Architecture

閉じつつも街とつながる家屋根の下にもう一度
屋根をかける

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特徴的な2階の空間

「光を室内にたくさん入れてほしい」「本棚をつくりたい」などの要望を、打ち合わせ時に建築家に伝えたという井上夫妻。
こうした要望はごくふつうにあるものだが、土間を大きく取った1階から2階に上がると、屋根の下にもう一度屋根をかけたような、見たことのない特徴的な空間を目にすることになる。

この2階部分では、床にはチーク、天井には木を使いたいという希望が建築家に伝えられたが、コスト面で折り合わず、床材のみをチークとし、天井はラワンとして床の色と近くなるように塗装が施された。


ダイニングテーブルはプランに合わせた変形のデザインで製作。手前の部分で奥さんが仕事をしたり、娘さんが将来勉強をしたりといったことが想定された。
ダイニングテーブルはプランに合わせた変形のデザインで製作。手前の部分で奥さんが仕事をしたり、娘さんが将来勉強をしたりといったことが想定された。

これで天井は濃いめの色合いになったが、室内は明るくしたかったため壁は白く塗ることに。アレルギーをもつ人がいるため、ホタテの貝殻が入った塗料を選択した。化学物質を吸着し、調湿もできるという。この白色の壁と濃いめの色の天井とのコンビネーションも2階の空間の特徴になっている。

変形形状の天井が濃いめの色合いのため、少し洞窟のような印象もある。「室内は明るくしたいけれど、外に対してあまりオープンなつくりにはしたくないということもあって、包まれている感じを出したいと思った」(建築家の比護さん)のだという。


奥のリビングスペースは開口脇の部分からパーティションを引き出せば区切ることが可能。
奥のリビングスペースは開口脇の部分からパーティションを引き出せば区切ることが可能。
キッチンスペース。その左側の白い部分には水回りと収納が収められている。
キッチンスペース。その左側の白い部分には水回りと収納が収められている。
キッチンから見る。
キッチンから見る。


屋根の下の屋根

屋根の下にまた屋根があるような2階のつくりは比護さんからの提案だった。「周りの街並みが中へと反転して映り込んだような感じで、外に対しては開いていないけれども、街の中で街の人たちと一緒に住んでいるような感じをイメージして提案させてもらいました」

リビング部分はこの屋根が部分的にかけられた形になっているが、ここには井上さんのお母さんが泊まりがけで来られた時などに個室として使えるように可動式のパーティションが組み込まれた。ベッド代わりになる畳の小上がり部分はお母さんのリクエストからつくられたものだ。


天窓から入った光が内部の白い屋根で反射して室内に広がる。左の本棚にはPR関係の仕事をされている奥さんのフランス文学の本やフランス映画のDVDなどが並ぶ。手前のランプシェードはフランスの作家もので「鑑賞できるもの」という趣旨から選んだもの。
天窓から入った光が内部の白い屋根で反射して室内に広がる。左の本棚にはPR関係の仕事をされている奥さんのフランス文学の本やフランス映画のDVDなどが並ぶ。手前のランプシェードはフランスの作家もので「鑑賞できるもの」という趣旨から選んだもの。

左の畳の小上がりの部分は井上さんのお母さんのリクエストでつくられたもの。泊まりこみで来られた時にはベッド代わりになる。
左の畳の小上がりの部分は井上さんのお母さんのリクエストでつくられたもの。泊まりこみで来られた時にはベッド代わりになる。

心地の良い出窓空間

2階の2つの屋根の間に挟まれた場所に階段があるが、その踊り場の部分は奥さんの要望でつくられたもの。出窓とベンチがセットになったこの空間、大きな開口で明るく、また外へと張り出している分、下の通りとも近くて心地がいい。「本を読んだり昼寝ができたらいいなと思った」と奥さんはいう。

「本を読む場所についてはいろいろとお話をしたんですが、最初に提案したプランでは1階の土間につくっていました。途中でプランが変わり、また1階と2階が分断されたつくりで吹抜けもないため、1・2階をつなぐという意味ももたせました」(比護さん)


春や秋には外で朝食も取れるようにと広めのテラスがつくられた。隣の親類の家からは角度により視線が届くが、その他の外部の視線は気にならないように壁を立てている。
春や秋には外で朝食も取れるようにと広めのテラスがつくられた。隣の親類の家からは角度により視線が届くが、その他の外部の視線は気にならないように壁を立てている。

この出窓空間からは1・2階に視線が通るだけでなく、玄関側の壁には上下2つの穴が開けられていてそこからも視線が抜けていく。少し外へと張り出した場所で外を感じつつ、そこから室内もある程度見通すことができる。そんなイメージでつくられたという。

1階へと下りるとグラフィックデザインの仕事をされている井上さんのアトリエと2匹の猫のための部屋、そして寝室がある。玄関部分が土間になっていて、同じく床を土間にしたアトリエとつないで仕事で使うこともできるし、お子さんがもう少し大きくなったときに、学校帰りに友だちが気軽に立ち寄れることもできる場所として考えられたという。


踊り場のベンチからはいろんな場所へと視線が抜ける。
踊り場のベンチからはいろんな場所へと視線が抜ける。
井上さんと飼い猫のしーちゃん。ここは外を感じながらくつろげる場所だ。
井上さんと飼い猫のしーちゃん。ここは外を感じながらくつろげる場所だ。


井上さんは土間でつくられたこの玄関部分が広くてとても使いやすいという。「アトリエの戸を開けばつながってひとつの広い空間になるのですごく気に入ってますね」。さらに、玄関を開ければ外ともつながって気持ちがいいため、アトリエで長時間仕事をしているときなどには玄関のドアを開けたたまにすることもあるという。

奥さんは、昼間2階で過ごしているとすごく気分がいいと話す。「光がよく入って、窓を開ければ風も入ってくる。家事をしていても楽しく過ごせるのでとても気に入ってます」

住宅としてはとても珍しいつくりに見える井上邸。しかし、この見かけの珍しさだけにとどまることなく、住み心地が良く、楽しく過ごせているという。実際に空間を体験してみても、「屋根の下の屋根」の珍しさはほとんど意識されず、過ごしやすく心地よい、そのような体感が印象的だった。


玄関を入った場所に広めにつくられた土間スペース。左に2匹の猫のためにつくられた部屋がある。
玄関を入った場所に広めにつくられた土間スペース。左に2匹の猫のためにつくられた部屋がある。
右側がグラフィックデザインをされている井上さんのアトリエ。
右側がグラフィックデザインをされている井上さんのアトリエ。
左が井上さんのアトリエで右が猫部屋。
左が井上さんのアトリエで右が猫部屋。
玄関ドアの色は夫妻が指定したもの。
玄関ドアの色は夫妻が指定したもの。


隣は親類の家。こちらも比護さんのデザインで両者の関係も考慮しながら同時に設計が進められた。どちらかのプランが変更になった場合は、それに合わせてもう一方の家のプランも調整していったという。
隣は親類の家。こちらも比護さんのデザインで両者の関係も考慮しながら同時に設計が進められた。どちらかのプランが変更になった場合は、それに合わせてもう一方の家のプランも調整していったという。

井上邸
設計 ikmo
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 99.41m2