Architecture
大磯の海と山を満喫する家非日常性を演出する
ホテルライクなシンプル空間
“大磯っぽい”敷地
「ちょっと面白い土地があるんだけど、ということで最後に連れてってもらったのがこの敷地だったんですが、見た時に2人ともすごく気に入って」と話すのは須田邸の奥さん。不動産屋の人と大磯の土地をいくつか見て回った時のことだ。
「山の景色と海の景色がとても大磯っぽいところ」が気に入った須田さんは、即、購入することに決めたという。
それがネック?
海だけでなく、海と山の両方の景色がほしかったという須田さん。不動産屋の人には、「皆さんここの景色を気に入ってくれるんだけど、坂が急で階段も長かったりで、日常生活を考えるとあきらめる人が多い」と言われたが、坂も階段もあきらめる理由にはならなかったという。
「苦になるとは思わなかったですね、少しも。階段は上ればいいし坂も上がればいいんだったら、それは購入を考える際にネックにはならなかった。逆に、それがネック?と思ったくらいで」
建築家はお隣さん
須田邸の設計を手がけたのは、ほぼ同時期に隣の敷地に家を建ててお隣さんとなった建築家の猿田さん。インターネットで建築家を探している時に猿田さんの作品が目にとまりその空間のテイストは気に入っていたが、お隣同士となる猿田さんに依頼することになったのは、導かれるように偶然が重なった結果だったという。
それは話が出来すぎていてどこかでカメラが回っているんじゃないかと思うほどで、ちょっと気味が悪いくらいだったと。「同じ土地を気に入って、空間の質感や色の感覚だったりとか価値観とかもわりと近いのかなと思いましたし、縁も感じたので」(奥さん)と、猿田さんにお願いすることにしたのだという。
素晴らしい風景をトリミングして見せる
設計ではやはり景色をどう取り込むかが大きなポイントとなった。「打ち合わせの際の話ですごく印象に残っているのは、海と山の2方向に視線が必ず抜けるようにしてほしいって言われたんですね。どこからでもその景色が楽しめる家にしてほしいと」(猿田さん)
2階の山側は、ダイニングに座った時の眺めを考えて水平方向に細長い開口で景色をトリミングした。「すごくきれいにトリミングできるような感じが最初からあった」(猿田さん)という海側の壁は、大きな開口と通風用の開口を設け、前者の2つの開口が家の南側に広がる素晴らしい景色をフレーミングして見せるようにした。単に大きな開口を設けるよりも、景色の素晴らしさがより際立ち実感できる仕掛けだ。
ホテルのような空間
もうひとつ須田さん夫婦からあった大きなリクエストは、無機質な印象の空間にしてほしいということだった。そして、「すごくシンプルなテイストが2人とも好きなのと、夜も帰りが遅くて休みとかもほとんどなくて旅行にもあまりいけないので、ホテルのようなシンプルで非日常性の感じられる空間にしてほしいとお願いしました」(須田さん)
内部空間での白とモルタルのグレーという配色がこの「無機質」と「非日常性」というリクエストに応じているが、白が強い印象の空間だと病院のような印象になってしまうところから、2階では差し色として階段に紫色を使った。モルタル部分で質感を出しているのも、同様の理由からだろう。
奥さんが特に気に入っているのはキッチンで、「空間が広くてすごく居心地がいい」という。
須田さんは、2階南側の開口から見える海の景色がお気に入りだ。特に冬の透明感溢れる海の眺めは格別で、感動的ですらあるという。大きな2つの開口でフレーミングされた風景は、「五感に訴えてくる」とも。非日常性を演出する建築的仕掛けがとてもうまく機能している、そのように感じられた。
設計 CUBO design architect
所在地 神奈川県大磯町
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 99.4m2