Architecture
富士山と相模湾を望む家自然の中で、森のような
多様な空間を体験する
富士山につかまれた
「週末に過ごす小屋や別荘のようなもの」に憧れていたというM夫妻。大磯の地で一目で気に入ったという敷地は、相模湾と富士山が望めるというぜいたくな場所だった。
その両方が見える場所を探していたわけではないが、敷地を訪れた際に、「たまたま、それまで雲に隠れていた富士山がとても鮮明に見えてきて、それでつかまれてしまいました」(Mさん)
敷地のもっとも北側の部分が富士山と海の両方を望むことができ、いちばんいい場所だとわかっていた。そのため、リビングとしてその場所を景色に対してどのように開いていくか、建築家の猿田さんとディスカッションを重ねたという。
開口の工夫
2階では、リビング以外も「周囲の景色をうまく切り取るというコンセプト」にのっとって設計が進められた。風景のフレーミングだけでなく、光が差し込む角度なども考慮しながら、大きさとプロポーション、そして腰壁の高さの異なる開口がつくられた。
「中と外が自然につながっている感じにしたい」と要望を出したバルコニーも、リビング脇につくられたものは、同様に、両サイドに壁を設けて海がよく見えるように景色が絞り込まれた。
多様な空間体験
2階の設計はもちろん開口の開け方だけに重点が置かれたわけではなかった。北端に位置するリビングから南端外部につくられた書斎まで、一室空間ながら、上下・左右の移動を伴いながらの多様な空間体験ができるように平面と断面が設定されている。かつ、この体験をさらに濃密なものにするように、壁と天井に木が部分的に張られているのだ。
「書斎の外壁部分を木の箱と見立て、その木の箱が内部でも林立しているように木壁を配置し、その間に白いスリット状の空間(階段)やキッチンを置きました」(猿田さん)
移動しながら過ごす
Mさんが以前住んでいた家をわざわざ売却して建てようと思った時の大きなモチベーションだったという薪ストーブは、ダイニングの富士山の見える開口前に設置された。
「明るい時間であればリビングのところのバルコニーが断然気に入っていますが、今のような寒い季節は薪ストーブを毎日かかさず焚いているので、その近くに座ってビールを飲んだりするのがすごく気に入ってます」
奥さんのお気に入りもリビング脇のバルコニーだという。「季節のいい時期の週末の朝には、バルコニーでコーヒーを飲みながら30~40分過ごして、そのあとは太陽の移動に伴い南側のバルコニーに椅子を持っていって本を読んだりします」
そのようにしていちばん気持ちの良い場所を求め、愛犬のモモとともに家の中で移動しながら過ごすのだという。
リビングからキッチンへと「なんとなく、森の中で、道がつながっているようにも感じられる」(猿田さん)M邸。周囲も豊かな自然に囲まれ、雄大な富士山の姿を望める生活では、身体へと自然がしみわたり、自然に対して身体がごく素直に反応してしまうのだろう。
設計 CUBO design architect
所在地 神奈川県中郡大磯町
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 111.1m2