Architecture

日本文化とグリーンの融合緑のルーフバルコニーが
内と外とを曖昧に繋ぐ

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街の一角に建つ癒しの空間

「街の中の庭となる、そんな家にできたらなと思いました」。
古谷デザイン建築設計事務所の古谷俊一さんのご自宅は、昭和の風情の残る街並みに、まるでオアシスのように緑を湛えて佇んでいる。
「子供の頃から田舎というものをもっていなかったので、緑を渇望していたところがあるんです。20年くらい植物を育ててきた経験を活かして植栽のプランを立てました」。
1階の外構から2階、3階のバルコニーまで、緑の溢れる外観は、古谷さんがリノベーションを担当した、向かい側の「大森ロッヂ」との連続性も考えられている。
「8棟の木造住宅が並ぶエリアに、庭のようにつながる建物にしたいと考えました。ちょうど真向かいに建てた店舗付き住居と相対する形で、フロアのレベルや意匠も揃えています」。
改修した長屋の立ち並ぶ路地の入り口にある、街に向けて開かれた建物は、住居でもありサテライトオフィスでもあり、グリーンのナーセリーでもある。

敷地をぐるりと取り囲むようにグリーンが生い茂る。それぞれの方角に適したグリーンを植樹。
敷地をぐるりと取り囲むようにグリーンが生い茂る。それぞれの方角に適したグリーンを植樹。
住宅街の路地の一角に、向かい側の店舗付き住居と対峙するように建つ。
住宅街の路地の一角に、向かい側の店舗付き住居と対峙するように建つ。
3層の木造住居。3階までグリーンが連続し、街の中にひとつの景観を生み出すかのよう。
3層の木造住居。3階までグリーンが連続し、街の中にひとつの景観を生み出すかのよう。

日本の建築物を踏襲したい

むき出しの軒柱に、建物の隅にそれぞれ設けられたバルコニー。空間に“欠け”のある独特の外観が開かれた印象を与える。
「この辺りは準防火地域なので、柱を現しにはできないんです。そこを、通常より太い燃え代設計にすることでクリアしています」。
現しにこだわったのは、親しみやすさ、分かりやすさ、だという。
「今は何でも包み隠してしまうけれど、建物がどういう構造で建っているのか、現しにすれば分かりますよね。お寺や昔の日本家屋の良さを、できるだけ踏襲したいという思いがあります」。
軒柱のあるバルコニーは、書院造りの濡れ縁のイメージ。ここを介して、中と外が曖昧に区切られる。そして家全体を、頂点から四隅へ同じ角度で傾斜する宝形屋根が包む。
「向かい側の家のデザインに合わせているのですが、御神輿をかついでいるような雰囲気で、縁起がいいじゃないですか(笑)。雨よけにも合理的なんです」。

軒柱を現した設計は、縁側のある昔の日本家屋を思い起こさせる佇まい。
軒柱を現した設計は、縁側のある昔の日本家屋を思い起こさせる佇まい。
自邸の玄関側。自然な木目の外壁は“選びに選んだ”サイディング。「縦に張ったことでつなぎ目が目立ちにくくなっています」。
自邸の玄関側。自然な木目の外壁は“選びに選んだ”サイディング。「縦に張ったことでつなぎ目が目立ちにくくなっています」。
玄関には京都の「BOLTS HARDWARE STORE」の照明を外灯に使い、カッティングボードで名前を貼ることで表札代わりに。 
玄関には京都の「BOLTS HARDWARE STORE」の照明を外灯に使い、カッティングボードで名前を貼ることで表札代わりに。 

内でも外でもない廊下

1階のサテライトオフィスとグリーンのナーセリーから、外階段でつながる2階には、居室とバスルームが。ここは廊下を外部テラスに見立てた。
「外構の延長として、外からつながっている感じにしたいと思いました。天井に照明をつけたり、ドアノブを取り付けたりすると一気に室内の感じが出てしまうので工夫しています」。
照明の代わりに、床の上に小さなライトを行灯のように配置。夜にはほのかな明かりが、3階につながる階段まで誘導する。取っ手の形状にこだわったドアノブとモルタライクの床も、室内という雰囲気を和らげている。
「室内でも外でもない、そういう曖昧な空間が好きなんです。できるだけそんな場所をつくりたいですね」。

