IT系の企業コンサルタント会社を経営している田中正道さんが、以前働いていた職場の先輩のお宅を訪ねた際、メビウスの輪をモチーフにした家のあまりのカッコよさに驚いてしまったのだそう。
「いつか自分が家を建てることになったら、先輩の家を手がけた建築家にお願いしたいと思っていました。念願かなって実現したのがこの家です」
外から見た田中宅の外観は凛々しい直方体。けれど中に一歩足を踏み入れると、有機的な壁のうねりや床の凹凸、ゆったりとした弧を描く階段、下のフロアが見えるガラスの床などで構成されたエモーショナルな空間が広がる。
床に凸凹があったっていい
エントランスを入ると、右手はリビングに向かう階段。正面の凹凸のある坂を降りていくと、秘密基地のような子ども部屋がある。子ども部屋から飛び出してきた6歳の翔雲くんと4歳の海琉くんが、裸足でその凹凸の床を駆け登る。水平垂直だけの家にはない自由な発想とエネルギーがこの家にはある。「僕たち親は子どもたちの世話係、家は器です。固定概念に縛られないクリエイティブな子どもに育って欲しいと願っています」
家の場所を決めたのは佳子さんだそう。「この辺りは公務員住宅が多いせいか、公立小学校でも教育熱心な家庭のお子さんが多いと知人に聞きました。教育環境も住環境もいいので、ぜひこの辺りに家を建てたいと土地を探しました」
時計じかけのオレンジ&グッゲンハイム美術館
佳子さんが探していたエリアに土地も見つかり、いよいよ建築家の元を訪ねる。
「家を作る際、建築家と施主の信頼関係はなにより大事ですから、引き受けますとすぐに返事はいただけないんです(笑)。2回に渡る打ち合わせで、大枠のイメージを伝え、どんな映画が好きか、どんな建築が好きかや、何を大切にしているかなどを聞かれました。映画は『時計じかけのオレンジ』、建築は『グッゲンハイム美術館』の天に昇って行くような階段が好きですとお返事しました」
そして提案されたプランが、直方体をグルリと熱線カッターで切り取ったような空間。映画『時計じかけのオレンジ』のパッションと、『グッゲンハイム美術館』のゆるやかな階段がそこにあった。
「空間を斜めに切り取った厚みや角度が様々な壁など、この家の施工は大工さん泣かせだったようです。たとえば凹凸の床など、図面に書き起こせないような部分は建築家自ら手を動かして作っていただきました。ご苦労が多かった分、愛着を感じていただいたようで、引き渡しの際は涙を浮かべてらっしゃいました」
ここに引っ越してきてからまだ4ヶ月。カーテンなどは仮のものだそう。「日差しが強いので、遮熱製の高いカーテンをつける予定です」他にも、計画中のお楽しみが盛りだくさんとのこと。「子どもの成長に合わせて子ども部屋を仕切ったり、屋上を活用できるように手を入れたいとも思っています」