Architecture
交流が生まれる場として賃貸住宅と庭を共有する
アトリエ併設の住まい
敷地全体の建て替え計画
辻岡慶さんと里奈さん夫妻が、登山やスキーなどアウトドアで使うバックパックや小物などのブランド「atelier bluebottle」を立ち上げたのは2013年のこと。「当時は、この土地に建っていた祖母の家に住んでいたので、その一部屋をアトリエとしてスタートしたんです」(里奈さん)。その頃は敷地内に、里奈さんのご両親の家と3世帯分の賃貸アパートも建っていたという。
その後、祖母の家が老朽化したため建て替えを検討する中で、二世帯住宅を新築し、アパートも建て替えることになった。「母はずっとアパートの住まい手さんと交流していたので、建て替え後も自然に挨拶ができる関係性を続けたいと希望していました」。
いくつかの設計事務所に相談する中で出会ったのが、「アラキ+ササキアーキテクツ」(以後A+Sa)の荒木源希さんだった。「事務所を訪ねたら雰囲気が良かったのと、ご自身も山に登ると伺って、荒木さんに頼みたいなと思ったんです」(慶さん)。
荒木さんは「オーナー住宅と賃貸住宅を同時に建てる計画だったので、双方の敷地を一体的に考えることができました。間に庭を配することで、ほどよい距離感で交流ができるように配虜しました」と設計当時を振り返る。
山小屋のようなリビングダイニング
荒木さんは、通りに面した敷地のうち、右手に二世帯住宅を、共用庭を挟んで左手に賃貸住宅を配置するプランを提案した。
片流れの屋根が特徴的な二世帯住宅は、1階に親世帯の住居とアトリエ、2階に子世帯である辻岡さん一家が暮らす住居という割り振りになっている。「アトリエはお客様も訪ねてきやすいよう、敷地の前面に。アトリエを抜けて階段を上がると、住居につながる間取りを考えました」と荒木さん。
2階に上がると、リビングダイニングを中心とするおおらかな空間が広がる。木がたくさん使われたリビングダイニングは、ロフトが設けられていて天井が高いこともあり、どこか山小屋風の雰囲気だ。
アトリエと住まいをつなぐ階段
1階のアトリエは、4畳半ほどのコンパクトな空間に3台のミシンが並ぶ。「製品づくりのすべての機能をアトリエだけで行うのは難しいので、階段を上がったコーナーに裁断台を置いています」(慶さん)。
アトリエは辻岡さんの住まいへの玄関も兼ねていることもあり、床は土間仕上げだ。そのまま階段を上がった2階のフロアで靴を脱ぐシステムになっている。階段の上下に扉は設けられておらず、2階も寝室と浴室以外は扉を設けていないので、アトリエと住まいは階段を介してゆるやかにつながっている。
「仕事でアトリエに立ち寄ったお客様に、2階のリビングに上がっていただくといったことが自然にできるところが気に入っています」と笑顔で話す夫妻。この家には来客も多いそうで、訪れる人がリラックスできる、肩肘はらずに過ごせる和やかな空気が流れているのだろう。
土間のある賃貸住宅
メゾネット形式の住戸が4軒連なる賃貸住宅「Hutte Zenpukuzi」は、全戸に庭に面した土間を設けている。荒木さんは「共用庭の先に土間を設けることで、住人同士の交流もしやすくなるのではと考えました」と説明する。
住人の一人、山崎健太郎さんは、A+Saの元スタッフ。現場を担当するうちにここに住みたいと思うようになったそうだ。「1階のガラスのドアから庭が見えるのが、開放感があって何ともいいんです」と話す様子からは、庭を介した交流の心地良さが伝わってきた。
設計 アラキ+ササキアーキテクツ http://arakisasaki.com/
所在地 東京都杉並区
構造 木造2階建(1階アトリエ/2階住居)
延床面積 140.02m2m2