Architecture
ラワンベニヤの風合いが活きる風と光が通り抜ける
外に向けて開かれた家
家主は女子大で中国政治を教える金野純さん。それまで住まいについて、深く考えたことはなかった。「色々と見たのですが気に入る物件がなくて。たまたま通りがかりでテラバヤシ・セッケイ・ジムショを見つけて、ああ、こういうところに頼む手もあるのかと」。
金野さんの希望は“蚊取り線香の似合う家”。どの部屋からも外に出られること、内と外の境が曖昧であることだった。「外から中を守るための、城のような家は嫌でしたね。出たり入ったりが自由にできる家、すべての部屋に窓があり光が入る家にしたいと思いました」。
経年変化の味わいを楽しむ
1階のリビングは、大きな開口部の向こうに広いウッドデッキがフラットにつながる。「夏はほとんど開けっ放しです。テーブルを出して食事をしたり、子供たちが遊んだりしていますね」。
設計した寺林省二さんによると、「南側に隣家があるので、なるべく家を北に寄せるように庭を広めにとりました。真四角なリビングダイニングではなく、テラスの部分を凹ませることで、目隠しになる空間も設けました。ご主人も家で過ごす時間が長いので、快適に暮らしてもらえることを考えましたね」。
壁や天井は合板をむき出しに。「寺林さんからシナベニヤという提案もしてもらったのですが、ラワンベニヤの時間とともに変わっていく風合いが、味があって好きなんです。色もばらばらなのですがあえてそのままにしています」。寺林さんは吉村順三の薫陶を受けている。外に開かれた味わいのある家を好む金野さんとの出会いは、偶然ではなく何かの接点があったように思えてくる。
広縁を設けて温泉テイストに
金野さんがもうひとつこだわったのは、“旅館テイスト”があること。広縁はぜひ欲しいと思っていた。「実家が岩手の温泉街で、親しみがあったんです。2階の寝室はそのイメージです」。
仕切りを設けると狭くなるので、友人の家具職人に作ってもらったTV台を境い目辺りに置き、椅子とテーブルをセットした。寝室を挟む両側の部屋にもテラスがあり、広縁とガラス戸で区切られている。
「2階にもテラスは欲しいと思っていました。書斎では、仕事の合間に折りたたみ式の椅子を持って出ていって休憩しています」。
自宅で論文を書くことが多い金野さん。溢れるばかりの本を収めるため、廊下など色々な場所に収納棚を取り付けた。「ちょっとしたラックとか、ものを吊るすためのフックなどはDIYで取り付けました。後から色々と手を加えられるのも、板張りのいいところですね」。
DIYで取り付けたフックは、シェーカースタイルのペグからヒントを得たもの。「ものを下に置かなくてよいのですっきりするし、掃除もしやすくて合理的。家のあちこちに取り入れています。簡素を良しとするシェーカーの考え方が好きなんです」。リビングにはボーエモーエンセンのシェーカーチェアを。テーブルもそれに合わせてシェーカー風に作ってもらった。
伸びやかな暮らしを見守る家
1階のキッチンは妻の多恵さんが子供たちを見守りやすいようにと、オープンにすることを寺林さんが考えた。長男・悠くん(7歳)、次男・紘くん(3歳)は、光が通り抜ける家の中を自由に駆け回る。
「上の子は特に外遊びが好きで、近くの水路に行ってザリガニを釣ったり、カワエビをとったり。近所の人など必ず誰かがいて見ていてくれるので、安心できますね」。外構のフェンスには隣家の梅を見るために設けた椅子スペースも。ここに近所の人が腰かけて休憩をとることもあるのだという。そんなのどかな日常の様子が、開放感と味わいのある家から偲ばれる。
「昨年1年間は研究のため韓国と香港にいて家を空けていたんです。帰ってきたら庭が立ち枯れていて…。落葉樹が好きで葉が落ちているせいもありますが」。今はこの庭の復活がいちばんのテーマなのだとか。緑が芽吹いてくる春が待ち遠しい。