シンプル空間で色と素材に拘る生活に張りをもたらす静かで端正な空間感

シンプル空間で色と素材に拘る生活に張りをもたらす
静かで端正な空間感

100%LiFE を見て依頼

4年半ほど前に、この100%LiFEのサイトにアップされた紹介記事が気に入り、その住宅を設計した若原アトリエに依頼した巻川夫妻。空間の光の質や、シンプルなデザインの中に開口部の格子などこだわってつくり込んだ部分が程よい感じで納まっているところなどに惹かれたという。

自分たちと「感覚が合う」と見込んでの依頼だったため建築家へのリクエストは多くなかったが、こだわったうちのひとつが木の材質で、無垢材を希望。紹介記事の住宅のフローリングにはパイン材が使用されていたが、夫妻はタモ材やナラ材を使ってほしいと伝えたという。


大きな開口の前にベンチがひとつ置かれた1階リビング。壁の面構成にはアート的な空気感も。

大きな開口の前にベンチがひとつ置かれた1階リビング。壁の面構成にはアート的な空気感も。


壁とともに、空間に落ち着いた雰囲気をもたらしているフローリングにはナラを採用し、1階リビングに設けられた大きな開口部の枠材とルーバーにはタモ材が使われた。
「窓というよりは置き家具」(若原アトリエ・永峰さん)のような存在感をもつこの枠材・ルーバーは、最初のプランには無く、現場での判断で取り付けられたものという。その奥のアルミサッシを隠すこの開口廻りは、空間の印象を大きく作用する、この住宅の重要なアイテムになっている。


ダイニングからリビングを見る。

ダイニングからリビングを見る。

リビング奥からダイニングを見る。

リビング奥からダイニングを見る。


色にこだわる

壁は壁紙ではなく、塗り壁を希望。「塗り壁にしてほしいという主人の希望があって、色や表面の粗さなどについてやり取りをしたうえで提案をいただいた中から、この仕上げを選びました」
少しグレーがかった色合いの壁は、砕いて粉末状にした瓦を3割程度混ぜたしっくいを塗ったもので、光の具合により色味が変わり陰影もよりはっきりすることがあるという。
「壁の色味に関しては、少し赤味がかったり緑が入ったりと、施主やその地域の雰囲気とかに合わせた提案をしています」と永峰さん。


キッチン側からダイニングを見る。キッチンとダイニング部分は土間になっている。

キッチン側からダイニングを見る。キッチンとダイニング部分は土間になっている。


1階ではフローリング部分より1段低くなった場所がダイニングキッチンになっているが、この部分ではフローリングとは異なる素材にする提案が建築家からあった。
「最初は石を貼る予定でしたが、予算の問題もあって石をやめ、提案いただいた別案の中から、黒っぽい土間を選びました」(奥さん)。濃いグレーのような色味は墨を混ぜて出したものだが、奥さんはこの土間に替えてむしろ良かったという。


障子を閉めることにより、柔らかな光が拡散して一気に和の雰囲気が漂う。少しグレーがかった色味の壁は、瓦を砕いた粉末を混ぜたしっくいが塗られている。

障子を閉めることにより、柔らかな光が拡散して一気に和の雰囲気が漂う。少しグレーがかった色味の壁は、瓦を砕いた粉末を混ぜたしっくいが塗られている。


和と洋の融合

1階はフローリングのリビングに土間のダイニングキッチンと、洋式の住まい方が考えられているが、ダイニングコーナーの開口部には障子が仕込まれていて和の雰囲気もミックスされている。1階の静かで端正な空気感と和の要素がうまくマッチしている。
「生活がどんどん洋式化してソファとダイニングテーブルの生活になっていく中で、和の雰囲気を少し入れて、和と洋の融合したような空間をつくりたいと以前から思っていました。今の時代と雰囲気に合った和と洋の融合ですね」(永峰さん)


