Architecture
15年の思いを込めて造り上げた家知り尽くしていても
まだまだ発見がある
こう語るのは世田谷のS邸の奥さん。家づくりへの思いは長く、竣工するまでの15年間、その思いを育んでいたという。しかし、考える時間が長すぎたために、やりたいことがありすぎて最初の一歩が踏み出せない状態が続いていた。
その一方で、デザインの方向や素材などについては逆に好みがだんだん狭まっていたという。「好き嫌いもはっきり分かれてきて、なかなか一歩を踏み出せなかったんですね」。建築が好きで建築の専門誌などにもよく目を通し見る眼を養っていたというのもその一因となっていたのだろう。
外の景色が素敵な家
そうした足踏み状態の中で、雑誌などを見て気に入った、建築家の都留理子さんに連絡を取ってみたという。
都留さんに設計を依頼した理由のひとつは、家の中からの外の景色の見え方が気に入ったから。「生活する場所からの景色のほかにも、女性としていちばんいる時間の長いキッチンも、居心地がいいだけでなく見える景色もきれいなものにしたいという思いがすごく強くて、その観点からも都留さんにお願いをしようと」
長年、建築雑誌などに親しんだこともあって、光や素材などへのこだわりも強くもっていた。「いただいた模型を仮住まいしていた家の屋上に持って行って、東西南北を実際と合わせて光が当たるのを一生懸命眺めて、ああこんなふうになるんだと。光の入り方がどうなるのかも見てみたりしたんですが、それが楽しくて楽しくて…」
光と素材へのこだわり
こうして楽しみながらこだわり尽くした家づくりからは決定的な変更も生まれた。
プランは最初現状とは完全に左右が逆だったのだという。北側斜線の関係もあり現状とは左右反転した形で設計を進めていたが、真北測定により規制が想定していたほど厳しくなかったのと、奥さんが模型で光の入り具合を確認していたら中庭の位置を逆にしたほうが午前中の光がの入り方が良さそうだと分かったという。基本設計のプランがほぼ確定していた時点での変更だった。
光へのこだわりは照明器具の選定でも発揮された。LDKの間接照明は400wのエルコの製品。光が滑らかで変な線が出ず調光もできるというものだ。天井をきれいに見せたいという気持ちが強くあったことから、いくつか照明メーカーのショールームを回って実際の光の具合を確認した上で選んだという。
エントランスの戸とグレーの階段部分は常温亜鉛メッキ仕上げ。通常の亜鉛メッキよりも精度よく仕上がるのだという。1階では白壁との対比が、階段は木との使い分けがとても印象的だ。
また、玄関はコンクリートとし、メッキ仕上げの階段へと自然につなげると同時に、外部のコンクリートへの連続感も出した。
こだわってつくり完成させた家だが、取材の最後に出てきたこの奥さんの発言からは、家への深い愛着とともに、隅々まで知り尽くした家から、今までに気づかなかった良さをさらに引き出そうという思いとが感じられた。そしてまた、奥さんとこの家との蜜月はこれからも長く続くのだろう、そのようにも感じ取られた。
設計 都留理子建築設計スタジオ
所在地 東京都世田谷区
構造 鉄骨造
規模 地上3階
延床面積 86.23m2