Architecture
“隙間”をうまく使った快適空間外へと開かれた心地よさと
こもるような心地よさ
中学生の頃からの建築好き
東海道線の駅から歩いて10数分。海からも同じ程度の距離に位置する住宅地に尾崎邸は建っている。「設計でのリクエストは、窓枠のサッシは黒がいいといった細かいところまでかなり決めていて、箇条書きに書き出したものをお渡ししました」(尾崎さん)。そのシートには、リビングなど部屋ごとに頁を分けて材質や色味、また置きたい家具などについても書き込まれていたという。
昔から建築家のつくった家が好きで、中学生の頃から建築家設計の住宅を紹介するテレビ番組も観ていたという尾崎さん。家づくりへのこだわりは強く深く、建築家の土田さんにお願いするまで、インターネットなどで300近いほどの設計事務所を調べたという。
空間構成のポイントは駐車スペース
好きな家のイメージを伝えるため、建築家の土田さんには雑誌やインターネットなどで見つけた写真もヴィジュアル資料として手渡した。最近好まれている、室内すべてを白系で仕上げたり、木であればナチュラルで軽い感じのものというよりは、いまだモダニズムが最先端と見なされていた60年代あたりの建築の雰囲気をもったものが多かったという。
そこで、木はちょっと重めの色合いのものにし、スチールは黒く塗装をしてかつラインをシャープな感じに仕上げるなど、尾崎さんの好みのテイストを押さえながら設計は始められた。しかし、この家の空間の構成を決める大きなポイントは他のリクエストにあった。それは尾崎さんの大きめサイズの愛車を敷地内にきちんと納まるようにするというものだった。
隙間のような空間
「敷地模型に車を置いてみたら、イメージしていたよりも駐車スペースがあまりにも大きくなることが分かったんです。残された部分で必要な部屋を確保しつつ、どれだけ伸びやかな空間がつくれるかというのが大きなポイントになりました」(土田さん)
尾崎さんからも出ていた「吹抜けや開放感のある空間」というリクエストも踏まえて設計の検討を始めたが、伸びやかな空間を実現するために、早いタイミングから平面だけでなく立体的な縦の検討も行われたという。そして、見つけたのが「隙間のような空間」だった。
ふつうはリビングがメインにあって、その他の廊下などの場所がその残りの隙間のようにしてできていくことが多いが、発想を逆にして、リビングをまず隙間のような場所にしてみた。すると、他の隙間的な空間とつながってとても大きな気積になることがわかったという。
青空の下でビールを飲む
そうした検討を重ねた結果、箱(=家)の中にもうひとつ箱が入っているような空間が出来上がった。尾崎邸ではその箱の部分以外が土間になっているのも特徴だ。土間は外との区別を曖昧にして外部空間を屋内へと引っ張り込むという役割のほかに、自転車やアウトドアグッズなどをそのまま収納する倉庫的な意味合いももたせられている。「青空の下でビールを飲みたい」という尾崎さんからのリクエストも合わせて勘案した結果でもあった。
「土間の部分は内部だけれども窓を開けきれば外気空間になって一気にテラスに変わるんじゃないかと。それで尾崎さんが要望された“青空の下で”という話を“内部”というふうに転換していったんですね」(土田さん)。また、青空の下では直射日光のために長い時間滞在することはできないが、窓を開ければ外気空間になるので、土間が庇の下にいるような空間に変わるのではないかと判断したという。
そしてまた、尾崎夫妻がともに好きだというのがダイニングキッチンだ。尾崎さんは「落ち着くし、1階全体を見渡せて、子どもがリビングで遊んでいても見える」という。ここでポイントになっているのが吹き抜けとダイニングキッチンの天井高の差である。5.6mに対し2.1mとダイニングキッチンが吹き抜けの半分にも満たないのだ。
加えて、庭との関係からアウトドア的な気持ち良さもある。つまりこもるような心地よさと外へと開かれた心地よさ。尾崎さんは前者の方は想定していなかったが、こもるような心地よさが加わることによって、より奥の深い家づくりが実現できて満足している、そのように思えた。
設計 no.555一級建築士事務所
所在地 神奈川県平塚市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 87.07m2