケール感が狂って家の大きさが分からなくなるという効果があるんです」

家のドアを開けて正面に見える階段は1階からはその先端が見えないくらいのカーブを描いて2階へと至る。段の幅も広く700mm、踏面はふつうは450mmと通常の2倍くらい取っているという。長くて幅広の階段をゆったりと上がるという体験は狭小住宅ではできないものだ。


リビングの照明は通常はこのロウソクのみ。本を読むときなどはこの部分に裸電球を吊るして灯す。

リビングの照明は通常はこのロウソクのみ。本を読むときなどはこの部分に裸電球を吊るして灯す。

1階の寝室から浴室方向を見る。

1階の寝室から浴室方向を見る。
 

シマトネリコに吊るされているのはデンマークで買って来たキャンドルホルダー。

シマトネリコに吊るされているのはデンマークで買って来たキャンドルホルダー。

1階入りすぐのスペース。収納箱の上には聖ルカを描いた絵などが飾られている。

1階入りすぐのスペース。収納箱の上には聖ルカを描いた絵などが飾られている。

1階奥にある浴室は中庭に面し大きな開口を開けることができる。

1階奥にある浴室は中庭に面し大きな開口を開けることができる。


この家ならではの特別な体験

この階段を昇り降りする際には壁と屋根の間から空を直接眺めることができるが、普通の住宅では体験できないことはこの他にも。たとえば雨の降り始めというのは普通はなかなか気が付かないものだが、この家ではその瞬間がよくわかるという。「降り始めのパラッパラッ、パラパラパラパラという音がすごくきれいなんです」とめぐみさん。

ゲリラ豪雨のような激しい雨の時には家中すごい音が響き渡るが、これが意外と楽しいという。「これ以上降ったらどうなるんだろうかとワクワクしますね」と保坂さん。

めぐみさんは台風が来るといつも家に早く帰りたくなるという。「ひどい雨風を家の中で体験できるってまずないじゃないですか。リビングの方に向かって風が吹いていなければこ全開にしてもご飯を食べられるし話もできる。これがとても面白いんです」


照明がないため、夜、1階の寝室に寝に降りるときは月明かりなどが頼り。

照明がないため、夜、1階の寝室に寝に降りるときは月明かりなどが頼り。

保坂さんは、夜見上げた時の星や月の美しさが活力を与えてくれるという。

保坂さんは、夜見上げた時の星や月の美しさが活力を与えてくれるという。


こう言うお2人は、しかし、雨が降らず台風が来なくてもこの家での生活を十分に満喫しているようだ。「ここに引っ越してきてから退屈したことがないし、とにかく楽しくて仕方がない。人の生活って建築でこんなに豊かになるんだって、すごく教えてもらいましたね」とめぐみさん。

保坂さんは、寝るときには、星空の下、階段を下りて寝室に向かうが、星を見ながら下りていくというのはあきることがないという。「暗い廊下でも、電気のついた廊下でもなく、星空の下の階段を下りて寝に行くので毎日新鮮です」

そしてまた、“明日も頑張ろう”という活力が湧いてくるという。「月が美しいとか星が美しいとか、ちょっとした感動ですけど、自然がくれる感動って大いなるものだからこれがけっこう活力になるんです」


3×10mの敷地に立つ保坂邸。

3×10mの敷地に立つ保坂邸。

アスプルンドくんを優しく見守る保坂夫妻。

アスプルンドくんを優しく見守る保坂夫妻。


保坂邸
設計  保坂猛建築都市設計事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 38 m2