玄関脇にはマンガの書庫を設けることを決めていた。家族全員の愛読書は2000冊程。「ここにあるのは2軍なんです(笑)」。  
玄関脇にはマンガの書庫を設けることを決めていた。家族全員の愛読書は2000冊程。「ここにあるのは2軍なんです(笑)」。  
シューズインクローゼット。奥の鏡は扉のように手前に引くことができ、外出前に全身をチェックできる。
シューズインクローゼット。奥の鏡は扉のように手前に引くことができ、外出前に全身をチェックできる。
「BOLTS HARDWARE STORE」の照明を行灯のように点在させて。
「BOLTS HARDWARE STORE」の照明を行灯のように点在させて。
廊下の床はモルタライク。半室内のような空間が3階LDKヘとつながる。
廊下の床はモルタライク。半室内のような空間が3階LDKヘとつながる。
天然の素材感が心地いい2階の主寝室。緻密に計算して棚を取り付けたクローゼットを、カーテンで仕切っている。 
天然の素材感が心地いい2階の主寝室。緻密に計算して棚を取り付けたクローゼットを、カーテンで仕切っている。 
バスルームはFRPで。床には冷たさを感じにくいLIXILのサーモタイルを使用。洗面、バルコニーに接続させて動線も確保。
バスルームはFRPで。床には冷たさを感じにくいLIXILのサーモタイルを使用。洗面、バルコニーに接続させて動線も確保。

生活のしやすさをベースに

「妻が“ルーフバルコニーは絶対に欲しい”と言ったことが、設計のスタートです。コンセプトは実は後付けで(笑)。住宅は生活しやすいことがいちばんなので、そこから入っていかないと」。
空中庭園のようなバルコニーの先に街が広がる3階のLDKで、そう語る古谷さん。「とってつけたようにしたくない」と設計したバルコニーにより、結果、室内はジグザグの形状になり、リビングとダイニングキッチンが緩やかに分かれている。
「これによって隣家との距離感が保たれる、という効果も生んでいます。ただ、すべて居心地のよさを考えた結果なんです」。
上を見上げると屋根の稜線の先に青い空が広がる。外から見ても癒されるグリーンの建物は、中にいても心地よく、開放感を味わえる空間だった。

宝形屋根の欠けの部分から光が差し込む3階のLDK。リビングにはセルジュ・ムーユのシーリングランプを。
宝形屋根の欠けの部分から光が差し込む3階のLDK。リビングにはセルジュ・ムーユのシーリングランプを。
LDKからフラットにつながるバルコニーでは、南側北側の二隅に無機の土を盛って屋上緑化を図り、空中庭園を造園。保水力が高いためプランターよりよく育つそう。南側にはエゴノキやアメリカハナズオウ、北側にはハギやヤマボウシなどを植え、四季折々の表情を楽しんでいる。
LDKからフラットにつながるバルコニーでは、南側北側の二隅に無機の土を盛って屋上緑化を図り、空中庭園を造園。保水力が高いためプランターよりよく育つそう。南側にはエゴノキやアメリカハナズオウ、北側にはハギやヤマボウシなどを植え、四季折々の表情を楽しんでいる。
バルコニーの配置により、LDKはジグザグに分かれる。奥のダイニングキッチンは、カウンターが緩やかな仕切りに。システムキッチンのまわりにカウンターを造作したことでコストもカット。収納の扉はグレーとブルーのリバーシブルで、アレンジが可能。
バルコニーの配置により、LDKはジグザグに分かれる。奥のダイニングキッチンは、カウンターが緩やかな仕切りに。システムキッチンのまわりにカウンターを造作したことでコストもカット。収納の扉はグレーとブルーのリバーシブルで、アレンジが可能。
リビングには、あぐらをかいて座れるIDÉEのソファー・AGLASを。たくさんの本を整然と収納できるよう、予め本のサイズを計って棚を造作。飾り棚にはスリランカ、北欧、台湾など旅先で買ってきた雑貨をディスプレイ。
リビングには、あぐらをかいて座れるIDÉEのソファー・AGLASを。たくさんの本を整然と収納できるよう、予め本のサイズを計って棚を造作。飾り棚にはスリランカ、北欧、台湾など旅先で買ってきた雑貨をディスプレイ。
ブラインドは斜めになった開口の形に合わせ、スイスの「CRÉATION BAUMANN」社にオーダーしたもの。
ブラインドは斜めになった開口の形に合わせ、スイスの「CRÉATION BAUMANN」社にオーダーしたもの。
古谷デザイン建築設計事務所代表の古谷俊一さん。1階のサテライトオフィスで。 
古谷デザイン建築設計事務所代表の古谷俊一さん。1階のサテライトオフィスで。 

古谷邸
設計 古谷デザイン建築設計事務所
所在地 東京都大田区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 142.05㎡