Architecture

半減した敷地に建てた2世帯住宅 ネコと人間が心地よく
暮らすための工夫をこらす

半減した敷地に建てた2世帯住宅 ネコと人間が心地よく 暮らすための工夫をこらす

面積半減の敷地での建て替え

永嶋さんのお宅は特定整備道路の拡張工事のため、建ててから8年ほどだった家を建て替えることに。敷地は以前の半分ほどに削られて、細長いL字に近い形になった。

接道面が広いのに対して奥行きの浅いこの家に住むのは母+息子夫婦+子供一人+猫4匹。設計はアンブレ・アーキテクツの松尾宙さん・由希さんのお2人に依頼した。永嶋さん夫妻と息子さんのスペース以外は、お母様のスペースをキッチン・バス・トイレと一通りの設備を備えたものとし、4匹いるネコとの共同生活がうまくいくようにとリクエストした。

道路拡張のため敷地が半分になった永嶋邸。道路側が削られたため奥行きが浅い。延焼遮断帯を形成するために耐火建築物にする必要があった。
道路拡張のため敷地が半分になった永嶋邸。道路側が削られたため奥行きが浅い。延焼遮断帯を形成するために耐火建築物にする必要があった。

ネコたちのための動線

「ネコを飼い始めてからネコアレルギーの家族がいることが分かったので、ネコは個室には入れないけれどもネコたちとちゃんと触れ合えるスペースがほしいとお伝えしました」(永嶋奈々さん)

内部ではネコの日々の暮らしを熟慮した空間につくられているが、設計時に奈々さんが建築家にプレゼントした本がとても参考になったそうだ。

2階のLDKスペース。左の吹き抜けの高さが4.55m、その右の低い部分が1.95mと差があり空間に大きな変化をもたらしている。
2階のLDKスペース。左の吹き抜けの高さが4.55m、その右の低い部分が1.95mと差があり空間に大きな変化をもたらしている。
ダイニングスペースが、2人の時も3人の時も距離感が絶妙で心地がいいという。
ダイニングスペースが、2人の時も3人の時も距離感が絶妙で心地がいいという。
階段の奥に息子さんの個室がある。階段の上がテラスになっている。
階段の奥に息子さんの個室がある。階段の上がテラスになっている。

「設計者の書いた本だったんですが、ネコの習性を知る上でとても役に立ちました。ネコにはどういうスペースが必要なのかだけではなくて、ネコがどういう視点で人を見ているとか、多頭飼いのときの注意点ほかたくさんのことを学ばせてもらいました」(松尾由希さん)

道路に面して先細く延びる変形敷地の中で「猫のための縦動線をつくろう」ということになったが、建築家のお2人はよくあるネコハウスのような形にはせず、人とネコの動線を合わせて考えることで面白い家になると思ったそうだ。

キッチン側から見る。奈々さんはコンロの前のガラスがお気に入りという。「火が意外と恐くて、こうなっているとネコが絶対入ってこれないので安心して料理ができるんです。透明だから料理をしていてもネコの様子が見れるのもいいですね」
キッチン側から見る。奈々さんはコンロの前のガラスがお気に入りという。「火が意外と恐くて、こうなっているとネコが絶対入ってこれないので安心して料理ができるんです。透明だから料理をしていてもネコの様子が見れるのもいいですね」

3階のなかにさらに展開する多層スペース

そして3階建ての家の中でさらにまたネコたちのためにつくられた多層のスペースが展開することに。合板の張られた水平のスペースはネコたちのためのものだ。それらが各スペースにうまく組み込まれ、高さの異なるネコのためだけの動線が幾層にも展開していてネコがストレスなく自由に動き回れるようになっている。

移動するごとに水平レベルだけでなく垂直レベルの風景も変わってネコも飽きることがないのではないかと思うが、外を眺めるのが好きなネコたちのためにさらに外を見るためのスペースも確保されている。

ネコが隠れられる場所もつくった。「ネコって自分の隠れる場所がないとダメな生き物なんです。4匹いるうちの1匹が人前に現れない子なので、来客などがあったときに逃げられるベースがあればいいなとお伝えしたらそのための工夫をしてくださった」(奈々さん)