ベンチの位置からは外が見えるが、ダイニングからは、ルーバーがあるため光だけが見える。開口廻りの枠材はアルミサッシを隠している。ベンチは家具作家の傍島浩美さんによるもので、オブジェ的にも鑑賞できるようデザインされている。

ベンチの位置からは外が見えるが、ダイニングからは、ルーバーがあるため光だけが見える。開口廻りの枠材はアルミサッシを隠している。ベンチは家具作家の傍島浩美さんによるもので、オブジェ的にも鑑賞できるようデザインされている。


住む前の心配と住んでからの実感

「いちばん最初にプランをみせていただいた時点でこれがいいと思って、そこからは少ししか変えていません。“あっ、ここに住みたいなって”思って、それがほぼそのまま形になった感じです」

こう話す奥さんには実は心配もあったという。「デザイン重視の建物になっちゃったかなと思ったんですね。デザインはとても素敵だと思ったんですが、個室がないとか、暑さ寒さの問題もありますし、生活をしてみたら、扉は必要だったんじゃないかとかいろいろと出てくるのではないかと」


 

玄関ホールとを隔てる扉には和紙クロスが貼られている。

玄関ホールとを隔てる扉には和紙クロスが貼られている。

ダイニングテーブルも傍島浩美さんの製作家具。

ダイニングテーブルも傍島浩美さんの製作家具。


ダイニングと外の地面とは同じレベルのため、一般的な住宅よりも地面が近く感じられる。

ダイニングと外の地面とは同じレベルのため、一般的な住宅よりも地面が近く感じられる。

キッチン部分。シンプルながら色と素材の選択に設計の強いこだわりが感じられる。

キッチン部分。シンプルながら色と素材の選択に設計の強いこだわりが感じられる。


でもそうしたことはすべて杞憂だったようだ。逆に、住んでみて「この家族はこういう方がいいなというのを感じ取って設計してくださった部分に」感心しているという。

まず、ワンフロアのマンション暮らしをしていたので、一般的な2階建てのように1・2階を明確に分けてしまうのではなく、家族の息遣いが感じられるような空間にしてくれたこと。そして、シンプルで端正な佇まいが特徴の1階に対して、2階が自由にモノが置けて、子どもたちも遊べてという具合に生活の中でメリハリがつくようにしていることなどがそれだ。


2 階からリビングを見下ろす。リビングの形状には、台形の敷地形状が反映している。

2 階からリビングを見下ろす。リビングの形状には、台形の敷地形状が反映している。

2 階から階段室を見下ろす。

2 階から階段室を見下ろす。
 

2階の子ども部屋。左手に寝室がある。

2階の子ども部屋。左手に寝室がある。


「天井高を2100mm に抑えて1階と2 階の距離をできるだけコンパクトにして、1階にいても2階が近く感じられるようにしています」(永峰さん)。

「天井高を2100mm に抑えて1階と2 階の距離をできるだけコンパクトにして、1階にいても2階が近く感じられるようにしています」(永峰さん)。


端正な佇まいの1階の空間には、気持ちが少し引き締まるような空気感も漂う。
「ちょっとキリッとした気分になるというのは設計でいつも大事にしているところで、生活に少し張りをもたらすような雰囲気をつくるために、どのようなプロポーションであるべきとか、光の入れ方など、模型をつくって検討を行っています」(永峰さん)

知らず知らずのうちに生活に張りをもたらしてくれる――実際に体験してみて、快適さや使いやすさのほかに、そのような側面にもう少し光が当てられてもいいのではないかと思った。


車が外観の邪魔にならない位置に駐車スペースを取った。洗濯物を外部からよく見える場所に干したくなかったため、インナーバルコニーのような空間を2階につくった。

車が外観の邪魔にならない位置に駐車スペースを取った。洗濯物を外部からよく見える場所に干したくなかったため、インナーバルコニーのような空間を2階につくった。


巻川邸
設計 若原アトリエ
所在地 東京都清瀬市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 76.72 m2