Architecture
閉じつつも街とつながる家屋根の下にもう一度
屋根をかける
特徴的な2階の空間
「光を室内にたくさん入れてほしい」「本棚をつくりたい」などの要望を、打ち合わせ時に建築家に伝えたという井上夫妻。
こうした要望はごくふつうにあるものだが、土間を大きく取った1階から2階に上がると、屋根の下にもう一度屋根をかけたような、見たことのない特徴的な空間を目にすることになる。
この2階部分では、床にはチーク、天井には木を使いたいという希望が建築家に伝えられたが、コスト面で折り合わず、床材のみをチークとし、天井はラワンとして床の色と近くなるように塗装が施された。
変形形状の天井が濃いめの色合いのため、少し洞窟のような印象もある。「室内は明るくしたいけれど、外に対してあまりオープンなつくりにはしたくないということもあって、包まれている感じを出したいと思った」(建築家の比護さん)のだという。
屋根の下の屋根
屋根の下にまた屋根があるような2階のつくりは比護さんからの提案だった。「周りの街並みが中へと反転して映り込んだような感じで、外に対しては開いていないけれども、街の中で街の人たちと一緒に住んでいるような感じをイメージして提案させてもらいました」
リビング部分はこの屋根が部分的にかけられた形になっているが、ここには井上さんのお母さんが泊まりがけで来られた時などに個室として使えるように可動式のパーティションが組み込まれた。ベッド代わりになる畳の小上がり部分はお母さんのリクエストからつくられたものだ。
心地の良い出窓空間
2階の2つの屋根の間に挟まれた場所に階段があるが、その踊り場の部分は奥さんの要望でつくられたもの。出窓とベンチがセットになったこの空間、大きな開口で明るく、また外へと張り出している分、下の通りとも近くて心地がいい。「本を読んだり昼寝ができたらいいなと思った」と奥さんはいう。
「本を読む場所についてはいろいろとお話をしたんですが、最初に提案したプランでは1階の土間につくっていました。途中でプランが変わり、また1階と2階が分断されたつくりで吹抜けもないため、1・2階をつなぐという意味ももたせました」(比護さん)
1階へと下りるとグラフィックデザインの仕事をされている井上さんのアトリエと2匹の猫のための部屋、そして寝室がある。玄関部分が土間になっていて、同じく床を土間にしたアトリエとつないで仕事で使うこともできるし、お子さんがもう少し大きくなったときに、学校帰りに友だちが気軽に立ち寄れることもできる場所として考えられたという。
奥さんは、昼間2階で過ごしているとすごく気分がいいと話す。「光がよく入って、窓を開ければ風も入ってくる。家事をしていても楽しく過ごせるのでとても気に入ってます」
住宅としてはとても珍しいつくりに見える井上邸。しかし、この見かけの珍しさだけにとどまることなく、住み心地が良く、楽しく過ごせているという。実際に空間を体験してみても、「屋根の下の屋根」の珍しさはほとんど意識されず、過ごしやすく心地よい、そのような体感が印象的だった。
設計 ikmo
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 99.41m2