建築家の自邸温もりあふれる木の家に創意工夫を散りばめて

建築家の自邸温もりあふれる木の家に
創意工夫を散りばめて

建築家の自邸づくり

埼玉県行田市埼玉(さきたま)。田畑が広がりどこかのんびりとした時間が流れるこの地に、建築家の金子正明さんの自邸はある。

「キナリのシャツのような、かざらないしっくりとなじむここちよさ」をモットーに、素朴でかざらない家づくりを行う正明さん。

そんな建築家の自分の家族のための家が完成したのは、今年の3月のことだった。
正明さんはこの家を「さきたまの家」と名づけた。さきたまの家に住むのは、正明さん・有子さん夫妻と、8歳の颯夏(さな)ちゃん、5歳の和平(わへい)君、そして正明さんのご両親の6人だ。敷地内には、正明さんの仕事場であるアトリエ、お父さまが丹精込めて手入れした庭、家庭菜園もあり、広々とした開放感がある。


さきたまの家外観。外壁の黒と庭の緑のコントラストが目を引く。左に建つのは、10年前に建てた「かねこ建築製作所」のアトリエ。

さきたまの家外観。外壁の黒と庭の緑のコントラストが目を引く。左に建つのは、10年前に建てた「かねこ建築製作所」のアトリエ。

庭の樹木はすべて、正明さんのお父さまが種から育てたそう。

庭の樹木はすべて、正明さんのお父さまが種から育てたそう。

内側から棒で押して開ける「突き出し窓」が、外観のよいアクセントに。

内側から棒で押して開ける「突き出し窓」が、外観のよいアクセントに。
 

庭に置いたプールでは、8歳の颯夏(さな)ちゃんと4歳の和平(わへい)君の姉弟が仲良く遊んでいた。

庭に置いたプールでは、8歳の颯夏(さな)ちゃんと4歳の和平(わへい)君の姉弟が仲良く遊んでいた。

「南京下見板張り」という、下の板に上の板を少しずつ重ねて張る手法で仕上げた外壁。真鍮の釘を用い、細部のディティールにもこだわった。

「南京下見板張り」という、下の板に上の板を少しずつ重ねて張る手法で仕上げた外壁。真鍮の釘を用い、細部のディティールにもこだわった。

2階の子ども部屋には、梁を活用したブランコが。正明さんからの「こどもの日」の素敵なプレゼント。

2階の子ども部屋には、梁を活用したブランコが。正明さんからの「こどもの日」の素敵なプレゼント。


新たな試みを楽しむ

この地で生まれ育った正明さんは、都内の設計事務所で経験を積んだのち、10年ほど前に、慣れ親しんだ郷里で「かねこ建築製作所」を始めた。「時が経つにつれて風合いがにじみ出て愛着が湧く家を、丁寧につくっていきたかったんです」と話す正明さん。これまで、地域や住まい手の暮らしに沿った家を多数手がけてきた。

自邸を建てようと決めた経緯を正明さんは「これまでは家族4人でアパート住まいでした。ですが、子どもたちが大きくなって手狭になってきたこともあり、僕の実家でもある両親の家を建て替えて、二世帯がつながって暮らせる家をつくりたいと考えたんです」と話す。

そして完成した家には、ところどころに、建築家としての新たな試みが散りばめられた。「“土間ラウンジ”と名づけた広い土間空間、そこからつながる折り返し階段、砂しっくいの内壁、薪ストーブ、南京下見板張りの外壁など、やってみたかったことをたくさん実現しました」と、正明さんは楽しそうに振り返る。


