Style of Life

シェアオフィスも併設人とつながる、
都心の“実験住宅”

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都心でつくるつながり

吉田州一郎さんとあいさんのお2人はともに建築家。息子さんと3人で住む家の地下部分にシェアオフィスをつくった。玄関は共有で、1階がミーティングスペース。2階より上が家族のためのスペースという構成だ。

シェアオフィスを併設しようと思ったきっかけのひとつは、以前借りていたマンションでの経験だった。そのマンションにはオーナー自身も住んでいて、生活の場面で何度か助けてもらうことがあった。核家族の吉田夫妻にとって、都心でのこうしたつながりはありがたいものだったという。


玄関の前にミモザの木が立つ。玄関はシェアオフィスの人たちと共用。
玄関の前にミモザの木が立つ。玄関はシェアオフィスの人たちと共用。
玄関を入った部分から、地下のシェアオフィスのスペースと1階のミーティングスペースを見る。
玄関を入った部分から、地下のシェアオフィスのスペースと1階のミーティングスペースを見る。


その経験に加え、時に作業が長時間になることもある建築の仕事をしながら子育てをしていることもあり、同じ建物の中で気軽に助けあえるような人がいればと、賃貸でスペースを貸し出すことにした。

住宅としては実験的ともいえるこの試み、最初はワンルーム住居を組み込むことを考えていたという。しかし、ワンルーム住居にするとその部分をほかの部分に対して閉じることになり、そもそもの目的であった交流も生まれないだろうと踏み切れずにいたところ、ある時、シェアオフィスのアイデアが浮かんだ。建築的にも面白くなりそうだという読みもあり、そのまま計画を進めていったという。


地下のシェアスペースから玄関方向(南側)を見る。職種の違う人たちがスペースをシェアして使っている。
地下のシェアスペースから玄関方向(南側)を見る。職種の違う人たちがスペースをシェアして使っている。
地下から1階へと吹き抜けている部分。
地下から1階へと吹き抜けている部分。


期待以上の交流

現在オフィスを借りている人は、もともと知り合いだったわけではない。ソフトウェアエンジニア、刺繍作家、アーティストのプロモーションの仕事をしている人などさまざまだが、この人たちとの関係は吉田夫妻が期待した以上にうまくいっているようだ。

「保育園から息子と帰ってきて、2階で夕飯を準備している間に、息子が下に1人で行ってオフィスの人たちとしばらく遊び、また、“ただいま”って帰って来るみたいな不思議なことが起こっている」とあいさんは話す。
 
オフィスの上の1階にはミーティングスペースがある。ここでは地下から吹き抜けでつながっている部分にベンチを吊り下げている。カラフルなクッションが並ぶこの場所は、ミーティングのためのスペースというよりはリビングといったほうがいいようなくつろいだ空気感があり、ランチを食べたり、仕事の合間の息抜きにも利用されているという。


1階のミーティングスペース。カラフルなクッションの置かれたベンチは吹き抜け部分に吊られている。この場所は吉田家の第2のリビングスペースとしても使われているという。
1階のミーティングスペース。カラフルなクッションの置かれたベンチは吹き抜け部分に吊られている。この場所は吉田家の第2のリビングスペースとしても使われているという。
2階のミーティングスペースから南側を見る。
2階のミーティングスペースから南側を見る。
 
家族だけのスペースとシェアスペースの間に扉があり鍵が掛けられる。壁紙は地下から3階まで同じものが貼られている
家族だけのスペースとシェアスペースの間に扉があり鍵が掛けられる。壁紙は地下から3階まで同じものが貼られている
階段からミーティンススペースを見る。奥に、料理をすることができるシェアキッチンのスペースがある。
階段からミーティンススペースを見る。奥に、料理をすることができるシェアキッチンのスペースがある。
ミーティングスペースの前にはトイレや給湯スペースなどがある。
ミーティングスペースの前にはトイレや給湯スペースなどがある。