階段近くから見る。ネコたちは窓まで行ってよく外を眺めるという。
階段近くから見る。ネコたちは窓まで行ってよく外を眺めるという。
ネコたちはDK横の窓からも外を眺める。外は三角形の光庭になっている。
ネコたちはDK横の窓からも外を眺める。外は三角形の光庭になっている。
オスネコのしし丸。
オスネコのしし丸。
メスネコのマル。テレビボードの下に隠れている。
メスネコのマル。テレビボードの下に隠れている。
メスネコのぽん。
メスネコのぽん。
しし丸とマルの娘のあられ。高い位置に設けられたこの場所が定位置だ。
しし丸とマルの娘のあられ。高い位置に設けられたこの場所が定位置だ。
2階への階段途中から見上げる。右下はネコが窓まで移動するために設けられた出っ張り。上にしし丸の尻尾が見える。
2階への階段途中から見上げる。右下はネコが窓まで移動するために設けられた出っ張り。上にしし丸の尻尾が見える。
階段周りにつくられたネコたちのためだけの場所。それぞれ高さレベルが異なっている。
階段周りにつくられたネコたちのためだけの場所。それぞれ高さレベルが異なっている。
3階への階段の途中から見る。あられは手すりの外側に設けられたキャットウォークから自分の定位置へと飛び移る。
3階への階段の途中から見る。あられは手すりの外側に設けられたキャットウォークから自分の定位置へと飛び移る。
廊下の壁に段状のキャットウォーク。正面にはテラスが設けられている。
廊下の壁に段状のキャットウォーク。正面にはテラスが設けられている。
段状のキャットウォークを見上げるぽん。合板の張られた壁の向こう側は主寝室。
段状のキャットウォークを見上げるぽん。合板の張られた壁の向こう側は主寝室。
テラスから3階部分を見る。右が主寝室。
テラスから3階部分を見る。右が主寝室。

もちろん人間も心地よい

もちろんネコのためだけの工夫ではない。ネコのためのものが人間のために考えられたものでもあるのだ。「夫もわたしもシンプルな家が好きなので、木やコンクリートをベースにシンプルなつくりにしてもらったんですが、“木のぬくもりがある家がいい”ともお伝えしました」(奈々さん)

すなわち、ネコの動線上に張られた合板がシンプルかつぬくもり感を与えるのにも寄与しているのだ。そして大きめにつくられた開口がネコたちが外を見るためのものだけではなくて、要望のひとつだった開放感をつくり出すことにもなっている。

この大きな開口のせいで室内はとても明るいという。「とにかく光が入っていいなあといつも思っています。朝は太陽が上がってくるのが見えるし夜も星が見える。雨や雪が降るとネコが不思議そうに見て、人間だけじゃなくてネコたちも季節の変化を楽しんでいるので、大きな窓があって本当に良かったなと思っています」(奈々さん)

息子さんの個室。ふだんはネコが入らないように扉を閉めているため下部を空気が通るように開けられる。吹き抜けの向こうがテラスになっている。
息子さんの個室。ふだんはネコが入らないように扉を閉めているため下部を空気が通るように開けられる。吹き抜けの向こうがテラスになっている。
玄関を入って正面にお母様の居住スペースがある。左の靴箱の上もネコが隠れるスペースになる。
玄関を入って正面にお母様の居住スペースがある。左の靴箱の上もネコが隠れるスペースになる。
階段部分をガラス張りにしてその下にネコのための場所を設けた。
階段部分をガラス張りにしてその下にネコのための場所を設けた。
道路側から見る。玄関前のベンチのあるスペースから裏の光庭へとそのまま行くことができる。
道路側から見る。玄関前のベンチのあるスペースから裏の光庭へとそのまま行くことができる。
ネコが外を眺めるだけでなく、道行く人も外からネコたちを見て楽しんでいる。
ネコが外を眺めるだけでなく、道行く人も外からネコたちを見て楽しんでいる。
爪とぎの上に座ってじっと外を見るしし丸。
爪とぎの上に座ってじっと外を見るしし丸。

絶妙なスケール感の中で距離感も絶妙

竣工後2年近く暮らしてみて空間の大きさがちょうどいいと感じているという。「広すぎると余計なものを置いたり使わない場所があったりということになりがちですが、この家は本当にちょうどいい感じで、どの場所もまんべんなくじょうずに使えているのでとても過ごしやすいですね」(奈々さん)

さらに、その中で人間同士だけでなくネコたちとの距離感も絶妙なのだという。「たとえばこのダイニングで2人でいても3人でいても空間の中での距離感が絶妙でちょうどいいんです。ネコが4匹いますが、いろんなところにうまく分散しているので猫がたくさんいるという圧迫感もありません」。まさに人間もネコもストレスなくそれぞれに心地よく暮らすことのできる家なのだ。

人間のためにも縦方向のレベルの微妙な変化がうまく組み込まれているのが分かる。広めの開口が多く取られているので室内がとても明るい。
人間のためにも縦方向のレベルの微妙な変化がうまく組み込まれているのが分かる。広めの開口が多く取られているので室内がとても明るい。

永嶋邸
設計 アンブレ・アーキテクツ
所在地 東京都豊島区
構造 RC造
規模 地上2階
延床面積 75.63㎡