玄関から外を見る。ガラス張りの引き戸を通して、外とのつながりが感じられる

玄関から外を見る。ガラス張りの引き戸を通して、外とのつながりが感じられる

広々とした土間ラウンジ。正明さんのご両親が「ご近所さんがおしゃべりしていけるスペースが欲しい」と、希望されたそう。これからテーブルや椅子を置く予定。

広々とした土間ラウンジ。正明さんのご両親が「ご近所さんがおしゃべりしていけるスペースが欲しい」と、希望されたそう。これからテーブルや椅子を置く予定。

赤松を用いた折り返し階段。階段下はたっぷりの収納になっている。「この家の中で一番頭を悩ませたところですが、とても気に入っています」(正明さん)。

赤松を用いた折り返し階段。階段下はたっぷりの収納になっている。「この家の中で一番頭を悩ませたところですが、とても気に入っています」(正明さん)。


奥に見えるのが、親世帯スペースの入口。土間をはさんで左右で二世帯の生活スペースが分かれている。

奥に見えるのが、親世帯スペースの入口。土間をはさんで左右で二世帯の生活スペースが分かれている。

階段上から土間を見下ろす。こちらは子世帯スペースの入口。颯夏ちゃんと和平くんは、しょっちゅう二世帯の間を行ったり来たりしているそう。

階段上から土間を見下ろす。こちらは子世帯スペースの入口。颯夏ちゃんと和平くんは、しょっちゅう二世帯の間を行ったり来たりしているそう。


リビングにはSCANの薪ストーブを設置。「薪ストーブを使うのは初めてですが、どれくらい暖かくなるか楽しみですね」と正明さん。

リビングにはSCANの薪ストーブを設置。「薪ストーブを使うのは初めてですが、どれくらい暖かくなるか楽しみですね」と正明さん。

階段を上がった先には、大容量の家族の本棚。

階段を上がった先には、大容量の家族の本棚。


ダイニングの夫妻の視線の先には、庭の緑と元気に遊ぶ子どもたち。テーブルの上の水差しはオーストリア製で、有子さんのお気に入りだそう。

ダイニングの夫妻の視線の先には、庭の緑と元気に遊ぶ子どもたち。テーブルの上の水差しはオーストリア製で、有子さんのお気に入りだそう。

家族の寝室となっているのは、2階の和室。9畳のタタミをレンガのようにずらして敷いた。

家族の寝室となっているのは、2階の和室。9畳のタタミをレンガのようにずらして敷いた。

1階に設けた3畳の和室。天井高は低く抑え、茶室風のつくり。照明の高さを変えると雰囲気がガラリと変わるのが面白い。「ここで友人とお酒を飲むのが最高なんです」(正明さん)。

1階に設けた3畳の和室。天井高は低く抑え、茶室風のつくり。照明の高さを変えると雰囲気がガラリと変わるのが面白い。「ここで友人とお酒を飲むのが最高なんです」(正明さん)。

和室にはダイニング側からのぞく窓と、土間につながる小さな開口部がついている。「ダイニングにいても帰って来た家族の気配を感じたくて、このようにしてもらいました」(有子さん)。

和室にはダイニング側からのぞく窓と、土間につながる小さな開口部がついている。「ダイニングにいても帰って来た家族の気配を感じたくて、このようにしてもらいました」(有子さん)。


自然の温もりを取り入れて

正明さんは建築家として、できるだけ自然に還る素材を用いることや、温もりのあるディティールを大切にしており、この家でもそれはふんだんに発揮されている。無垢材の床や砂しっくいの壁、建具屋さんや大工さんが手がけた木の温もりたっぷりのキッチンなどは、自然の中に建つこの家にぴったりだ。

正明さんがつくりあげた居心地・さわり心地・住み心地のよさが、家族6人をやさしく包み込んでいる。


木の温もりあふれるダイニングスペース。

木の温もりあふれるダイニングスペース。

料理好きの有子さんの要望で、広々とつくったキッチン。キッチンカウンターや収納は、大工さんと建具屋さんの力作。

料理好きの有子さんの要望で、広々とつくったキッチン。キッチンカウンターや収納は、大工さんと建具屋さんの力作。

キッチンに並んだ愛用のお櫃やわっぱ。有子さんが得意なのは、野菜をふんだんに使ったからだを内側から元気にしてくれる料理。

キッチンに並んだ愛用のお櫃やわっぱ。有子さんが得意なのは、野菜をふんだんに使ったからだを内側から元気にしてくれる料理。

キッチンの奥に設けた有子さんの作業スペース。「家族が出かけたあと、ここで縫い物をする時間が好きです」(有子さん)。

キッチンの奥に設けた有子さんの作業スペース。「家族が出かけたあと、ここで縫い物をする時間が好きです」(有子さん)。


作業スペースで存在感を放つシンガーの足踏みミシンは、有子さんが伯母さんから受け継いだのだそう。「電動にはないゆっくりと進む感じが好き」(有子さん)。

作業スペースで存在感を放つシンガーの足踏みミシンは、有子さんが伯母さんから受け継いだのだそう。「電動にはないゆっくりと進む感じが好き」(有子さん)。

さきたまの家には、階段の他にもう一つ2階に登る手段が。正明さんの遊び心が詰まった「はしご」を、有子さんの作業スペース脇に設置した。

さきたまの家には、階段の他にもう一つ2階に登る手段が。正明さんの遊び心が詰まった「はしご」を、有子さんの作業スペース脇に設置した。


まずはわが家を見てほしい

どこを見ても、画一的な味気なさは一切感じないさきたまの家。それは、正明さんが細部にまで温もりや遊び心を散りばめているからだろう。照明、スイッチ、扉の取手、蛇口など、目に入るもの手が触れるものすべてに、愛情が感じられるのだ。