人が集まる形

2階につくったのはダイニングキッチンとリビング。このダイニングキッチンは人とのつながりを重視する吉田夫妻らしい考え方でつくられた。
よくあるように、L字形のキッチンを壁に寄せてつくると、パーティなどで人が来た場合にお客さんがその後ろに立つようなかたちになってしまうため、キッチンを兼ねたダイニングテーブルをまず部屋の中心部分に置いた。そして、人が集まりやすくなるように、コーナーを一部欠いた形にしたうえで、テーブルの大きさと周りの空きスペースの幅とを詰めていったという。


ダイニングキッチンから南側を見る。
ダイニングキッチンから南側を見る。
リビング部分からダイニングキッチンとロフトを見る。フローリングとタイル、土間と場所により床の素材を変えている。
リビング部分からダイニングキッチンとロフトを見る。フローリングとタイル、土間と場所により床の素材を変えている。


ちょっとした工夫ではあるがこの効果は大きかったという。「人が集まるきっかけになればいいなと思っていたのですが、来た人は皆さんこのキッチンの周りに立って料理も手伝ってくれるし話も弾む。これほど違うものかと、わたしたちにとってもこれは発見でした」

床の素材や色合いを変えたりといった工夫も人の動きに影響があるという。「キッチンのところはタイルで、周りはモルタルにしています。タイルは絨毯のような雰囲気にしてモルタル部分との違いを出そうとしました」


人が集まりやすいように形と大きさが考えられたテーブル。パーティの時などには自然と人が集まってくるという。右の吹き抜け部分の高さが3.9m、リビングの高さが3.4mと高さ方向に余裕がある。
人が集まりやすいように形と大きさが考えられたテーブル。パーティの時などには自然と人が集まってくるという。右の吹き抜け部分の高さが3.9m、リビングの高さが3.4mと高さ方向に余裕がある。
階段から2階とロフト部分を見る。
階段から2階とロフト部分を見る。
2階南側の突き出たスペースはちょっとしゃれたアートな雰囲気。
2階南側の突き出たスペースはちょっとしゃれたアートな雰囲気。
北東のコーナーは建物をいっぱいまでつくらずに採光のために空けている。
北東のコーナーは建物をいっぱいまでつくらずに採光のために空けている。


吉田邸は建築面積が8坪弱。ふつうにつくれば窮屈にも感じかねない空間を、吹抜けを設け採光にも気を遣って空間的な広がり感を出すなどして、居心地の良い、落ち着く空間にすることももちろん忘れていない。

シェアオフィスを併設することで家族以外の人とのつながりを図ったこの都心の“実験住宅”は、狭いながらもしっかりと豊かな快適空間がつくり込まれているのである。


3階の鉄骨フレームの内側は水回りで木の素材感をそのまま生かしている。屋上へは浴室から階段で上る。
3階の鉄骨フレームの内側は水回りで木の素材感をそのまま生かしている。屋上へは浴室から階段で上る。
トップライトから下のダイニングキッチンのスペースまで光が落ちる。
トップライトから下のダイニングキッチンのスペースまで光が落ちる。
3階南側のこのコーナーで朝食を取ることもある。ここでのおしゃべりも楽しく、洗濯物をたたむ作業も苦にならないという。
3階南側のこのコーナーで朝食を取ることもある。ここでのおしゃべりも楽しく、洗濯物をたたむ作業も苦にならないという。


朝日の下で顔を洗いたいということから洗面をこの位置につくった。突き当たりの左側に寝室がある。
朝日の下で顔を洗いたいということから洗面をこの位置につくった。突き当たりの左側に寝室がある。
旗竿敷地に建つ吉田邸。道路からは南側に突き出た部分しか見えない。
旗竿敷地に建つ吉田邸。道路からは南側に突き出た部分しか見えない。


吉田邸
設計 吉田州一郎+吉田あい/アキチ アーキテクツ
所在地 東京都渋谷区
構造 鉄骨造
規模 地上3階、地下1階
延床面積 94.87m2