家が完成して約半年。有子さんは「もともとわんぱくで元気な子どもたちでしたが、この家に住んでからはさらにのびのびと遊んでいます」と教えてくれた。颯夏ちゃんと和平くんは、おじいちゃんおばあちゃんによく色々な相談をしているそうで「二世帯で一緒に住んでいるから、豊かな感情を持った子に育っているのではないかな」と正明さんも微笑む。

「家づくりの相談にみえた方には、まずは我が家を見ていただきたいですね」と話す正明さん。この家は、正明さんの家づくりへのこだわりを詰めこんだモデルとして、この先何十年も、心地よい暮らし方を提案し続けるのだろう。


古道具店で見つけたというドイツのマリンランプ。空間に少し海洋ロマンの香りを。

古道具店で見つけたというドイツのマリンランプ。空間に少し海洋ロマンの香りを。
 

通風のために設けた室内の突き出し窓と、砂しっくいで仕上げた壁。「砂しっくいは本来は中塗りに使う材。表面に凹凸があるので、光がきらきらと反射するのがきれいなんです」(正明さん)。

通風のために設けた室内の突き出し窓と、砂しっくいで仕上げた壁。「砂しっくいは本来は中塗りに使う材。表面に凹凸があるので、光がきらきらと反射するのがきれいなんです」(正明さん)。

電気のスイッチもアンティーク。正明さんはアンティークのスイッチや取っ手などを常にストックしていて、施主の希望に応じて色々と提案してくれる。

電気のスイッチもアンティーク。正明さんはアンティークのスイッチや取っ手などを常にストックしていて、施主の希望に応じて色々と提案してくれる。

さわり心地を大切にする正明さんは、扉の取っ手にもこだわる。さきたまの家のすべての取っ手は、大工さん、建具屋さんと細部まで相談して仕上げた木工作品だ。

さわり心地を大切にする正明さんは、扉の取っ手にもこだわる。さきたまの家のすべての取っ手は、大工さん、建具屋さんと細部まで相談して仕上げた木工作品だ。


洗面スペースの蛇口は真鍮製。「時が経つにつれ味わいが増します」(正明さん)。

洗面スペースの蛇口は真鍮製。「時が経つにつれ味わいが増します」(正明さん)。

めずらしいガラスのタオルかけ。古い家を解体した時に出たものだそう。

めずらしいガラスのタオルかけ。古い家を解体した時に出たものだそう。


木製のカーテンレールのエンドキャップ。正明さんがデザイン、「工房双葉」(埼玉県比企郡川島町)が製作を担当。

木製のカーテンレールのエンドキャップ。正明さんがデザイン、「工房双葉」(埼玉県比企郡川島町)が製作を担当。

正明さんと「工房双葉」のコラボ作品。カーテンレールエンドキャップとコーヒーメジャー。これらの木工作品は2017年から販売開始予定(問い合わせは「かねこ建築製作所」まで)。

正明さんと「工房双葉」のコラボ作品。カーテンレールエンドキャップとコーヒーメジャー。これらの木工作品は2017年から販売開始予定(問い合わせは「かねこ建築製作所」まで)。


家づくりのアイデアが生まれる「かねこ建築製作所」のアトリエ。アトリエの設計も正明さんが手がけた。屋根には芝棟がのっている。

家づくりのアイデアが生まれる「かねこ建築製作所」のアトリエ。アトリエの設計も正明さんが手がけた。屋根には芝棟がのっている。

かねこ建築製作所
http://www.shibamune.net/

工房双葉
http://1st.geocities.jp/craftfutaba/

さきたまの家
設計 かねこ建築製作所
所在地 埼玉県行田市埼玉
構造規模 木造2階建
敷地面積 600.15㎡
建築面積 190.00㎡
延床面積 256.44㎡